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第22話 そう、そう、そう

 大学に入って変わったこと。  一つは、毎日制服で学校に行くのって結構楽だったんだなぁって。  二つ目は、授業が講義になって、授業中は絶対にダメだったスマホを、講義だとけっこうな人が出していじってる。  三つ目は――。 「え……歓迎会?」 「うちの科の一年生から四年生までが揃うんだ」  こういう集まりがあったりすること。 「あの、でも、僕」  まだ未成年なんだけど、って言いたいけれど、いうタイミングがわからない。 「レストラン貸切ってやるからさ。スマホある? これ、QRコード読み取ってもらえると助かる。コピーし忘れてさ」 「あ、うん」  急いでズボンのポケットにあったスマホを取り出して、読み取るとレストランのホームページに繋がった。 「そ、そこのレストラン」  なんだかお洒落そうだった。ソファー席とか、こういう場所でご飯食べたことないかも。  こんなすごそうなレストラン、貸し切りとか。すごい。 「あ、アルコールは一応、二年生からだから」  あ、よかった。  でも、一応って、普通はアルコールダメでしょ。一応、じゃなくて、二年生からです。一年生はソフトドリンクだけだから! って、断言しないといけないのでは? 大学の行事みたいにするのなら。〇✕大学、泥酔で失態なんてネットニュースに上がっちゃうんじゃ。 「それじゃあ、来週の金曜日、宜しく」 「あ……はぁ……」  大学に入っても変わらないこと。  一つ目は、僕の人見知り。これは、もしかしたら、大人になってもずっとこのままかもしれないなぁと、思ってたりする。  二つ目は、こういう集まりみたいなの、すごく苦手なのに、断るっていう自己主張も苦手だから「やだなぁ」って思いつつも参加しちゃって、それで、参加してみたところでたくさん誰かと話せるわけでもないし、気が利くタイプでもないから、動き回って手伝いとかもできそうになくて、退屈で、結果、苦手度が上がるだけに終わる。 「……はぁ」  大学生活二か月経過。  ようやく同じ学科の人との会話に緊張しなくなったと思えた頃に。今度は縦割りかぁ。山本がいればなぁ。  時間経つのがすごく遅いんだよな。こういう食事会って。  法事とかもやっぱりすごい苦手で――。 「法事? って?」 「あー、そっか、これ日本のだもんね。えっと、ご先祖様とかを供養したりするんだけど」 「なるほど」 「で、お墓参りして、お教読んでもらって、それで親族で食事会とかするんだ」 「あぁ、確かに、それは……あまり楽しんじゃいけないから行きたくないかもしれないね」  グリーンが神妙な面持ちで、ふむふむって頷いてる。 「っぷは、そうじゃなくて」 「?」  ご先祖様を供養って言ったから、きっと、深刻で静かな食事を想像したのかもしれない。けど、そうじゃないんだ。 「違う違う。僕が苦手なんだ。ちょおおおおお人見知りだからさ…………って、なんでそこでそんな驚いた顔すんの?」 「いや……だって、青葉が人見知りって」 「人見知りするよ! すっごく!」 「そう? 今、してない」 「そりゃ、グリーンはそうじゃん。もう知ってる人だし」 「……そう、なんだ」 「……そう、でしょ」 「……そう、か」  ぽつりとグリーンが呟いて。その、呟いた言葉が見えるみたいに、自分の足元をじっと見つめてる。 「そっか」 「そうだよ。って、なんで笑ってるんだよー」 「いや、だって、嬉しくて」  グリーンが日本に来て初めて、風邪をチキンスープと生姜入りのレモネードではなくて、僕の家流、ゼリーとスポドリで治してから、僕らはよくこうやって話をすることが多くなった。講義と講義の合間だったり、帰りだったり。大体はBL漫画を貸したり、貸してもらったり、そんなタイミングで。  場所は、いつものとこ。 「俺は、青葉の人見知りする相手のリストからは外れてるんだって」  資料棟の裏のとこ。  少しじめっとしていて、ちょっとキノコとか生えそうなとこ。キノコはまだ発見してないけど、苔ならたくさんあるとこ。 「こんなに話してて、僕の人見知りする人リストに入ってたら、僕ほとんど誰とも話せないじゃん」 「うん」  じめじめしてるけど。 「そうだね」  グリーンが一緒だとそんなにジメジメが気にならない。 「レストラン、どこだっけ?」 「あ、えっと。駅前のイタリアンレストランだって。ここ、知ってる?」  グリーンは、でも最初から、あんまり身構えなかったかな。 「知らないレストランだけど……いつ?」 「来週の金曜日だって。バイトがあればまだ断れたかもしれないのい」 「バイトって言えば?」 「でも、それ嘘じゃん。人見知りだと、そういう嘘を理由にするのもパワーがいるんだよ」 「そうなの?」 「そうなの!」  グリーンは人見知りする人の枠になんて入らないよ。  趣味が同じだからかな。でもそれだけじゃないってわかる。みんなに好かれる理由も、きっとそれ。話しやすいんだ。緑の葉っぱみたいに見てると落ち着く。緊張なんてちっともしない。だから――。 「スパゲッティ食べ続けるしかないよぉ」 「っぷ、それ可愛い」 「可愛いわけないじゃん! っていうか、スパゲッティ食べ続けてる人が可愛いってどんな?」  だから、少し思った。  その懇親食事会に、グリーンもいたらなぁって。そしたら緊張しないし。 「青葉はどのパスタが一番好き?」 「うーん……やっぱそこは原点回帰でミートソースかな」 「ほら」 「なんだよ! ほらって」 「あはは」  きっと、楽しいのにって、思ったんだ。

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