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第11話 ドウシテワカラナイ?

 相手の気持ちなんてさ、見えないじゃん?  だからこそ発生する『両片想い』の至高っぷりったらないんです。  ――お前さ、好きな奴とかいるのかよ。  ――い、いるよ〜、まぁ……ね。  この、「い、いるよ」っていう、この戸惑ってる感?  普通に何も気持ちがなければさ、友達にただ訊かれて、ただ答えるだけならさ、こんなふうに言葉がつっかえたりしないでしょ?  でも、しちゃう。  好きだから。  そんで、訊いた方もさ、もう少し、普通の友達なら、普通に訊かない?  お前、好きな奴いるんだってぇ? なんだよー。俺に相談なしかよー。とか言って、ブーって膨れたりなんかして。友達なら相談とか少しくらい教えてくれよなぁ。俺全然知らなかったぜぇ。みたいな?  でも、不貞腐れちゃう。  好きだから。  もうこの二行で『両片想い』のフラグが立つわけです。尊さ、始まっちゃうわけです。  そんでお互いにこれだけフラグ立てながらも気がつかないっていうのが醍醐味なわけです。  ――へぇ……どんな奴だよ。  ほら、ここで、めっちゃ知りたいけど知りたくない感。  ――んー……大学の? 奴?  ほらほら、ここで、目の前にその好きな奴いるんですけど。君なんですけど。言えるわけがないんですけど。っていう返答に困ってる感。  何回読んでも楽しいです。  何千回でもいただけます。ご馳走様です。  しかもこの王道設定を美麗な絵に繊細な表情、細部にまでこだわってる画力の、この先生で読める幸せ。  最高です!  ――へぇ、大学の……俺の知ってる奴?  知ってるも何も君ですから。その人。  でも気がつかないんだよね。だって相手の気持ちなんて見えないじゃん? 胸のところにハートがあって、そこに色でもなんでも気持ちを表すものがあればわかるけど、見えないからさ。わかんないんだよ。そこが――。 「…………」  気持ち、見えればいいのに。 「ハロー」 「!」 「あ、その絵、青葉の好きな先生」  グリーンほどの陽キャが俺なんかのどこが好きなのか見えれば。 「ごめん。スマホで漫画を読んでたんだね。覗こうとしたわけじゃないんだけど、見えちゃった」  グリーンは肩をすくめて謝ると僕が座っていたベンチに座った。隣に。 「今日は天気がいいね」  そう言って、六月の梅雨真っ只中とは思えない晴天に口元をキュッと上げて笑ってる。すぅっと通った鼻筋、綺麗な髪の色、瞳の色、どれをとってもやっぱり「すごい」のに。 「……あの」 「?」 「あのさ、昨日の……その……」  君に好かれそうな理由が。 「青葉のことを好きって言ったこと?」 「!」  サラリと言い当てられて、サラリと、また昨日と同じ気持ちの言葉を告げられて、ベンチの上にぴょんっ! って気持ちが正座をする。なんか、こう、身構える。 「ぼ、僕のどこをって……」  だってさ、すごい人気者で、容姿端麗で、女子選び放題じゃん。  男子枠で見たってさ、 「建築科の、知らない? すっごいイケメンがいるの。イケメンっていうか美形? モデルとかやってるって噂聞いたことあるくらい。だ、から、その、男、でもさ」  もっとかっこいい人いるじゃん。  グリーンなら、選び放題じゃん。 「青葉が好きなんだ」 「! だ、だから、なんで」 「そんなの可愛いからに決まってる」 「は、はぁ?」  どこが、ですか。  なんでそんな「え? ドウシテワカラナイ?」みたいなキョトン顔するんだよ。ワカラナイヨ。ちんぷんかんぷんだよ。可愛いなら、昨日、グリーンの隣にいた女の子の方がずっと可愛かったじゃん。僕なんかより。おしゃれでさ、あんな子と都内のおしゃれなカフェとかでお茶してみなよ。もうそれだけで雑誌の一ページみたいに絵になるじゃん。可愛いい子、いたじゃん。綺麗な人だって、山ほどいるじゃん。 「面白なぁ。青葉は」 「!」  また、ぴょんっ! って、気持ちが飛び上がって正座した。  だって、なんですか。足を組んでさ、その膝小僧に肘ついて、こっち見ながら「……クス」って笑うとか、映画のワンシーンですか? BLコミックの美麗一コマランキング上位の絵ですか? もう、わけわかんないんですけど。 「でも、嬉しいな」 「?」 「困ってくれてる」 「は、はい? 何言って」  また笑った。グリーンが笑うと、さ。なんか、ほらキラキラって光の粒子が舞ってる気がするんだ。そんなのドラマの中とか漫画の世界のことだと思ってた。山本が笑ったってそんな粒出てこないし、舞ったりもしない。けど、グリーンが笑うと。 「困ってる顔の青葉も可愛い」 「!」  ほら。また、舞った。 「今度の週末、暇?」 「ぇ?」 「カフェでランチしない?」 「へ?」 「さっき、教えてもらったんだ。同じ学科の女の子に」 「はひ?」  それって、多分、カフェを紹介されたんじゃなくて、誘われたんだよ。グリーンが、その子に。 「マスカットのパフェがすごく美味しいんだって。青葉。葡萄好きでしょ? 前にSNSで高級マスカット食べた時のこと呟いてた。それにスイーツも好きだから」  それ、シャインマスカット。去年、親戚からもらって、写真撮りまくって呟いたっけ。初! 我が家にシャインマスカット到来! っつって。 「一緒に行こう」  相手の気持ちは見えない。  そのグリーンと同じ学科の女の子がそのマスカットスイーツ一押しカフェを教えてくれた理由なんて。 「青葉」  グリーンが僕のどこをどう見て、どうなれば、このチビ助で地味な僕を可愛いと言えるのか。可愛いと言って、そんな光の粒子飛ばしながら笑えるのか。  気持ちなんて、見えないから。  ――困らないでいて。  そう言ってたくせに翌日僕を困らせまくってるじゃん。もうめっちゃ困ってるんですけど、っていう僕の気持ちも、見えない。

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