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第23話 ザ、困惑会
懇親会。
あぁ、懇親会。
なんて思いながら、ついに金曜日が来てしまったわけで。急なバイトの代打とかあれば今日は「はい! はいはい! はい!」って前のめりでグループメッセージの中で挙手してたかもしれない時に限って、バイトの代打もないわけで。
一年生から四年生まで揃うわけだし、もうその時点で参加者のうち知ってる人って四分の一の人しかいないじゃん。あと全員見たことはあっても話したことなんて一度もない人ばっかりじゃん。っていうさ、超ド級人見知りにはしんどい状況にさ。
大丈夫か?
僕、この懇親会やっていけるのか?
高校卒業したばかりのチビ助にこの状況を乗り切れるのか? なんて、けっこう不安だけで胸いっぱいだったんだ。
「いや、一年生でこの前まで高校生だった子にこういうの言うのもなんだけど、就活、早めに動けば後が楽だからさ」
そんな不安は消し飛んだ。
代わりに将来の不安で胸いっぱいで、鶏胸肉のマリネサラダが喉通らなくて。
パサパサしてるからかしら、なんちゃって。
「だから、のんびり大学生活謳歌しつつも、ちゃんと頑張らないと、四年生を二回する羽目になっちゃうかもだよ〜」
なんて怖いこと言われたら、ほら、また胸肉が喉につっかえますけれど。
四年生を二回……やってる人を身近で知っているのでさ。
「ぼ、僕、ちょっとおトイレに……」
「あ、トイレの場所わかる?」
「あ、はい……大丈夫……です」
そんなに迷子になりそうなんだろうか。それとも、不安に胸いっぱい過ぎるのが顔にモロ出てるんだろうか。
懇親会っていうか、将来に備えて頑張らないといけないのか、っていうさ。
一年生か四年生まで揃うと大きめの個室でも少し狭くて、失礼します、失礼しますって言いながら、本来なら「あら、観葉植物がとっても素敵」って干渉するための葉っぱにさえ行手を遮られながら、トイレに行くのも、将来も、色々試練が待ち構えてますねって。
「困惑会……」
なんて、つまらないことをポツリと呟いちゃった。
「あれ? 冨永君?」
「はへ?」
Tの字になっている通路の角のところで声をかけられ、顔をそっちに向けると。
「……あ」
「珍しいね。こういうとこにいるの」
「……坂部さん」
四年生を二回目、ただいま受講中の人に出会って……しまった。
「何? 大学の?」
「あー、はい」
今、将来に備えて、ちゃんとプラン立てて今から計画性を持ってやっていかないと四年生になった時じゃ手遅れだからねと、先輩方に言われまくる会の真っ最中です。
「そっかぁ。なんか大学生っぽいね」
「あははは……」
やんわりしてる人で優しそうな人なんだ。例えば、僕がバイトをどおおおおおしても休まないといけない時、バイトの仲間のグループメッセージで代打をどなたかお願いできませんか? と伺ってみたら、最初に「俺、やろうか?」って言ってくれる人。
話し方も物腰も柔らかくて良い人で。
たまたまごく稀にある休憩の時間が一緒になっても、僕の超苦手なあの重苦しい沈黙に喘いで、仕方なくペットボトルの成分一覧とか読み込んで時間を潰したりしなくてもいい人。
でも、四年生を二回やってるんだよなぁ。
別にチャラチャラしてる感じでもないのに。
バイトの時もしっかりしてるし、店長からは品物の発注とか頼まれる、信頼できる人って印象あるし。
先輩方が言っていたような、のんびりぐーたら……してる感じしないんだけどなぁ。
「坂部さんも大学の」
「あー……うん」
「そうなんですね。懇親会か何かですか?」
「あ、うん」
「僕もなんです」
「そっか」
ほら、ふんわり笑う良い人って感じ。でもでも、何かあったから四年生を二回やってるんだもんねぇ。
「縦割りで。一年生から四年生まで、同じ学科の人で交流をって」
「そういうのためになるよね」
「あ、はい」
ために……なっていたのに、どうして四年生を二回も……。
「でも、まだ冨永君は二十歳じゃないからお酒は飲んじゃダメだよ」
「の、飲みませんよ!」
坂部さんは、一年生の頃この懇親会で飲んじゃったんですか? それであんまり先輩の話を聞いてなかったとかなんですか?
「本当かなぁ」
「ほ、本当ですってば!」
「あぁ、あんなに高校生の頃は可愛かった冨永君が、お酒なんてっ……」
「飲んでないですってば!」
っていうか、今日の坂部さん、なんだかいつもとちょっと違う。なんていうか。うーん。なんというのが良いのか。
「じゃあ、また、バイトの時に」
「あ、はい」
「次入ってるのって火曜だっけ?」
「はい」
「俺も火水で入ってるんだ。じゃあ、火曜日」
「あ、お疲れ様です」
「あ、冨永君、ちょっと……頭に」
「はへ?」
頭を下げた時だった。
ちょっとって言われてなんだろうって顔を上げて、そしたら、ちょうど坂部さんもこっちを覗き込むように前に身体をかがめてて、顔が。顔面が。
「!」
すごく近――。
「って、うわ、あ!」
近くに、坂部さんの顔面がって、思った瞬間、視界が真っ暗になって。
「No」
どこからともなくすごく綺麗な英語で「ノー」って聞こえて。
「は、はへ?」
次に視界が明るくなったと思ったら、金色の。
「……へ?」
金色の、キラキラとした絹糸みたいなのがイタリアンレストランの照明に反射して光ってた。
「へ、え? グリーン?」
そして、そこにグリーンの横顔がくっついていて。
「……え?」
あれ? 僕って、今日、お酒飲みましたっけ? って、考えながら、足がふらふらしちゃって、気がつくと、グリーンに思い切り背中から倒れ込んでいた。
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