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第26話 ラ、ラ、ラ、ライク
懇親会はグリーンの乱入により、たった一人が参加しただけなのにすごい盛り上がりで終わった。
何より女子のテンションがものすごく上がっていた。
一次会で僕は帰ったんだ。
グリーンも、ものすごく惜しまれながらも一次会で帰った。なんだったら乱入したグリーンが一番帰るのを惜しまれてたかもしれない。
女子だけじゃなく男子にも人気でさ。
話をたくさん聞いてくれるから先輩たちも大歓迎してた。
僕は駅から電車で。
グリーンは駅からバスで大学のほうへ。大学近くのアパートで一人暮らしだから。
だから僕らもそこで「バイバイ」って。
帰り、わずかに揺れる電車の中でずっとほっぺた熱かった。
ずっと、グリーンに言われた二回目の、その、告白をずっと頭の中で繰り返し思い出してた。
グリーンのことは、好き……だよ。
話しやすいし、話してて楽しい。
大学でグリーンはすごく目立つけど、見かけると「あ! グリーンだ!」って、思う。そこにあるのはライクなわけで。
けど、グリーンが僕のことを、その……ラ、ラ、ラ、ラブとして好きっていうのは、別に、なんていうか、それはそれでいいんじゃないっていうか。
いいってなんだろ。
でも、困ってはいないんだ。
困惑はしてるけど。
そうそう、そんで、何に今、困惑しているかというと。
僕はライクで。
グリーンはラブで。
同じ好きだけど、同じ「ラ」が付くけれど。
「じゃあ、お前のとこの懇親会、ずーっと就活の話してたのか?」
山本と学食で遭遇した。僕も山本も今回はオムライスをゲットできたんだ。ものすごい真ん丸の、本当に漫画のように、リクガメの甲羅のように真ん丸になったオムライスが二個並ぶ。
大人気なんだ。
すごい安くて、ワカメうどんより百円高いだけなのにこのボリュームは学生にとってとてもありがたい。
ほら、だってこの山盛りだよ? もうこれドームだもん。
「にしても真面目な学部だなぁ。懇親会の酒の席でそんなのされてもなぁ、悪酔いしそう」
「山本のとこは違ったの? っていうか、山本はまだ飲めないだろ」
「ちょっと飲んだ」
「えぇ? 飲んだの?」
「あんなもんを、くはー! 美味い! なんて言って飲む奴の気が知れん。ちっとも美味くなかった。あれだったらまだ身体にいいとされてる青汁かセンブリ茶を俺は飲む」
山本が理解不能だって首を横に振る。
山本も、友達だ。
当たり前だけど。
そんでこれも当たり前だけど、山本のことも好きだよ。あ、いや、もう確実に決定的に友情のほうのライクの「好き」だけど――。
「あ、グリーンだ」
「!」
「いや……いつ見ても女の子がそばにいるなぁ。すごいよな。あんなキャラ設定、BLのスパダリ設定だと思わん?」
「う……ん」
「いや、いや、本当にすごいね」
ライクの好き。
グリーンも。
「!」
その時、テーブルの上に置いていたスマホがヴヴヴって無音だけど、着信音よりもずっと自己主張の強い振動を響かせた。
「あ、そうだ。この前、ネットで見たんだけどさぁ」
グリーンからだ。パッと顔を上げると外でグリーンがスマホいじってる。
今は僕の返事待ち、なんだ。あの時は返事しないでって言われたし。
「青葉の好きな商業さん、この前、ポスカ付いてたって嬉しそうにしてた作家さんいたじゃん? あの人の原画展やるらしいよ」
「そうなんだ」
――青葉、この前の作家さんの原画展あるの知ってる? レーベル、でやるんだって。
あ、グリーンもメッセージで同じこと言ってる。
――レーベルで合ってるかな、日本語でなんて言うか忘れた。
レーベル、たぶん出版社、のことを言いたいのかな。
「俺も行きたかったんだけどさぁ。その翌週レポート提出あって無理なんだ。レポート二本も……懇親会でそのこと聞いたらめちゃくちゃ厳しいレポートらしくてさぁ」
――出版社のこと、かな、グリーン。
そう返事をした。
――そうだ! 出版社!
グリーンからの返事はまたすぐやってきて、今度は、僕も好きな作品の攻めキャラのスタンプがくっついてた。
――もしよかったら一緒に行かない? もしかしたら、もうヤマと行く予定だった?
「青葉?」
「! ……ぁ」
山本にはグリーンのこと話してないんだ。話すタイミングがなくて。その、タイミングないままになっちゃって。
高校の時は同じ部活にいたからよく話してた。けど、やっぱサークルとかにも特に入ってないし、バイトとかそれぞれにあるし、学部が違うと帰りの時間も違ってて。懇親会だって、バラバラだったし。意図して、待ち合わせたりとかしないとなかなか話しできなくてさ。
それにメッセージで「グリーンに告白されました」なんて、自分から言わないでしょ? どんだけ自意識過剰? って感じじゃん?
――大丈夫なら、予定合わせるよ。
だから山本にグリーンのこと。
「どした? 顔真っ赤だけど」
「あ……ぇ」
話してなくて。
仲良いんだよって、隠してるみたい。
なんだかグリーンと内緒話してるみたい。
そして、学部も違うのにグリーンとはたくさん話してたなぁって、こんなふうにグリーンが僕に合わせてくれてたんだって気が付いて。
それに気が付いたら、懇親会のグリーンを思い出して。
――好きだから。
そう言われたの、また、思い出して。
「な、なんでも、ない」
僕のことを好きだから、なのかな、なんて考えちゃって。
ほっぺたが燃えてるみたいに熱くなった。
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