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第31話 見えない掴めない気持ち、掴んじゃった
「……はぁ」
ここに山本がいたら、また、ワカメに失礼だぞ! って怒るかもしれない。
オムライスなんて全然間に合わず完売だったからワカメうどんを頼んで、ふと、スマホを見ては溜め息を一つ、そのワカメうどんの上に落っことした。
イケメン。
告白。
急に。
無視。
で、本当にググったんだ。出てくるのはいろーんな恋愛相談。
そしてどれもこれもが僕を不安にさせるから、そっと閉じちゃった。
どっちにしたって、イケメン外国人に告白されたけど、なんでか急に無視っぽい感じでふんわり避けられてるような、特殊設定にぴったんこな相談案件なんてないし。
――今日は白スニーカー! 雨の予報ないけど、雨、ぜぇぇぇったいに降りませんように。
「太陽マーク……っと」
小さくそう呟いてからそれをポチリと押して、更新した。
僕の、あおっぱ。の呟き。
最後にアイビーさん、つまりはグリーンがナイスってボタン押してくれたのは、一緒に行った原画展の前日。だから、そこまでは無視されてなかった。あの日、グリーンにもらった葉っぱは小さなジャムの瓶の中ですくすく育ってる、根っこがたくさん生えてきたんだ。それを写真付きで更新したら、くれた本人が一番にナイスって押してくれたのが最後。
一緒に行った原画展のことも呟いたけど、それにナイスは付かなかった。
あおっぱ。が男子っていうのはリアルで会ったことのある数人だけ知ってる。この間の同人誌即売会の時に買ってくれた数名と山本くらい。だから原画展に行きましたって言っても、あおっぱ。を会場で見たって認識する人はほとんどいない。
でも、その原画展で何かやらかしちゃった……のかなぁ。
そこから急に、だもん。
「……」
ほら、この白スニーカーの写真をくっつけた呟きにもアイビーさんからのいいねは……もらえてない。
でも、SNSのプライベートでのやり取りからは何も話しかけてない。そっちも無視されたら、けっこう本当に、完全な無視だし、嫌われ……。
「はぁ」
そういえば、ググって調べちゃった時、告白をスルーされちゃって、なんか無視されたてむしろ嫌いになっちゃったって人もいたっけ。
「……」
僕も、そうなのかもしれない。
今すぐに返事しなくてもいいよって言ってたけど、さすがに待たせすぎたのかもしれない。
もう……なのかもしれない。
これがBLだったらさ、ワクワクしちゃうのに。むしろ盛り上がっちゃうのに。
すれ違ってますよーって、そんなシチュを楽しめるのに。
リアルは全然違う。
BLなら絶対にいつかはくっつくってわかってるから。
気持ちがなくなっちゃったわけないじゃん。変わらず好きだから、言ってみなよ。ほらほら、言っちゃえ、なんて思うのに。
なんで気持ちがなくなるわけないって思うんだよ。そんなのわからないじゃん。目に見えないんだから。目に見えるもののほうがたしかじゃん。アイビーさんからのナイスがない。距離がある。そんな目に見える事実だけ。
でもこれがBLなら、横恋慕にやきもきするだけ。ラストに待ち構えるハピエンを楽しみにワクワクしてるだけ。
「……落としましたよ」
「あれ? あ、ごめ……あ」
可愛い女の子の登場に急展開か? って、続きが楽しみになるだけ。
ワカメうどんを食べ終えて、学食へと続く廊下を歩いていたら、前を歩いていた女子がハンカチを落とした。ぽとりと落っこちて、でも彼女は気が付かなくて、目の前で落ちたから、超人見知りな僕でもハンカチをこのまま無視はちょっとしずらくて。
ちょっと、どころじゃなく緊張しながら、その子に声をかけたんだ。
「……ぁ」
「あ」
僕が小さい声で「ぁ」って呟いて。
彼女が大きい声で「あ」って言った。
前髪がぱっつり横一直線に切りそろえられた特徴的な髪形の子。個性的な前髪と同じくらい、ピッと直線を引いたように話す感じの子。
「グリーン君の」
「!」
可愛い感じの女の子。
BLが好きな子で。
原画展にも行く感じの子。
ふと。
グリーンに少し似てる気がした。はきはきしてて、明るくて、楽しそうな感じが似ていて。
もしかしたら、グリーンは――。
「ハンカチありがとう。この間の原画展の時にグリーン君と」
「あ、はい」
「すご、」
心臓、一瞬、びゅんって、飛び上がった。
「わ、びっくりした」
彼女は声が出せたけど、僕は声も出せないくらいにびっくりした。
だって僕と彼女の間に手がシュッと出てきたと思ったら、壁をバーンっ! なんて叩くから。
蚊、が飛んでた?
それにしても蚊もびっくりの勢いで。僕も蚊と一緒に昇天しちゃうかもって。
「んもー、びっくりしたじゃん。グリーン君ってば」
「……四限目のレポートのことで探されてるよ」
「ぇ? 私? なんで?」
「…………詳しいことはわからない、けど、うちの棟の第二講義室」
「……はぁ、まぁ、オッケー」
じゃあねってその子が手を振って、グリーンはグリーンでそのまままたどっかに行こうとする。
なんだよ。
「青葉……じゃあ、また……」
なんだよ。
わかんないよ。
じゃあ……また……って。
グリーンじゃないみたい。
ビビる。
もう――。
勝手に脚が動き出した。
知らないけど、長い脚でスタスタ歩いていっちゃうグリーンを追いかけて、足の長さがすごく違うらしく、向こうは歩いてるのに、こっちは駆け足で、それでも追いつかないから、リレーのバトンを掴むみたいにさ。
「!」
必死で。
「な……に、青……葉」
掴んじゃった。
「青、」
「もう……」
脚が勝手に動いたんだ。
そしたら、口も勝手に動いて。
「青……」
「もうっ、僕のこと、好きじゃなくなっちゃった?」
目からは勝手に水の粒が、落っこちた。
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