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第9話 お前の可愛いとこなんて

 告白された……って、びっくりしながら、びっくりしたままうちに帰ってきた。 「ただいまぁ」  しかもすごいイケメンで大学でも大人気の人に。海を渡っての、ものすごいロマンチック告白を。  びっくりしぎて忘れ物連発だった。  カバン忘れたし。講義がところどころ抜けてるし、テスト大丈夫か? 大丈夫じゃない気がする。なんか途中大事なとこスポーンって抜けたし。電車に乗る時、駅に入る時も出る時も改札で通せんぼされたし。入れませんよーって。そりゃそうです。かざしたの、スマホですから。カードじゃないですから、そりゃ通れません。  そんなこんなでようやく帰宅した。  カバン置いて、ずっと握りしめていたスマホをベッドに腰掛けて開いた。 「あ……またナイス……もらってる」  昼間呟いたとっても些細で他愛のない独り言に、アイビー、さん、つまりグリーンから。 「……」  人それぞれ、好きなジャンルってあるじゃん。ジャンルあるじゃん、って、駄洒落みたいになったけど、そうじゃなくてさ。  少年漫画でなら格闘系、スポーツ系、ラブコメ系、などなど。あ、ファンタジーっていうのもあった。もちろん少女漫画にだって、映画にだって、いろーんなジャンルがある。  僕の場合、ほのぼの学園もの系が好き。萌えがとにかく詰まってる感じの。  読んでるとさ、ほわほわぁってしてきて、とにかく幸せな気持ちになれるんだ。  このこのこのー!  って叫んで、枕にぼすぼすと鉄拳食らわしたくなる感じ。  廊下を「ぐぎゃああああ!」って叫びながら、のたうちまわりたくなる感じ。いや……ホラー映画のゾンビとかではなくて。  でもつまりは読んでるとそんな症状が出るくらいに、幸せと萌えが詰まってる感じのが好きでさ。 「あ、単話じゃなくて単行本版出てる! うわぁ、電子特典ありじゃん! ラッキー!」  自分の部屋でベッドに転がりながら、いつも通りに、ネットでBLの電子書籍を探してた。  これずっと読みたかったんだよ。  主人公はすごい人見知りのおとなしい男子でさ。幼馴染に突然告白されるんだ。ずっと好きだったって、でも、その幼馴染っていうのがすごい人気者で、主人公はそんな人気者のあいつが僕のことを……なんて信じられないってさ。  けど、幼馴染にしてみると、おとなしくて、人見知りでよかったって思ってる。実はすごく可愛いくて、みんながあいつの魅力に気がつかないようにっていっつも気が気がじゃなくて。  ――お前の可愛いとこなんて、俺だけが知ってればいいんだよ。 「……ぐっ」  これこれ、こういうの。 「ぐは、あ……あ……あっ」  瀕死状態になっちゃうって。こんなの萌えの塊で頭をどーんって、心臓のとこ、ズドーンって、されたようなものだって。 「…………可愛いとこ、かぁ」  グリーン僕のSNSで自撮りを見てくれたんだっけ。  山本とタグ遊びで上げた自撮り。って言っても、すぐに消したけど。それを見て、なんてこと、ある?  BLだったら、よくある鉄板設定だよね。  イケメンがさ、地味キャラ男子に猛アタック、みたいなの。  でもさ、実際にそんなのないと思わない? なんで、モテて仕方ないすっごいイケメンが、イケメンでもない日陰で地味に生きてく男子を好きになるんだ。  まず、どこを?  そして出会わないでしょ。  出会うっていうか、意識されないでしょ?  メガネをとったら超可愛かった、とか?  いやいや、そんなの、イケメンの周りにはメガネしてたって可愛い子が山ほどいるじゃん。容姿で目を引くポイントは、リアルにはないでしょ。  そして僕はメガネしてないし。  じゃあ、癒し?  グリーンなら、可愛い女子がそれこそ、こぞって癒してくれます。私が私がって、たくさん挙手上がります。  ほら、出会わない。  というか出会う必要がない。  僕よりもずっともっと可愛い子も、癒しになる子もたくさんいらっしゃるから。リアルには。  グリーンの周りにならたくさん、いるじゃん。 「……あった」  こんなさ、写真の自撮りすら不慣れた地味キャラの僕なんて。 「…………」  やっぱりグリーンに好かれる要素なんてひとつもない気がするのに。 「……変な顔してる」  日本人ですから、鼻なんてグリーンに比べたらすごーく低くてさ。頭の形だけはいいかもしれない。髪を切りに行くとそれをよく褒められるから。いい頭の形をしてますねって。中身は平凡ですけどねっていつも内心答えつつ、「えへへへ」って愛想笑いだけして終わる。頭の形は僕の数少ない自慢の一つ。 「頭の形で好かれたのか?」  そんなわけないか。  そんなわけないだろうけど。でもそのくらいしかいいところなんてなそうな、数ヶ月前の自撮りを見ながら、あぁ、明日から大学で見かけたらどんな顔をすればいいんだろうって考えた。  ――困らないでいて。 「…………そんなの無理ゲーですけど……」  もうすでに困ってますって、ベッドに転がり天井へ向かって目を閉じて、小さく溜め息をついた。

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