25 / 98

第25話 好きってなんだ

 最初に……言われた。  ―― キミのコトが、スキ……だから。  そう、言われた。  日本に来たのはそれも理由の一つなんだって、言われた。アメリカ……僕は行ったことなんてないけれど、飛行機で何時間くらいかかるんだろう。でも、ものすごく遠くから、一人で、飛行機使って、電車使ってこんな日本の大学へ。  僕のことが。  好きって。  わ、忘れてたわけじゃないんだ。  でも、なんか、普通に話しやすかったから、なんかたくさん話すようにいつの間にかなっちゃってて。グリーンといるの心地良くて。好きなBLの系統が重なってたこともあって、話が盛り上がったっていうか。  気がつくと大学でもよく二人でたくさん話してて。  グリーンとはもうたくさん――。 「あ、おかえり、富永君、メロンソーダ、頼んでたよね? ここにあるよ」 「あ……」  懇親会に戻ると、グリーンが女子にたくさん囲まれてた。  なんとあのグリーン君が乱入って、女子が嬉しそうにしてる。 「は……い」  そんな輪の真ん中にいるグリーンと目が、合った。  好きって。  あのグリーンに言われた。  前にそう言われて、でも、僕は女の子が好きなんだ。初恋は中学一年の時、夏くらいに隣の席になった女子で、髪が長いのがサラサラしてて、よく耳にかける仕草にドキドキしてた。でも、特にそのまま、人見知りな僕はほとんど話しかける事もできないまま終わって。次に好きなった子とも、やっぱりそんな感じで。そんな片思いを何度か繰り返して、高校最後に好きになった子とは結構話せて、話せたことがすごく嬉しくて、そしたら気になって、好きになったんだけど。  背。  背を抜かれちゃって、なんか……ね。  だから、僕は好きになるのは女の子で。  だから、そのうち考えてって、言われたっけ。  今はまだきっと断られてしまうだけだから、そのうち考えてって。  グリーンのこと。  グリーンが僕のことを好きで。それは、ラブとライクの、ラブ、の方で。  僕の好きは、きっと、確かに、必ず、断じて、あとは「きっと」の類語ってなんだっけ。とにかく、疑いなく、ライクなわけで。 「ふぅ……こっちにようやく来れた」 「!」  心臓が飛び上がって、口からぽろりと出そうになった。 「あれ、君って、一年の」  そう話しかけたのは就活というものは、を色々教えてくれた僕の前に座る四年生の先輩。 「あ、はい。日本文化科のグリーン・グレーシャーです。すみません。偶然、ここで友達の青葉と会って、そしたら」  グリーンが、さっきまで女子に囲まれてたはずのグリーンが、僕が考え事をしている間にこっちに来てた。これぞまさに乱入だ。 「就活の話を色々教えてもらえるって」 「あぁ。日本語上手だね」 「あ、はい。勉強してました。日本大好きなんで。こうしてこっちで勉強できて楽しいです」  日本大好きだから。その好きはラブと、ライクの、ライクなんだろう。 「あ、箸ありがとうございます」 「箸も上手だね」 「向こうでもよく日本料理食べてました。お寿司がこっちのが小さくてびっくりしました」 「寿司?」 「向こうのってでかいんですよ。おにぎりに刺身が乗ってる感じ。お寿司好きなんです」  お寿司の好きも、ライク。 「日本のサブカルチャーがすごく好きで」  サブカルチャーがすごく好き、の好きもライク。 「あ、この唐揚げ、美味いですね」  その唐揚げもライク。 「青葉?」 「!」  このグリーンが僕を好き、の、好きは、ラブ……で。 「お酒飲んでる?」  の、飲んでない、飲んでない、まだ十九歳です、ようやく同人誌即売会で心置きなく漫画を買えると大喜びしていた、脱十八歳したばかりなチビ助がお酒なんて飲むわけない。 「あ、メロンジュース」  うんうん。そうです。これが只今僕が飲んでる飲み物です。 「甘くて美味しそう。俺、お茶にしちゃった。日本茶、好きでさ」  そうですか。さっぱりしている日本茶はいいですよね。太らないし、お食事にも合うし。唐揚げにも相性いいと思いますし。  コクコク頷いたり、ぶんぶん首を横に振ってみたり、答えを首だけでしてたんだ。なんか急に言葉が喉奥のところでつっかえちゃって出てこないんだ。胸のところ、どーんって叩いたら出てくるかな。でも、この場で、それしたら、ちょっと変な人でしょ? だから、喉奥は詰まらせたまま。  グリーンがそんな僕を心配して、こっちを覗き込むように首を傾げた。そしたら、金色の、グリーンの髪がサラリと揺れた。  僕を覗き込むように見つめる瞳は、一緒に、資料棟裏手でBLについて語ってる時よりも少し深い緑色をしてた。光が当たった時はもう少し薄くて、なんともいえないカラーリングで、まるで水面みたいにキラキラしてるけど、こうして室内の、少し照明を落とした中だとまるで違った色で。 「じゃあ、グリーン君はこっちで就職したいんだ」 「あ、はい、できたら」  声をかけられた方へグリーンが顔を向けると、ほぅ、とようやく息ができて。 「なので、ここで就活のこととか聞けたらって思ったんです」 「そうなんだ。それは熱心ですごい」  僕もグリーンが好きだけど、この好きは、きっと、ライク。  うん。  きっと、ライク。  そう思いながら、ほぅ、とまた深呼吸をした。

ともだちにシェアしよう!