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第21話 君が元気で

 ――なんと! 憧れのクリエイターさんとリアルでBLトークを堪能! 大好きな作家さんのパネルの前で記念写真! 初めてで嬉しかった! 「あは……元気そう」  朝、起きてすぐスマホでSNSをチェックしたら、アイビーさんが朝、写真をアップしていた。アイビーはグリーンの垢名。 「……よかった」  風邪、すごくしんどうそうだったからさ。  でも一日でよくなったみたいで安心した。 「ふわぁ」  大きなあくびを一つしてから起き上がった。僕も大学に行く準備をしないとだ。  昨日は途中から僕も寝っちゃったんだ。海外で、お父さんたちは海のはるか向こう。一人暮らしじゃ、ただの風邪だって不安じゃん。僕だって風邪引いて自分の部屋で寝ててさ、誰もいない昼間とか目が覚めたら、少し不安っていうか、心細かったりするし。  だから寝付くまで見守ってた。  けど、寝ちゃったら鍵かけられないじゃんって気が付いて、どうしようかなぁ。起こすのもなぁ。でもなぁ。うーん……なんて考えてるうちに僕もそばで寝ちゃってた。  それで、グリーンに起こしてもらって。  大慌てだった。  ――青葉! 青葉、バスの時間平気?  ――ひぇへ?  すっごい寝ぼけてた。僕。  ――青葉! 鞄!  ――あ、はい!  鞄も持たずにスマホだけ握りしめて飛び出そうとしちゃったくらい。  ――青葉!  風邪引いてる人に帰りを心配させちゃったし。  ――ありがとう。本当に。  でも玄関先まで見送ってくれたグリーンは僕が訪れた時よりもずっとずーっと体調が良さそうだった。しんなりした笑顔じゃなくなってた。  ――どういたしまして! あ! あの! お大事に!  だから看病しにいってよかったって思ったんだ。したことないけどさ、看病。でも、こちらこそ「ありがとう」っていうくらい、なんだか胸のところがほこほこして温かくて、優しい気持ちになれたから。すごく嬉しい気持ちがバスの、換気のためにと開けられていた窓の隙間から溢れて、バスのルートをなぞるように落ちていきそうなくらい、バスが進んでいく道沿いに落ちていってる気がするくらい。  そのくらい帰りのバスの中、一人でずっと微笑んじゃう危険人物でさ。 「よーし!」  でも、本当に役に立てて嬉しかったんだ。 「おはよ」 「……あ」  バスを降りるとグリーンがいた。 「あ、どう?」 「うん。すごくよくなった」 「ホント?」 「うん」  本当だ。今日はちっともしんなりしてない。 「よかった」  しんなりどころか、すごい元気そう。 「それで、これ」 「?」  袋? 「漫画、忘れてたよ」 「あ! あ、いや、あれは、グリーンに」 「うん。それで読んだ」 「え? もう?」  昨日、病み上がりなのに? 「ちょっとだけ読むつもりが止まらなくて結局読んじゃった」 「! わかる、すごいよね。あれさ。あれさっ」 「うん。それから、もしよかったら、これ」 「?」  パン? 「近くのコンビニのなんだけど、これすごく美味しいから。俺も買ったんだけど、青葉のも」  コンビニ。僕が昨日ゼリーを三食分買ったとこだ。それからスポドリも。 「え、いいのに、そんな」 「ゼリーのお礼」 「あ、そ、そしたらさっ」  もうそろそろ行かないと。今日一限目からさ、朝イチからかぁって、ちょっとげんなりする僕の苦手科目が待ってるんだけどさ。  だから、さ。 「お昼、一緒に食べる?」 「!」 「その、あの漫画のこと語りたいし」  もうね、僕も止まらなかったんだ。読み始めで心臓鷲掴みにされちゃうっていうか。もう大好きな展開への期待感がハンパなくて。結局、僕も一気に読んじゃって、そのあとしばらく余韻に浸って幸せを噛み締めてたくらい。  だから、グリーンにも読んで欲しくて昨日、わざわざグリーンのいる棟まで行っちゃったんだ。もちろん、様子も気になったし。  そんなわけなので。 「ぜひ。俺も語りたい」  グリーンが大きく頷いてくれたら、嬉しくなった。  いや、だって、山本とは微妙に好みがずれてるから。あの先生のはそんなに山本的には大ヒットじゃないっていうか。ストライク……ではないていうか。だから僕がこのハイテンションで語っても、そこまでテンションあげあげになってくれなくて。  だから、同じテンションで語れる人がいることが楽しくて。  嬉しくて。  それこそ、この後待ち受けてる、ちょおおおおおおお苦手な科目があっても、お昼にあの漫画についてたくさん話せるって思うと、ちょっと、大学に来るのが楽しくなる。  ほら、なんだか、足取りさえも。 「じゃあ、また四限目のあとで」 「うん」  軽くなっていく気がしたくらい。  ――もう講義終わった? 俺は終わって、今、資料棟。あの裏のところで平気? 今日は陽が出てるから逆にあそこはちょうどいいかもと思う。  そのメッセージに「ラジャー」って返事をして、ポケットにスマホをしまった。  持参してる水筒を鞄に突っ込んで、ランチにってもらったサンドイッチと手に持って。 「あれ? 青葉、学食行かねぇの? オムライスなくなるぞ」 「あ、山本。えっと、今日は持ってきた」 「へぇ珍しい」 「うん」  ほら。 「そっか、じゃあな」 「うん」  ほらほら。  足取りがすごく軽くて。  ぴょーん、って。  軽いから、急いで資料棟の裏手へ向かう。 「青葉」 「!」 「講義、お疲れ様」 「グリーンもね」  弾むくらい。  お昼ご飯が楽しみだった。

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