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第28話 気になるんです。

「えぇ? あのイケメンの人、同じ大学の学生なんだ」 「はい。そうなんですよ。坂部さんのこと勘違いしちゃったって謝ってました」  火曜日のコンビニバイトで坂部さんとシフトが重なった。のんびりと二人でレジの中を整理しながら、この前の懇親会でのことを話して謝ると、気にしなくていいのにって柔らかく笑ってくれる。  コンビニって結構混み具合に波があるんだ。示し合わせたかのようにレジに人が殺到する時もあれば、まぁぁったく人が来ない時もあって。今は後者の時間帯。  もうここのコンビニでバイトして長いけど、いまだにこの波の原因はわからない。  駅前とかなら電車で降りた人が殺到するとかさ、理由になりそうなことも考えられるけど、最寄りの駅まで歩いて十分。そして、駅前にもコンビニはある。だから電車を降りた人が集まってくる説はここの店舗には該当しない。  そして謎はやっぱり深まるばかり。 「富永くん、あんなかっこいい友達いたんだね」 「あ……ぁー、まぁ……はい」  グリーンにとっては友達……じゃない、んだろうけど。僕にとっては……。  なんていうか。  違うんだ。  なんだろ。  何が違うんだろ。  同じライクなのにさ、山本や、他の同じ学科の奴らとも高校の友達たちとも違う。こういうのは、なんていう名前が一番いいんだろ。 「大学でもすっごい人気なんです」 「だろうねぇ」 「いっつも女子が周りにいて。あの時も僕と同じ学科じゃないのに、グリーン君だ! って、もう半ば強制的に乱入させられてて」 「へぇ」 「でも、すっごい良い奴なんです。あんなにかっこよくて、日本語ペラペラで、学科でも結構みんなに頼りにされてるっぽくて。男子の友達もたくさんいて、すごいですよね。僕も一緒にいて楽しいんです」 「へぇ」 「人見知りな僕でも全然たくさん話せちゃって」 「そっか」 「ものすっごい人見知りなのにって自分でもびっくりするくらいで」 「うん」 「だから、グリーンのこと……って、なんで笑ってるんですか」 「ごめっ」  けどそこで今度は堪えきれず、ぷって笑った。  そんなに吹き出すほど楽しいことは言えてないと思うんだけど。 「なんでもないよ。いや、なんか、うん。いいんじゃない? あ、そろそろシフト交代の時間だね。そしたら、店内清掃お願いしていい? 俺、その間にレジの中の清掃と整理しとくから」 「あ、はい」  いいって何が? って思いつつ、まだ楽しそうにしてる坂部さんにレジの中を任せて、店内の清掃に回ることにした。  シフトが次の人に交代する前の清掃。もちろん、お客さんが多い時はしないんだけど、今はいないから。清掃をしてからの交代になる。  レジの中って色々なものがあるから清掃とかめんどくさいんだ。店内はそれ専用の機械があって、フローリングを磨くみたいなその機械を動かすだけだから、全然楽ちん。しかもちょっと面白い。そして、のんびりしてられる。バイトでのんびりっていうのもどうなのかって思うけどさ。  来週の原画展。  天気いいかな。昼飯とか食べるかな。時間制限……あったっけ? 確かなかったはず。入場の時間だけ指定されてて、あとはそこにいつまでいてもいい、んじゃなかったっけ。確か、俺たちの持ってるチケットは十三時のだから、待ち合わせの時間によるけど、昼飯も一緒に食べるのかな。あの辺、レストラン結構あるし。グリーンは日本食好き、だよね? お箸、向こうでもよく使ってたって言ってたから。 「……」  そして、ふと、床磨きをしながら目に入った雑誌。  爽やかな初夏のデートはこのコーデで決まり!   なんだそうです。  いや、デートじゃないし、原画展に行くだけだし。  昼飯、どうするかわからないけど。  チケットが十三時からで。  本当に目的は原画なんです。  だって、昨今、デジタルで漫画を描く人が多い中で、僕の好きな商業の先生はアナログなんですよ。紙にかりかりって描いてるわけです。そんな方の原画展なんて行かないわけないでしょ。絶対に行くじゃん。  でさ。  でね。  そういう時って、お洒落するものでしょ?  ほら、アイドルとかのコンサートとかさ、イケメン俳優の舞台とかさ、イッチバンのお気に入り着ていくでしょ? 別にその人に会えるわけじゃないのに。それでもお洒落してくじゃん。そういう推しの一大イベントの時って。  だからです。  だから、爽やかな初夏コーデが気になるんです。  ただそれだ――。  窓に面したところに並んでいる雑誌をじっと見つめてたんだ。だから気がつくのが遅くなって、ふと、何か気配を感じて。それで見上げたらそこに、グリーンがいて、なんかものすごくおかしな叫び声が上がってしまった。 「っけぇぇぇぇ!」  奇想天外な声を出したって外じゃわからなくてよかった。  なんだ「っけぇ」って。  鳥みたいになっちゃった。  そんな奇想天外な声を出したとは知らないグリーンがお店の中にやってきた。 「お疲れ様」  そう声をかけて。 「ごめん。今、バイト中だよね。あと少しで終わるでしょ? 待ってていい? 外で」 「あ、うん」  ただ、それだけ。 「冨永くーん、交代だよー」 「あ、はい」  ただ、原画展に行くだけ。 「お疲れ様」 「ぅ、うん」 「買い物? 雑誌? なんの雑誌買ったの?」 「あ、ううん。なんか普通の雑誌、っていうか、どうしたの? 急に」 「あ、いや、この前のこと、坂部さんに謝ろうと」  そこにちょうど坂部さんがやってきて、グリーンが駆け寄った。優しいから、きっとこの前のことごめんなさいって謝ろうと思ったんだと思う。  そして、僕はその間に、今、バイト終わりに買ってきた雑誌を鞄にしまった。  何、普通の雑誌ってって自分で咄嗟に言った言葉にツッコミしながら。  だって、買ったのはBLでもなんでもなくて、夏コーデの男子ファッション大研究なんてものだったから。

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