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第7話 ドラマチックが凄すぎて

 グリーン、っていうんだって。  グリーン・グレーシャー。  珍しい名前でしょう? って、彼が笑って、その彼の肩越しに見える窓の向こうで揺れる緑の葉っぱが踊るようで綺麗だった。  初めて買ったBL漫画が昨日の、即売会で買った本なんだって。  海外だから、ネットでしか読んだことがないんだって教えてくれた。  僕の漫画が初めての……なんて、嬉しくて、光栄で、感激で、つい大騒ぎしちゃったんだ。って言っても突然踊り出したりとかはしてないよ。ただ嬉しさのあまり変な声で叫んじゃっただけで。  そしたら。  ――コホン。  つい、興奮して声が大きくなったのをどこからかわからないけれど、どこかしらから、諭すような咳払いが聞こえてきた。  グリーンはそんな僕の隣でちょっと申し訳なさそうに肩をすくめて、小さく、その咳払いにまた叱られないように笑った。僕もそんなグリーンの隣で、苦笑いをこぼしてた。 「すごく面白かったよ」 「ほ、ホント?」  資料室だと他の人の迷惑になるから、僕らは外に出て、資料棟の裏手側にある垣根のところに座り込んだ。花壇のレンガのところ。  まだ、話したかったんだ。  だって、僕にしてみたらさ。 「うん。漫画読んでたら、途中何度かSNSに上げていた絵を見つけた。あ、この絵ってこんなふうになったんだって、ちょっと感動した」 「!」  こんなふうに自分の作ったものの感想をもらうことなんて初めてだったから。  だから、そんなふうに感動してもらえることに感動するし、嬉しくて仕方ないんだ。 「あ、あ……あ、り、ありがと……ござ、います」  感動しすぎて、「ありがとうございます」すら言うのが大変なくらい。  顔、あっつ……。 「ヤマは?」 「へ? あ、山本?」 「山本っていうんだ」 「うん」  ヤマは山本のハンドルネーム。SNSとかでは自分のことをそう名乗ってる。安直すぎじゃない? って言ったら、「いいんだよ」だって。別にこの名前で作家になりたいとか考えてないから。趣味の一環なんだ。簡単なくらいでちょうどいいんだってさ。 「あ、いるよ。さっき一緒に昼飯食べてた」 「……彼がそうなんだ」 「あ、うん」 「友達?」 「うん。あ、これ、SNSじゃ言ってなかったっけ。高校の時に同じ部活でさ、そこで仲良くなったんだ」 「あ……えっと、あに……」 「アニメ研究部」  そうだった、みたいなことを英語で言ったのかな。なんかかっこいい発音が聞こえてきたけど、小さな独り言くらいの音量だったからあんまり聞き取れなかった。 「僕は人見知りでさ。けど、山本はすっごい人懐こいというか、人見知りしないタイプ。部活内で気軽に話しかけてくれて。そっから仲良くなったんだ」 「ヤマは漫画は描くの?」 「あ、あいつは小説。山本のことはフォローしてるの?」  グリーンが首を横に振った。  ヤマはフォローしてないんだって。ヤマの方がフォロワーさんの人数多いんだ。呟き面白し、小説書いてるからかな、それともそもそも文才っていうかユーモアのセンスがあるのかも。それから結構フォロワーさんともよく話してるし。必然的にフォロワーさんは多くなっていって。けど、僕はそんなに変わらない。  僕はそういうのあんまりしてないから、ポツリポツリと呟いて、いくつか、いいねってスタンプもらえて。  だから、ちょっと嬉しかった。  グリーンが僕だけフォローしてくれてることに。なんか、なんていうか、僕の、僕だけの、ファ、ファ……ファ…………ンっていうか。 「そ、それにしても、グリーン、めっちゃ日本語上手だね。なんか、日本の人と、話してるみたい。昨日のイベントの時の方が外国人って感じがした。それにサングラスしてたから、モデルがお忍びできてるみたいだったし。なんか、別人だよ。昨日は、僕、びっくりしてさ。開場すぐだったじゃん? 大手さんとか回ってからっていうのじゃない感じだったし」 「あー……」  グリーンはそこで少し困ったように言葉を濁して、そして、自分の足元にある小石を蹴った。格好いいハイカットのスニーカー。白にポイントで鮮やかなグリーンを使っていて、爽やかな感じ。 「緊張してたんだ」  君が? 「今は少しリラックスできてるけど、少し緊張もしてる」  そんなふうには見えないのに。 「緊張すると日本語でどう話せばいいのか、ちょっとわからなくて」  ほら、今も、すごく綺麗に日本語で話してるし。 「サングラスは変な顔してました、から」  あ、ちょっと日本語が変だった、かも。 「緊張シテ……」  ほら、また、少し外国人っぽい発音。 「君に会いに、日本に来たカラ」  グリーンの顔、ほっぺたが、真っ赤だ。 「昨日のイベントは君に会うために行ったカラ」 「……ぇ?」  その時、建物と木々の隙間をすり抜けるように風が吹いて。 「出会いの定理、シッテマスカ?」 「あ、それ、えっと……調べたよ。一回目は突然」 「そう、ネットサーフしてたら君の絵を見つけた。突然、遭遇した感じがした」  わ、すごいな。僕の絵はこの風よりもずっと遠く、海を飛び越えて君のところまで行けたんだ。 「二回目、は、偶然、ネ」 「あ、うん」 「あおっぱ。が、一度、上げた自撮り写真、偶然、ミタ」 「あ」  それ、ちょっと前の。一瞬、あげたんだ。なんか、山本とタグ遊びをしてて、自撮りをあげるってなって、横顔だった。朝の変な時間帯だったし、それなら人もあんまりSNS上にいないからいいかもって、一瞬上げて、それで恥ずかしいから、すぐに下げた。 「三回目、は、必然。昨日のイベントに行けば、必ず君に会えるって思って」 「……」 「それで日本に来た」 「……」 「出会いの定理、君と出会うための」  資料棟の周りの木が大きく風に揺れている。ざわざわって。 「キミのコトが、スキ……だから」  ざわざわって、して。 「君に会いたくて、日本に来た」  ドラマチックすぎるセリフに、ドラマチックに揺れる木々に、映画の中にでも迷い込んじゃったような気さえした。

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