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第12話 サングラス越し、透けて見える君の気持ち
パフェ?
カフェで、パフェ?
男、二人で?
パ、フェ?
――さっきネットで調べたんだ。それで、見てみたら、クーポンとかあって。半額チケット当たったから。ね?
ね? って、さ。
すごくない? クーポン、しかも半額になるのが偶然当たるの? どうやって? イケメンだとそんなところからして陰キャと違うの?
っていうか、男二人でカフェでパフェって、なんか絵面すごくない? ない?
コンビニに男子二人が連れ立ってやってくるのとは訳が違うでしょ? ほら、来た。ちょうど、若い男子が二人、あはははあはははって笑いながら来たけどさ、こういうのとは違くない?
「ぃらっしゃいませぇ」
「今日、何かあったの?」
「!」
コンビニのバイト中、よく同じシフトでコンビみたいになっている坂部(さかべ)さんのドアップが視界に飛び込んできた。
「あ、いえ……」
違う大学の四年生。でも実は二回目の四年生。つまり卒業はできなかった、らしくて、「人生色々だよねぇ」と「笑える話だよね」が口癖。ふわふわな猫っ毛とふわふわな笑顔の人で、人見知りの僕にも気さくに話しかけてくれるコミュニケーション能力の高い人。そんで、僕も色々話せてる数少ない人。
「まさか! この前、教えてくれたカップリングに何か嵐の予感?」
「いや……それで、そんな難しい顔には……」
「あははは、そっかぁ」
数少ない色々話せる人だから、僕が腐男子なのも知っている人。その話をした時はいつもの口癖の「人生色々だよねぇ」がちょっとアレンジされて「好みも人それぞれだよねぇ」って返事が返ってきた。
「なんだ。BL漫画のことで悩んでるのかと思った」
「いや……別に……」
「だってすごい眉間に皺寄ってたからさぁ」
そう、だったか、な。
指摘されて、ふと自分の眉間を指で押してみた。だって、困ってるんだ。困らないでくれ、って言ってたのに、困ることをするグリーンにさ、困ってるんだ。
「まぁ、人生色々だよねぇ」
「……」
「あ、ほら、じゃあ、俺がレジしとくから、品物の前出しお願いできる?」
「あ、はい」
そんな困ってます感が眉間の皺となって出現してしまう僕じゃ、レジに来たお客さんを困らせてしまうかもしれないって思ったんだろう。坂部さんが代わってくれた。品物の前出しなら、どんなに眉間に皺が寄っていても、真剣に取り組んでるな、ふむふむ、ってくらいに思ってもらえるだろうから。
でもさ、だって、仕方ないじゃん。
あーんなイケメンにさ、告白されたことも、アプローチ? なるものをされたこともないんだもん。普通にしているっていう、その普通がさ、わからないんだ。
「いらっしゃいませー」
レジでテキパキ仕事をする坂部さんみたいなコミュニケーション能力が僕にあれば、こんなふうに眉間に皺、よらないのかな……ってさ、考えるんだ。
連絡はSNSのダイレクトメールのところでやりとりした。待ち合わせは午後の二時。ちょうどおやつの時間くらい。場所はうちの大学へ向かうバスが来る駅のとこ。
本来なら、グリーンにそのカフェを教えてくれた女子がここで待っていたかっただろう待ち合わせ場所。
「いい天気になってよかった」
そこにモデル感がすごすぎて、すごーく目立っているグリーンがいた。
「わぉ、青葉の私服」
サングラスをしててもはみ出ちゃってるイケメン感がものすごくて、初夏の午後の日差しにキラキラ、ギラギラしてる。
「い、いつも大学でも私服着てるケド」
「うん。でも、今日は、俺とカフェに行くためにわざわざその服を着てくれた」
「! な、なんか、裸族みたいに言わないでよ」
「あはははは、裸族」
裸族っていう日本語もわかるんかい、って、胸の内でだけツッコミをした。だって、すごい視線がさ、すごいんだよ。グリーンへの視線が。みんな、芸能人かな? 俳優? ってただの一般人のグリーンを眺めて、どこかで見た事のある有名人に違いないって一生懸命思い出そうとしてる。
「さ、行こうか! マスカットを食べに」
「あ、ぁ、うんっ」
きっと、すごく変な組み合わせなんだろうなぁ。でこぼこ感すごいんだろうな。絶対に芸能人でしょ? っていうイケメンと、ちんちくりんのチビ助ってさ。
こういうのBLでもよくあるシチュだけど、こんなに居心地が――。
「こういうシーン、この前、読んだBL本にあった」
「え?」
「青葉の知ってる作家さんの。ほら、この前年下攻めのカフェ店員の」
「あ、それ! 知ってる。あれ、すごいドキドキした」
「わお……」
いいシーンだったんだ。モジモジしてる受けを攻めが余裕っていうかゆとりあるエスコートでさ。
「今の俺もそう」
「……」
「ドキドキしてる」
そう言って、クシャリと笑うグリーンの目元が光に透けて見えた。サングラス越しだけれど、見えた。
「……ぁ」
「? 青葉?」
言ってた。
―― サングラスは変な顔してました、から。
即売会の時もサングラスしてた。
―― 緊張シテ……。
そう、言ってた。
「どうかした? マスカット、苦手?」
「ううん」
今も、緊張してるのかもしれない。サングラス越しでも日差しで透けて見えたグリーンの目元は少し引き攣ってて、ちょっとだけ、だけど、ホント、ちょっとだけなんだけど、面白い顔してたから。
「なんでもないよ」
イケメンなのに面白い顔してたから。
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