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第58話
5ー10 3年後に
「現に人々は、『異界の魔女』たちと争っている」
母様が静かに呟いた。
「今だって魔女は、森から世界を攻撃しようとしているのではないの?ルーシェ」
「あれは」
僕は、吐息をついた。
「昔の行き違いのせいなんだ」
「行き違い?」
グイードがきく。
「いったいどういう?」
「それは、僕がパートナーとした人間のせいなんだけど」
僕は答えた。
「彼は、僕がかつて愛した人は、この世界を愛し、そして心の奥で憎んでいた。そのせいで僕ら『異界の魔女』の力に方向性が与えられてしまったんだ」
彼は、力を得たとき、この世界を滅ぼすことを意志した。
そのせいで魔女たちの力が世界と戦うことを意志してしまったのだ。
「ルーシェ、お前は、どうやって『異界の魔女』の魂魄を静めるつもりだったんだ?」
ルルイエが僕に訊ねたので僕は低く呻いた。
「それは、『異界の魔女』たちの魂魄の中心となっているものを取り除いてやれば彼女らは静まるはずなんだけど」
「なんだ?その中心となっているものとは」
ルドが僕にきいた。
僕は、いいよどんだ。
「それは」
「言え、ルーシェ」
「それは、その、僕が前世で愛した人・・ルイ、だ」
ルイは。
この世界に来た僕が最初に出会った人間だった。
ルイは、そのとき、世界に絶望していた。
ルイは、山賊の下っぱでちょうどそのとき街の人々に追われて逃げていた。
なんで?
それがルイの思っていたことだった。
なんで、自分がこんな目にあわなくてはいけない?
自分は、ただの下っぱにすぎないのに!
彼は、苦しみ救いを求めていて。
僕は、その苦しみに引き寄せられたのだ。
そして、彼は、僕と契約をはたした。
彼に力を与えるかわりに僕のパートナーとなり『マザー』をこの世界に生み出すために協力してもらう。
それが僕らの約束だった。
「ルイは『異界の魔女』の森の王となった。彼は、森においては最強だ。あの森の中で彼は、全てを手に入れている」
僕は、みんなに告げる。
「僕は、ルイとの契約を解消するつもりなんだ。そうすれば『異界の魔女』たちの魂魄は静まるはずだ」
「契約の解消?」
ルドが僕に訊ねた。
「それは、危険はないのか?ルーシェ」
「危険だと思う」
というか。
契約を解消する代償は僕の命、だし。
でも僕は、それを話さなかった。
話せば、ルドは、それに反対するだろうから。
僕は、微笑んだ。
「でも大丈夫だと思う」
「そうなの?」
母様がっほっと吐息をつく。
「ただ『魔女』の魂魄を静めるためには条件があって」
僕は続けた。
「今から3年後の長月の夜でないと条件は揃わないんだ」
「そうか」
ルドが安堵したかのように大きく微笑んだ。
「じゃあ、その3年後の契約解消の時は、このパーティーでそれに挑もう」
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