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第17話 雨降り晴れわたる
いっつも思うよ。
ここのバス停を使う人はほとんど、というかこの一か月とちょっとの間、このバス停に限っていえば、うちの大学の生徒しかいないんだから、もう少し大学の近くのバス停にすればいいのにって。
「大学の目の前だったら、グリーンもそんなに濡れずにバス乗れるじゃん? もう少し大学の近くにバス停設置しればいいのにね」
「……」
「グリーン?」
「! あ、うん。そうだね」
「? あ、すごいちょうどだ。ラッキー。バス来たよ」
グリーンはイケメンすぎて神様にさえ好かれてるのかもしれない。
一か月以上ここを使って通っているけれど、バス停に辿り着いたと同時にバスがやってくるなんて初めてだった。そんなに本数が多いわけじゃないバス路線だから、頻繁には来てくれなくて、いつも待つのに。
しかも僕ら以外誰もまだバス停には来てなくて、乗ったらお客さんも多くなかった
バスの中も静か。
なんだか僕ら専用みたい。
そのバスに揺られて約十分。歩けないこともないけれど、歩いたらちょっとしんどい距離。
そしてバスが駅前のロータリをぐるりと回って停車した。
「バスに乗ってる間に服、少し渇いたね。グリーン寒くない?」
「全然」
テクテク歩いて振り返ると、駅を見渡していたグリーンがパッとこっちへ顔を向ける。
「グリーンは?」
僕はここから電車なんだ。そう遠くはないんだけど駅をいくつか行って。実家から通ってるから。
「え?」
「こっから。僕と同じ路線? それとも駅近?」」
「ぁ……えっと」
「?」
いつもハキハキと話すグリーンが珍しくモゴモゴしてた。
「? どうかした?」
「あー……俺、大学の近くのワンルームマンションだから」
「え? えぇ?」
でも、バス、乗っちゃってた、じゃん。
「な、なんで?」
大学の近くなら乗る必要ない、じゃん。
「あー……青葉が完全にバス通学って思ってそうなのが、なんか可愛くて」
なんじゃそれ。
「大学の近くにワンルームを借りてる」
考えたら、そうだよね。そう多くはないけれど、うちの大学にも地方から来てる人はいて、そんな人は大概、大学近くのワンルームマンションを借りてる。電車とバス両方使うような距離なら、近くに借りるっていう人も少なくないって。
僕も、それに山本も自宅から通ってるから、なんかみんなバス乗って電車乗って、みたいな感覚でいたけど、そうだよ。それにグリーンは海外からここに来たんじゃん。実家は海の向こうだよ。
「じゃあ、バス乗らなくてよかったんじゃん」
「そうなんだけどね。駅のほうって普段来ないから。ちょうどいいよ。散歩がてら」
こんな雨の日に?
散歩?
「青葉は電車、でしょ? 時間平気? 乗り過ごしたりとか」
服、濡れてさ。
傘からはみ出して、もっと近くに来ればいいのに、そうしたら僕が濡れちゃうからって。
傘だって。
そっか、そうだよ。自宅から大学が近いから持ってなくてもいいかなって思ったんだ。だから持ってきてなかったのに、用事があるわけでもないのにお金払ってバス乗って。
「あー……もしも、もしもだけど青葉が用事とかなくて、さ。少しどこか寄ったり」
「……」
変なの。
ヘンテコ。
「したり、しない?」
かっこいいのに。
すごーくかっこよくて大学で大人気なのに。
僕みたいなチビ助に、どうしたらいいかなぁって困った顔して、誘ってみようかなって、躊躇ってるみたいな顔をして。
不器用、みたいなの。
バスケあんなに上手いのに。手にボールくっついてるんじゃ? ってくらいに上手いのにさ。もしくはボールにさえ好かれてるのかも。ボールのほうから君の手にくっつきたくて仕方がないみたいに見えたから。神様だって味方してくれそうなグリーンが。
「うん」
僕みたいなさ。
「! 平気? いいの? 電車の時間とか」
チビ助とさ。
「電車は平気。っていうか数時間に一本しか来ないような田舎じゃないってば」
一緒にいることに緊張してみたりして。
そんな顔しなくたっていいのに。
なんか、少しさ。
「じゃあ、どこいこっか。青葉」
明るくて、ぱぁって華やぐ表情。
弾んだ声。
「そんなのオタク腐男子に質問しないでください」
「?」
「お洒落なカフェとかレストランとか僕が詳しいわけない」
「カフェなんかじゃなくていい。青葉が行きたいところがいい」
「えぇ? ある、けど……」
そんな嬉しそうな顔。
くすぐったいじゃん。
「なぜ? ダメ?」
「ダメじゃないけどさぁ」
僕、人見知りするなんだけどなぁ。とくにこういうイケメンとか可愛い人とか陽キャを前にしちゃうと緊張しちゃうはずなのに。
「むしろ、長居しちゃう心配が」
「?」
「っていうかグリーンと行くのは……ちょっと」
「えぇ?」
くすぐったくてさ。なんかつい、笑っちゃったじゃん。雨降りジメジメで少しけだるかったはずなのに、こんな駅前でさ、グリーンの表情がくるくる変わるのが面白くて笑っちゃったじゃん。
「じゃあ、いいとこに連れていってあげよう」
「!」
「ふふふふ」
怪しげに笑ってあげると、びっくりしてくれるのが楽しい。
だから、ほら、雨降りなのに、不思議と楽しい感じがしてきた。
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