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第3話 ブルーグリーンっていいます。
きっかけは部活だった。
元々、漫画とかアニメが好きでさ、小さい頃から外遊びよりも部屋の中で絵を描いてるのが好きな子どもだった。
そんな僕が行ってた高校は、部活動全員どこかしらに参加が必須だったから、そしたら選ぶのはやっぱりアニ研かなぁって。放課後、絵を描いてるだけでいい部活なんて入るしかないじゃん?
そんで、人見知りな僕が少しずつ部活にも馴染めてきたある日、女子が持ってきた漫画を何気なく読ませてもらって……衝撃が走ったわけです。
そうです。それが、BLだったんです。
ピュアでさ、切なくてさ、焦ったくて、もう尊さ溢れちゃってて、何これぇってその場で完落ちした。この世界素晴らしすぎるっつって。もうそこから腐り街道まっしぐら。
あ、山本はこの部活で仲良くなった、たった一人の腐男子友達なんだけど、あいつの好きなジャンルは僕には少し刺激が強すぎまして……。
そして僕は僕で、山本は山本で、色々読みまくり、スクスクと腐男子として成長していった。
そして、今回の人生初のサークル参加に至ります。
そんなわけでまぁまぁ平凡なただの普通のオタク男子なんです。
「あの、ポスカもらったらダメデスカ?」
なので、割とイケメンとかに対して免疫ないです。緊張します。まず目の前にイケメンがいることに驚きます。住む世界が違うと思ってます。
「ひゃえ?」
「?」
しかも、そんなイケメンが一冊くださいと言ってきたら、思考停止しちゃいそうです。
「postcard」
「ほわぁ」
わ、すごい。ナチュラル発音かっこいい。
ほら、脳みそあんまり動いてないから、思わず感嘆の声が出ちゃった。
そんなついついこぼれた僕の声にまたその人が首を傾げた。
イケメン金髪。金髪イケメン。とにかく、BLキャラみたいな人が僕のおかしな返事に首を傾げてる。
サングラスしてたけど、コスの人じゃなくて、もしかして、芸能人とか? モデル? なんか有名なの? なんでサングラスしてたの? 怪しい人なの? それとも、何かスパイ的な?
まだ大学生成り立て十八歳ほや保谷がいきなりサークル参加だと? 怪しいな。もしかして、年齢偽ってずっとこの成人指定な世界を徘徊していた輩じゃあるまいな? 調査してやる。とか?
し、してませんよ。
僕も山本も、ちゃんとルールに則って活動しておりますよ。成人指定バリバリの本は今回初めて作ったんですよ。ちゃんとそれまではどこでも未成年、高校生でも侵入可なエリアしか徘徊しておりませんでしたよ。
「あおっぱ。さん、デスヨネ?」
もうわかりません。なぜに僕の創作名を知っているんだ。
「は、ハイっ!」
若干、思考回路がキャパオーバーで、一人喋りが脳内で止まらなくなってるじゃん。
け、けどさ、来ると思わないじゃん? 買いにくる人がさ。男子がサークル参加してるっていうのも珍しいんだろうね。チラチラ見ていってくれる人はいるけど、さ。
「楽しみにしてました」
わ。
へ?
楽しみに?
して、もらえちゃった?
「あ、あり、りが……」
サークル名はブルーグリーン。
今、この会場でこのサークル名を知っている人が何人いるんだろうか。
「この前、SNSに載せてた一コマ漫画もヨカッタデス」
「わ!」
「?」
「あ、いえ、知ってるの、びっくりして」
実は、僕の名前からつけたんですよ〜。
青葉なのでね。
「これが新刊、ナンデスネ」
SNSとかで使ってる名前、あおっぱ。は本名の青葉を少しだけ、ほんのすこーしだけもじってつけた。
ハンドルネームはあおっぱ。
もうほぼ本名だけど。
「あおっぱ。さん?」
「ひゃ、ひゃい!」
そう、あお、に、はっぱで、丸。この句読点の丸は必須です。
「あ、ありがとうございます! えっと、い、一冊、八百円になります!」
「はい。オツリナイヨウニシマシタ。ハッピャクエン」
ナイスです。オタクの心得ばっちりです。
「は、はい! あり、ありがとうございます」
「あの、もし、イイデスカ? あおっぱ。さんのサイン、ホシイデス」
「ひゃ、ひゃえ? サイン?」
コクンと頷いたイケメンさんがスッと長い指でサインペンを差し出した。
商業さんならわかります。壁サーさんとかさ。それならサインを求められるのもわかるんです。僕も先ほどいただきましたから。けど僕の……欲しいですか? 本当に? 本当の本当に?
いります?
「あ、は、はい」
「ここに……」
「ひゃえ!」
僕の初本の裏表紙内側に、人生初のサインをしてみた。
サインの練習なんてしたことないよ。よくある芸能人みたいなのなんて書けるわけないじゃん? かと言って、ただ名前書くだけっていうのもなんですけど。でもでも――。
『あおっぱ。』
色々ぐるぐる考えつつ、別にここに行列ができてるわけでもないのに、ものすごく緊張して、考えて考えて、結局、拝借したペンで自分の名前をシンプルに書いてみた。
けど。
「わぉ! ウレシイデス。ダイジニシマス。ソウサク、ガンバッテクダサイ」
「……ぁ、ありがとう、ございます」
けど、こんなふうに言ってもらえるなんて、ちょっと感動しちゃうじゃん。
「話しは変わりますが」
「はぁ」
な、なんでしょう。あ、もしかしてこれはドッキリでしたか? いや、そのドッキリをするメリットもないようなモブなんですけれども。
「出会いには定理があるのをご存知ですか?」
「へ?」
びっくりした。そのサングラスイケメン金髪さんが、急に低く、澄み切った声で、流暢な日本語と共にそう呟いて。
僕は、その定理をご存知なくて、それで。
「一回目は……」
――ピンポンパンポーン。
館内アナウンスを知らせるチャイムが鳴って、ふと空を見てから、視線を戻した。
「…………あれ?」
そこに、さっきの人はもういなくて。
「…………へ?」
代わりに、緑の葉っぱが置いてあった。可愛いギザギザ模様の、葉っぱ。
「…………妖精?」
小さな葉っぱが、そこにあった。
「…………たぬ、き?」
ほら、たぬきって頭に葉っぱ乗っけて人に化けるって言うじゃん? そういうこと?
「?」
僕は謎めいたそのたぬきさんが置いていった葉っぱをそっと手に取った。
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