20 / 63
第20話
2ー8 母様の手料理ですか?
僕は、ナイフで一口肉を切り取って食べる。
うん。
焼いた肉だな。
ただの焼いた肉。
母様は、どうやら素材の味を大切にする派の料理人らしいな。
僕は、もぐもぐと肉を咀嚼した。
肉は、焼きすぎでぱさぱさしていた。
「どうかしら?」
母様がにこにこと笑っている。
「料理なんて久しぶりで。うまく焼けてるかしら?」
「うん」
僕は、もぐもぐと肉を噛んでいたのをなんとか飲み下した。
「おいしいよ、母様」
「ほんとに?」
母様は、若い娘のように頬をぽぅっと赤く染めた。
「私、若い頃から 料理が苦手で。だけど肉を焼くのだけは得意だったの」
うん。
肉は、確かによく焼けていますよ、母様。
ただ、この世には塩だって、胡椒だってあるってこと思い出してください。
僕は、手前に置かれていた水の入ったコップを手に取ると一気に飲み干した。
僕は、なんとか肉を食べ終わるとナイフとフォークを置いた。
「ご馳走さま」
「まあ、ルーシェ、もう食べないの?」
母様が僕には心配そうにきいた。
「まだまだ、あるのよ?」
母様は、山盛りに盛り上げられた焼いた肉の皿を僕にすすめた。
僕は、やんわりと断る。
「もう、お腹がいっぱいで」
「っていうか、朝から焼いた肉ばっか、こんなに食えねぇし!」
ランクルが不満げにいうのをルドが遮る。
「大丈夫です、お義母様。我々が全部、おいしくいただきますから」
マジで?
僕は、ルドの胃が心配だった。
肉は、よく焼けていて、というか焼きすぎですっかり固くなっていた。
しかも、味がない。
僕は、ひそかに決意していた。
もう母様には、料理をさせるべきじゃない。
これからは、僕が料理をしよう。
ルドは、さすがに獣人だけあって肉が好きなようだった。
そういえば虎は、というか野生の獣は肉しか食べないという。
もしかしてルドもそうなのかな?
僕は、じっとルドのことを見つめていた。
「それよりもルド、これからどうする気だ?」
ランクルが肉にかぶりつきながらルドにきいた。
「あいつの嫌がらせで俺たちは、こんな領民もいない荒れた土地に飛ばされたわけだが」
ともだちにシェアしよう!