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第52話

 5ー4 異界の魔女  「んっ・・」  誰かの声がきこえてきて僕は、目覚めた。  泣き声?  僕は、声のする方へと歩き出す。  暗闇の中に青い月がぽっかりと浮かんでいるのが見える。  「ごらん、ルーシェ。月が出ている」  誰かが僕の耳元で囁いた。  「月の出ている夜は、私たちの味方だよ」  「闇が私たちの姿を覆い隠してくれる」  誰?  僕は、辺りを見回した。  けど、誰の姿もなくて、その闇の中には僕一人しかいない。  だけど。  確かに誰かの気配がする。  どこかでクスクスという笑い声が聞こえる。  気配は、一人じゃない。  たくさん、たくさんのざわめき。  「ルーシェ」  誰かが僕の名を呼ぶ。  僕は、見知らぬ丘の上に立っていた。  ここは?  丘の上には、たくさんの十字架が並んでいて。  ここは、墓地だと僕には、わかった。  たくさんの人々がここで死んでいったのだ。  冷たい風が吹く。  僕は、体が震えるほどの寒さを感じていた。  僕は、自分の体を抱き締めて震えていた。  寒い。  「ルーシェ、君は、私たちの友であり、兄弟であり、姉妹だ」  誰かが僕の体をそっと包み込んだ。  それは、一人ではなく。  何かが次々と覆い被さるように僕の冷たい体を包み込んでいく。  いつしか寒さはなくなり、ぽぅっと暖かな温もりを僕は感じていた。  これは、何かの記憶?  僕は、考えていた。  前世の記憶ではないし今生の記憶でもない。  これは、誰の記憶なんだろう?  「ルーシェ」  月の光の下、輝く丘の上にぽつんと一人の少女の姿があった。  それは、褐色の肌をした長い黒髪の少女の姿だった。  誰だろう?  僕は、その子を知らない。  なのに、僕は、その子を知っていた。  『マザー』  僕は、少女のことをそう呼んでいた。  「ルーシェ」  マザーが僕をその美しい青い瞳で見つめる。  「すべての母であり、父であるものよ」  マザーは、着ていた白いドレスの裾を持ち上げると僕にその下にあるものを見せた。  そこには、男の証があった。  マザーは、にやりと笑った。  「私は、1であり全であるもの」  『マザー、僕は』  僕は、マザーに話しかける。  『僕は、行けない』  「私は、女であり、そして、男でもあるもの」  マザーは、服を脱ぎ捨てると僕の方へと生まれたままの歩み寄ってくると僕の頬へと手を伸ばし触れてくる。  冷たい手だ。  僕は、びくりと体をこわばらせる。  「そうだろう。私たちは、死者の国の住人だからな」  マザーは、僕に艶やかに微笑む。  「私たちは、死者。かつて、殺された無垢なる魂」  『マザー』  僕は、マザーに話しかける。  『すまない、マザー』  「お前は、我々を裏切るのか?ルーシェ」  マザーは、僕に問いかける。  『私たち、「異界の魔女の血族を」』  

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