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第14話 したりしてたり

 こういうのって高校生用のイベントじゃないの?  ――えぇぇ?  ってさ、つい、そんな声が小さく溢れたよ。もちろん、教室の端っこで、誰にも聞こえないくらいの小さな声で。大学生になったらこういう自分が苦手はイベントももうないジャーンってのんびり学生生活を送れると思ってたもん。  だから、不意打ち食らった感がものすごくてさ。 「まぁ、俺らには縁遠いイベントだわなぁ」 「ホント……」  少しよれよれなTシャツにハーフパンツの山本が退屈そうにあくびをして、中庭の芝生の上に直で座り込んで足を放り出した。 「チクチクするな。芝生」  今度はそう呟いて、あぐらをかいた。もうその体勢になると、リラックスしてるただの男子でしかない。だって、それ家着だし。うちで一緒に篭って原稿とかやったり、部活のコピ本作る時にも着てたの見てるし。  運動用ウエアなんて持ってないに決まっているって、言い切って、いつもの家着をそのまま持ってきたんだって。だから、このよれよれ感は運動をたくさんしたからじゃなくて、家でリラックスタイムをたくさんこの服ですごしたから。  僕ら、完全インドア派に運動用の洋服なんてあるわけがない。高校の時は体育着があったから別によかったけど、大学でさ、それを着るのはちょっと……流石に……常日頃からダサい僕でも、ダサすぎるってわかる。  となると運動用に着られる服なんてない。  っていうか、なんで、大学生にもなってそんなイベントが開催されるんだ。  球技大会なんてさぁ。  普段、ランニングもしないし、ウオーキングもしない。歩いて徘徊するのはネットの世界だけです。  休日、バイトがなければ部屋に篭りっきりで全然いられます。むしろ大歓迎です。油断したら家から一歩も出ずに日暮れを迎えられます。  そんな僕らですから、僕も家着を運動用として着るしかない。 「はぁ」  そんなスポーツイベントとは縁遠い僕らは暇で溜め息とあくびを交互に零していた。 「けど、まぁ、いいんじゃないか? 俺ら、ホント、放っておくと日光浴全然しないから」 「まぁね」 「あ、すげ……俺この人の絵好きなんだよなぁ」 「え? 誰々?」 「この人」 「あ、知ってる。めっちゃ上手だよね」  なんて、部屋の中でだべってる時と大差ない会話をした、その時だった。 「……あっち、すごいね」  なんだろう。すごい歓声が聞こえてきた。 「ホントだなぁ」  一箇所、向こうのほうからものすごい歓声が上がった。 「あ。あれ、バスケじゃないか?」 「バスケ」 「あ! あれだ! わかった!」  山本はその歓声がなんなのかわかったらしく、パッと表情を切り替えてから、立ち上がり、芝生がくっついたルームパンツを二度、三度、手で払った。 「あおっぱ。ファンのあのイケメン外国人だよ」 「え? あ、グリーン?」 「そうそう。お前、珍しいな。そういう名前ってあんま覚えないじゃん」 「あー、まぁね。ちょっと話とか、したりしてたり」 「したりしてんの?」  まぁ、うん。って頷いた。山本はもちろん僕と同じ腐男子だから、そういうのないけど、でも、僕がいうのもおかしいことだし。  その、あの。  つまりは。  僕のこと好きらしい、とかなんとか。  きゃあああああ!  ドラマみたいな歓声が上がって、俯いていた僕はパッとその声に呼ばれるように顔を上げた。 「……わ」  思わず声が出ちゃった。  ホント、ドラマみたいだ。 「すげぇなぁ」  そう言って山本もまるで花火でも見上げるみたいに空を仰いだ。  僕も、空を見上げた。  その空には淡い金色の髪が陽に透けて、いつもよりもお日様みたいな明るい色で輝いていて。けれど、黒いTシャツははためくと、まるで大きな翼を翻して空を飛ぶ鳥のようでもあって。  もちろん、服だって、僕らなんかとは雲泥の差。普段着なのに、僕らと同じTシャツハーパンなのに、何かがかっこいい。どこかが素敵。そして、力んで、精一杯のスポーツウエアじゃないあたりがまたなんとも。  そりゃ、歓声も上がるよ。  中学の頃、すっごい好きだったバスケ漫画みたいだもん。  レイアップシュートがさ、すっごいかっこよくて、僕もあんなのできたらいいのになぁって思ったっけ。けど、縄跳びの二重跳びが渾身の一回ずつしか飛べない僕には到底無理だろうと、中学生なりに思ったんだ。 「!」  びっくり、するってば。 「あ! すげー! がんばれー!」  山本が手をブンブン振ってグリーンたちに声援を送った。  僕は、グリーンがその声援に答えるようにこっちを見てにっこり笑われて、飛び上がって、手を振り忘れた。それから、声援もタイミングが掴めなくて言えなかった。 「こりゃ、悲鳴も上がるわなぁ」  そう山本が感心した矢先だった。  きゃあああああああああ!  一際高く、空を突き抜ける黄色い悲鳴。  グリーンが相手チームのドルブルを止めて、それでもまだキープする相手のドリブルに対して手をシュッて出して、シュパッって奪って、ダダダって走って、シュシューって。  もう語彙欠如半端ない。 「おおおお! すげぇ! 本場仕込みってやつなんかなぁ」  し、知らない。  でも、バスケットをしているグリーンにその場の全員がものすごく盛り上がっていた。そのくらい、びっくりするくらい。 「ウヒョー! ドルブル、はっや!」  そのくらい、かっこよかった。

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