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第19話 小さな冒険

「え? 風邪?」 「そ、今日は風邪で休みだよ。グリーンなら」  どうりで……。  昨日、パネルの写真撮れて嬉しかったからSNSにあげるんだって言ってたのに、何もアップされたかったからどうしたのかなって思ったんだ。そりゃ、熱があったら……そんなのしてられない、よね。  帰る前にグリーンのいる日本文化科の棟に来てみたら、僕の存在に気が付いてくれた男子が声をかけてくれた。同じ大学なのに、それぞれの学科棟にはあんまり入ることがなくて、講義がたまに合同になる山本のところと違って、ここの学科は接点ゼロだったから、すごく別世界に感じられた。雰囲気が違っていることに緊張しながら、別に入っちゃいけないわけじゃないのに、なんとなくドキドキしながら。  グリーン、いるかなって。  何もSNSにあげてなかったのも気になったし、それに漫画買ったのを読み終わったから、グリーンも読むかなって。ポスカ付きの、僕の好きな先生の。 「あ! もし会うなら渡してやって欲しいものがあるんだけど。ちょっと待ってて」 「え! あ、あの」  グリーンと同じ学科のその男子は、講義室のグループのところへ駆け寄って、何か話して、それでクリアファイルを持ってきた。 「これ、グリーンに英語を教えてもらったプリント。多分、レポート書くのに必要だと思うんだ。俺らでコピーして返すって言ってあったんだけど、あいつ休みだから、どうすっかってなっててさ。これないと多分困るから」 「……ぁ」 「うち、わかる? あいつんち」 「あ、えっと」  たくさん話しかけられた緊張であまり答えられないまま、ブンブンと首だけ横に振って答えると、その人はまたちょっと待ってと言って、講義室の中へと戻っていく。そして、机で何か書いて、戻ってきた。 「これ地図。すげぇ近いからこれでわかると思うよ」  大学を出て、本当にすぐっぽかった。ラフな殴り書きで、「ココ」って書いてある。目印になるのは大学から歩いて五分くらいのところにあるコンビニ。 「頼んでいい?」 「あ、は、はい」 「よかったぁ。あいつにお大事にって言っといて」  その人はそう言ってまた講義室の中へと戻っていった。  風邪、引いちゃったんだ。 「……」  見慣れない学科棟を出て、手渡されたプリントを少し見てみた。 「……すご」  かっこいい英語がサラサラって綴られていて、それと少し幼いようにも感じられる日本語が一緒に並んでる。英語のほうは僕が苦手だからところどころしかわからないけど、たぶん、レポートとかを作るのに、日本語の意味をメモってたのかもしれない。  グリーンの、字。  日本語がさ、すごく上手だったからあまり違和感なく接してたけど、昨日の一人暮らしのこととかも、そうなんだけど……そう、だよ……一人暮らしじゃん。  僕だったら心細いよ。  海外でさ、アメリカとかにさ、いくら自分の好きなこと、やりたいことを勉強するためにって来たんだって言ったってさ、風邪引いて一人とか。 「えっと……大学出て右」  絶対に心細いよ。  バス停は左側。けど、グリーンのうちは右側。  うわ。僕、傘入れてあげるとか言って正反対の方とか知らないで歩いちゃったよ。 「五分って言ってたけど」  知らないところを歩くのってなんでこんなに時間かかってるように感じるんだろ。  あ、でも、ここをちょっと歩くとコンビニがあるのは知ってる。バス停がある方向と逆だから来たことはほとんどないけど。昼は学食だし。コンビニに用事があるなら、駅のとこで済ませちゃうから。 「あった、コンビ二」  いつもとただ逆の方向、右側に進んだだけで別世界に迷い込んだような気がした。 「このコンビニを……えっと、その脇の道……」  頼りはこの地図一枚。SNSからグリーンと連絡取れそうだけど、具合悪いのにスマホ見てられないでしょ? 気が付かないかもしれないし。 「何かあったほうがいい、かな」  僕が風邪を引いた時って、えっと。 「あ、ゼリーとか食べる、かもっ」  そう一人なのに呟いて、そのコンビニに入ると、奥のお弁当をエリアをすぎて……あ、ない。ゼリーとか。 「……」  こっちか。デザートコーナーのとこ。来慣れてないからちょっと迷子になりつつ、ゼリーを三つ、三食分。それからスポドリでっかいの。風邪引くとよくこれ飲むから。それから普通の水。スポドリばっかじゃ甘くて飽きるかもしんないから。 「お、重っ」  ここのコンビニ、グリーンもよく来るのかな。 「そんで、えっと……地図、地図、おっとっと」  エコバック持ち歩いててよかった。ほら、とっさにさ、昨日みたいに本屋で衝動買いが止まらなくなっちゃった時用に常備はしてるんだ。オタクの散財はたまに羽目外すからさ。 「ここ……」  ワンルームって感じの二階建てアパート。木がたくさん植えられてて、その手前に屋根付きの駐輪場。 「ここ、の、二階、の角……」  名札はなかった。けどあってる。さっきの人が書いてくれた二〇一号室。 「……」  そっと、チャイムを鳴らした。寝てたら申し訳ないけど。そしたら、これだけ置いていってもいいし。返事がなかったらどうしようかな。倒れてたりする? それか病院行ってる最中とか。やっぱりSNSから連絡すればよかったかも。連絡なしで突撃お宅訪問は無礼者。 「は……い」 「! あ、あの! 青葉、です! あのっ」  だったかも。 「……青葉? ……え?」 「こ、こんにちは」  ほら、ものすごくびっくりした顔してる。

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