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第10話 思い出

 好きって言ってもらえた。  すっごいかっこいい男子に。別に驚かないよ。あ、いや、僕みたいな地味キャラがあんなイケメンに告白されたことは驚いたよ。そうじゃなくて、そっちじゃなくて、男子に告白してもらったことはそう驚かない。  男同士?  なんて否定ももちろんしない。でも、僕は恋愛ってさ、ダメなんだ。  ふと、思い出しちゃった。  ――あ、ごめん、なさい。  そう謝ったら、泣かせちゃったっけ。  女の子を泣かせるなんて最低なことしちゃったって、僕も泣きそうになっちゃったっけ。  でも、なんかさ……あの時は。 「…………」  あの時のことを思い出すと、胸のところがもやもやするから好きじゃない。だから普段はそっと閉じちゃってる。  リアルな恋愛は、なんか大変だなぁって思った。  こうやって壁になって、床になって天井になって、眺めてる方が楽しくていい。  むかーし、っていっても一昨年だけど、女子に告白された。  びっくりした。  それがとにかく一番出てきた感想だった。  帰りのホームルームが終わって、部活行こうかなって思って廊下を出たら、その子がいて呼び止められて、なんだろうって思った。言伝を頼まれるんだろうな、くらいで。  ――はい。  そう返事をしたら、真っ赤になって俯かれて。  ちょっとだけいいですか? って、校舎の裏庭に連れてかれたんだ。  おとなしい感じの子で、一年の時にクラスが一緒になったことのある子だった。班が一緒になった時にグループ課題とかを一緒にやったりして、その時、少し話しはしたりしたけど。そのくらい。  僕は人見知りだから率先して友達を作るほうじゃなくて、しかも女子となんて人見知り度倍増するから。  好きって言われてとにかく驚いて、自分の彼女ができるの? とか考えて慌てて、顔面が熱くて仕方なかった。  うわー!  って、心の中で思いながら告白をOKしたんだ。大いに浮かれてた。モテたことなんてなかったから。好意を寄せられたっていうことが嬉しかった。  それで部活の後に一緒に帰ったりとかを数回。  デートを一回。  とりあえず大きな街まで行って、映画見てご飯食べて、ぶらぶらして、夕方、歩き疲れてベンチでジュースを飲んでた。映画面白かったね、とか話しながら。  そこで、キス、する感じになったんだけど。  反射的に、だった。  人があんまりいない公園で、下校の時みたいに話しをしてた。彼女のほうが何かを意識してるのがわかって、僕は、なんかその雰囲気が嫌で、わざと明るく振舞ってた。自分が見た面白かった番組の話とか、とにかく笑って話し続けて。その時、ばたつかせた手が彼女に触れて。  反射的に、彼女を避けるように手を引っ込めちゃったんだ。  僕が、彼女が意識していることをなんとなく気が付いたように。  きっと彼女も、僕がそんな空気を避けようとしてることに気が付いたと思う。  一瞬、悲しそうな顔をして。  僕は、つい、謝ってしまった。  そしたら、彼女は悲しい顔をした。  悲しそう、じゃなくて。  悲しい顔を。  それっきりだった。そこで「バイバイ」ってその子が言ったっきり。  イヤ……だったんだ。  そういうの、なんか、恥ずかしくて、イヤだった。  その子のこと、可愛いとも思ったし、好かれてるのもすごく嬉しかった。一緒に帰るのも別に構わなかったし、その日のデートも楽しいと思った。  けど、そういうことはしたくないっていうか、恥ずかしいのと、恥ずかしいって思てる自分を知られたくないっていうのと、なんだろ、いたたまれないくらい恥ずかしくてたまらなかった。  僕はきっと誰かと付き合うとかできない気がする。  だから。  グリーンには今答えないでって言われたけど、でも、今も、この先も、そういうの……。 「はぁ……」  あんまり思い出したくないこと思い出しちゃった。  別にその女の子と口論したわけじゃないし、すごく悪く言われたわけでもないけど、あの瞬間のことを思い出すの好きじゃない。  恥ずかしい気持ちになるのも。  外用じゃない自分に触られるのも。  好きじゃない。  きゅっと口を閉じて、そのまま顔を上げると、もうそろそろ大学に着くところだった。  大学行きのバスに揺られて十分とちょっと。  ここで降りる人が大半なんだし、降りる人はこの大学に行く人ばっかりなんだから、正門の真前にすればいいのに、どうしてかちょっとだけズレたところにバス停があるんだ。  ほら、ゾロゾロと僕を含め、このバスに乗り込んでいた人の大半がやっぱりここで降りていく。  ちなみに大学付近にあるワンルームにはうちの大学生がほとんど住んでるらしくて、もう寮にした方がいいんじゃないってくらいなんだって。  そのバスを降りるとみんながみんな同じ方向へと歩き始めた。 「おはよー。同じバスだったんだな」 「あ、山本」 「はぁ、激混み」 「うん」  走り去ったバスはもうガランとしていた。 「あ、そうだ、あの留学生、いただろ?」 「あ、うん」 「あの後さぁ、食堂でいなくなった後、隣にいた女子が話してたんだけど、日本文化学科なんだってさ」 「……へぇ」  そう、言ってたっけ。日本の文化がすごく好きで、それを学んで仕事にしたいって。 「すげぇんだよ。入試、ダントツの好成績で入ったらしいぜ」 「へぇ」 「女子が噂してた。っていうか、どこでそんなの知るんだろうなぁ」 「……うん」  すごい、よね。サングラス取ったらイケメンじゃなかったです、とかでもなくてさ。将来設計しっかりしててさ、イケメンで、それでいて、頭も良い。 「でも、あそこで遭遇したってことはBL好きなんだもんな。友達になれたりして。いや……無理か。なんか住む世界が違う感じがするもんな」 「……」  うん。  俺もそう思うよ。  だから、どうして、僕のどこをスキになれるんだろうって、BLの世界でもないのにさ。  不思議で仕方ないんだ。

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