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第60話
5ー12 めちゃくちゃにして!
そのルドの手作りらしい小屋は、屋敷から少し離れた場所に作られていた。
というか。
外から見ると小屋というよりも天幕という感じだった。
四角いテントのような簡易小屋。
ルドは、僕を抱いたままその小屋の入り口を潜ると僕を中へと連れ込んだ。
たぶん、朝早くから用意をしていたのだろう。
小屋の中は、しばらく留守にしていたにもかかわらず埃一つ落ちてはいない。
しかも、部屋の四隅にはいい香りのするお香が炊き込められ、丸い大きな柔らかそうなベッドの脇には美しい色取りどりの花が飾られている。
ルドは、僕を中央にあるベッドの上にそっと下ろすと部屋の隅のテーブルへとむかった。
そこには、美しい背の高いガラス瓶がいくつか並べられていた。
ルドは、その中の1つから金色の液体をクリスタルのグラスへと注ぎ、僕の方へと持ってきた。
「飲んで、ルーシェ」
はいっ?
僕は、思わず躊躇してしまう。
ルドの差し出したクリスタルのグラスの中に入っている黄金色の液体は、たぶんグリドットの樹液の混ぜられたお酒かなんかだ。
それは、ルドたちの一族が巣籠もりをするときの秘薬だという。
これを飲んだら僕は、おかしくなっちゃう。
きっと、何もかも忘れてルドを受け入れることしか考えられなくなってしまう。
こわい。
僕は、身体が震えてくるのを感じていた。
僕が僕でなくなっていってしまう。
だけど。
僕は、震える手でグラスを受けとるとそれを唇へと運んだ。
ルドは、僕がそれを飲み干すのを満足げに見つめていた。
樹液のお酒は、甘くっておいしかった。
僕は、最後の一滴までも飲み干し唇を舌で舐めた。
「ルドは?ルドは、飲まないの?」
僕がルドの方へと身を乗り出してきくと、彼は、答えた。
「私が飲むものではないからね。これは、花嫁のためのもの、だ」
花嫁?
僕は、身体が熱くなってきて。
呼吸を喘がせながらシャツのボタンをはだけていった。
僕が花嫁なの?
僕は、なんだか苦しくって呻き声を漏らした。
「ぅんっ・・」
僕は、涙目になってルドを見つめた。
僕は。
僕は、ルドを幸せになんてできないのに。
3年後に来るだろう別れを思うと僕は、涙が溢れるのを止められなかった。
「どうしたんだ?ルーシェ」
ルドが心配げに僕のことを覗き込む。
僕は、ルドの大きな暖かい手にそっと触れると頭を振った。
「ルド」
僕は、ルドの方へと両手を伸ばしてその胸へと飛び込む。
「僕のこと、めちゃくちゃにして」
僕は、今、ルドにめいっぱい愛されたかった。
いつかは、失われる愛おしい番。
だからこそ。
今だけは、ルドのことを離したくはなかった。
僕の愛する人。
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