55 / 63
第55話
5ー7 愛していた
僕は、ルルイエが止めるのもきかずに歩き続けた。
僕らは、ミミックの心臓へとたどり着いた。
そこは、周囲が青い美しい光を発している小部屋だった。
回りの壁は、脈打っていてじっとりとした粘液に塗れている。
「ここは?」
ルルイエが辺りを見回すのを見て僕は、告げた。
「ここは、異界の英霊たちが眠る場所だ」
「異界の英霊?」
僕は、小部屋の中央まで進むとそこに膝をつき両手をさしのべた。
「マザー!」
ぐにゃりと空間が歪み中から水晶の箱の中に入れられた黒い髪の美しい少女の姿が現れた。
「これは、もう一人の僕だ」
僕は、水晶の壁に触れながら囁いた。
「僕ら全ての『異界の魔女』の母であり、父であるもの。そして」
僕は、ルルイエを振り返った。
「この世界に滅びをもたらすもの、だ」
「何を言ってるんだ?ルーシェ」
ルルイエが僕に問いかける。
僕は、にっこりと笑った。
「僕は、『異界の魔女』だ」
「ルーシェ?」
「『異界の魔女』は、この世界の生き物を全て滅ぼし、この世界を作り変えた上で仲間の魔女たちを呼び寄せるためにこの世界にやってきた」
僕は、遠い目をしたまま話し続けた。
「だけど、僕は、仲間を裏切ってしまった。僕は、魔女の宝をこのダンジョンに封じて異界との繋がりをたったうえで自ら死を選んだ」
「ルーシェ?」
「僕を狂わせたのは、一人の人間っだった」
僕は、うっすらと微笑んだ。
「僕は、たった一人の人間のために仲間を裏切ったんだ」
僕は、水晶の中に眠っている自分自身を眺めながら囁く。
「でも、僕は、後悔していない。何度試してもきっと、同じことをするだろう」
「ルーシェ?」
僕は、ルルイエへと手を差し出した。
手のひらの上には、紫色に輝く美しい勾玉があった。
「これを、持っていって」
「これは?」
ルルイエがきいたのに僕は答える。
「これは、『賢者の石』だ」
僕は、ルルイエに石を渡そうとした。
「これをルドに渡して欲しい」
「『賢者の石』だって?」
ルルイエが僕に訊ねる。
「それは、ただの伝説だ!」
「そうだね」
僕は、ルルイエに笑いかける。
「これがあればルドの願いは何でも叶うから」
僕は、ルルイエに告げた。
「だから、この石をルドに」
「あ・・ああ 」
ルルイエが僕の手から『賢者の石』をとると僕にきいた。
「でも、ルーシェ。お前が渡さなくってもいいのか?」
僕はルルイエの問いに頭を振った。
「僕は、もう、行かないと」
「どこに?」
ルルイエが問うた。
「どこに行くっていうんだ?ルーシェ」
「僕は、『異界の魔女』なんだよ?ルルイエ」
僕は、ふっとルルイエに微笑みかけた。
「ルルイエ、君が僕の鍵を開いた。僕は、行かなくてはならない」
「ルーシェ!」
「ルドに伝えて」
僕は、揺らいでいる空間の中からルルイエに囁いた。
「愛していた、と」
ともだちにシェアしよう!