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第53話

 5ー5 僕は、嫌だ!  「お前は、私たちを再び裏切るつもりなのか?ルーシェ」  マザーは、僕の瞳を覗き込んで問いかけた。  「また、私たちを殺すのか?」  『マザー!』  僕は、叫んだ。  『僕は、僕は!』  「私たちは、この地に異界より降り立ったもの」  マザーは、僕を離さない。  僕は、マザーを見つめたまま立ち尽くす。  「覚えているだろう?ルーシェ。この地へと降り立ったときに、私たちは、肉体を失ったことを」  マザーは、僕の体を指先でたどり、僕の腹の上で止める。  「ここから、我々が新しく生まれてくるということを」  『マザー!』  僕は、頭を振った。  『きいてくれ!』  「私たちは、英霊であり、肉体を持たぬものであり、未来にいきるものだ」  マザーの言葉に僕は、息を飲んだ。  「もう、裏切ることは許さない」  『マザー!』  「つとめを果たすがいい、我が子よ。我が兄弟よ」  マザーは、にっと赤い唇を歪ませた。  「お前は、一度、私たちを裏切った。だが、私たちは、お前にもう一度チャンスをやろう」  マザーは、僕の体に触れると、両手を絡ませてくる。  「つとめを果たすがいい、ルーシェ」  『マザー、僕は!』  「ルーシェ」  マザーは、僕の頬を冷たい指先で撫でると、囁いた。  「お前は、我々とこの世界を繋ぐもの。我々のゲートとなるもの」  『マザー!』  僕は、震える声でマザーに告げた。  『僕には、できない!』  「ルーシェ。お前は、我々の可能性だ」  マザーは、僕の耳元で囁いた。  「お前は、一度、我々を裏切った。だが、我々は、再び、お前にチャンスを与えよう」  黒い影となったマザーが僕の目を覗き込む。  赤い唇が動く。  「ルーシェ、愛しい子よ」  マザーは、僕に口づけた。  「『異界の魔女』の愛し子よ、お前は、この世界の者たちに死をもたらし、そして、我等をこの世界へと導くのだ」  『マザー!きいてくれ!』  僕は、叫んだ。  だが、マザーは、答えない。  「いいな、ルーシェ。『異界の魔女』よ」  意識が遠く解き放たれていくのを僕は感じていた。  『マザー、僕は、僕は、もう』  僕は、必死にマザーに訴えかける。  『僕は、もう、嫌だ!』  

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