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第33話 ラ、ラ、ラ、ラブ

 女の子だと思ってた。  いつか、もう少し大人になった僕がキスをするのは女の子だって思ってた。  でも、その人は女の子じゃなくて、僕よりもずっと背が高くて、空と葉っぱと太陽を粒にして混ぜたみたいにキラキラした瞳をした男子だった。  びっくりするくらい予想と違ってた。  でも、びっくりするくらい、グリーンとすんなりキスできてさ。  ほら、唇が離れるギリギリまでずっと、ずっと、嬉しくて、たまらないんだよ? 「…………青葉」  そっと目を開けると、宝石みたいな瞳が久しぶりに僕を真っ直ぐ見つめてる。  そう、ものすごく久しぶり。 「僕…………そういえば、避けられてた」 「!」 「やっぱ、避けられてっ……た?」 「いや……それは」  それにさっき、学食の廊下のところで壁バーンってびっくりしたんだ。一人壁ドンって、エアで、そこに誰もいないのに、壁と対決みたいなの。  グリーンは困ったって顔をしながら、口元を押さえて、ぽつりと呟いた。 「え?」 「……たから」 「何?」 「さっきの子が腐女子だから」 「…………へ?」  なんじゃそれ。腐女子だと、壁バーンってするの? 「ちょっと前に、青葉に貸そうと思って持ってたBLを彼女が見つけてさ。青葉と同じ作家さんがすごく好きらしくて」 「うん」  それがどうして僕が避けられることに繋がるんだ。それから一人壁対決の理由に。 「青葉が彼女と繋がったら、イヤだから」 「……」 「SNSは青葉の見てたけどそこに俺がリアクションして彼女が青葉を見つけたら困る」  今度はちょっと怒った顔をして。 「青葉、女の子が好きデショ」 「!」  急にそこだけ外国人みたいに話して、頬を真っ赤にしてる。  趣味が合う女子なんて、ライバルじゃんって、すごく小さな声でぶっきらぼうに呟いた。いつもはハキハキ話すのに口元を手で覆い隠しながらすごく難しい顔して、ゴニョゴニョって。  遠ざけたかったって。  学科が違うから、大学内とそれからSNSでしばらく青葉との接点を持たないようにしておけば、彼女に見つかることはない。けど、そんなの青葉に言えるわけないでしょって。 「二回目の告白、失敗したし」 「……へ?」 「懇親会の時、つい、言っちゃったんだ。焦ってたし。ホッとして」  あの時は、坂部さんを何か良かぬ輩と間違えたんだっけ。BL設定で言うなら、通りすがりのナンパ師みたいな? そんなのリアルであるわけないし、リアルでそんなナンパ師がいたとしても僕はその相手に抜擢されないのにさ。 「あの辺から……青葉、少し変だったし」  女の子が恋愛対象の僕がなんだか様子がおかしかったって。 「あんなところまで、懇親会とかまでついて来られて、イヤに決まってるって」  少し視線を逸らされてしまう。なんだかぎこちない。そわそわしているような、落ち着かないような。気まずそうな顔にも見えた。 「けど原画展は一緒に来てくれる。じゃあそこまで嫌われてはないのかもしれない。趣味が一緒だから嫌いにはなってないのかもしれないって」  そのあたりで僕の様子がおかしかったとしたら、それは嫌いとかじゃないんだ。  ただ僕は服のことで悩んでたんだ。  カフェの時は自分の服装なんて気にしてなかったのに。原画展の時はさ、デートにそわそわする男子みたいに。 「なのに、その原画展の帰りのあの子に遭遇して、すごい焦った」 「趣味一緒だから?」  コクンって頷いてる。  その辺り、ではね。  僕こそ、あの子とグリーンが仲良しで、同じものが好きで、僕より明るくて、話しやすそうで、グリーンと似た感じの女の子だったから、てっきり、僕は。 「なのにさっき食堂で、二人が遭遇したのを見かけて、勝手に身体が動いちゃって……驚かせてごめん」  僕は。 「僕はね、グリーンがあの子のこと好きになっちゃったのかと思った」 「は、はぁ? な、なんでそういうことに」 「だって」  まぁ、色々、あるわけです。  でも、今のありえないでしょって驚いてるグリーンの顔を見たら、なんか、そんな色々はとりあえずどうでもいいやって思えてきた。  グリーンは心変わりしてなくて、今も僕のことが好きで。 「グリーンのこと、好きだよ」 「……」  色々考えたり、考えなしに泣いたり追っかけたりしたけど。  グリーンの好きと僕の好きがくっついたんなら、もういいやって。 「は? ちょ、いつ、から?」 「んー、それはわかんない」 「え?」  すごくすごくイケメンで、大学の中でも一躍時の人って感じで、女子にも男子にも大人気。かっこいいって、しっかり者だって、クールで。 「わかんないって、だって、青葉は女の子が」 「うん。今も別に恋愛対象は女の子だと……思う、けど」 「!」  真っ赤になったり、僕の恋愛対象が変わらず女の子だと知った途端に不安そうな顔してみたり。みんなが知ってるグリーンとはちょっと違うグリーンを僕は知っている。今日のグリーンは、っていうか、ここしばらくのグリーンは焦って慌ててばっかりだ。  でも、それは僕も同じか。  焦って慌てて、大学生にもなったのに、さっき子どもみたいに泣いちゃったし。  けど、そういうもんなのかなぁって思いながら、そっと、二回目のキスをした。  グリーンはポカンってしてる。きっと僕しか知らないグリーンのちょっと間抜けな顔。 「グリーン、イイデスカ? 日本語にはスキって二種類の意味があるんです」 「!」  一回目の告白の時に言われた。  僕は最初からグリーンのことは好きだったよ。ライクと……うーん、少しライクとラブの中間、いや、ライク寄りだったかな。そこから少しずつ少しずつ寄っていったんだ。  ここで二人で話して。  カフェで美味しいもの食べて。  相合傘の時、君が優しいって知って。  二人で本屋で萌え転がって。  そうそう、あの時、パネルのさ。陽キャ女子の割り込み事件の、あの時、ちょっとググーっと寄った気がする。  それから看病してあげた時も、やや、ググーっとしたかな。  原画展も、毎日交わす些細なおしゃべりにも。  少しずつ、少しずつ。僕の中のライクがさ、一歩、二歩、三歩って。 「ちなみに僕が言ったのはラブの方の好きです」  そう伝えたら、君はイケてる顔をくっしゃくしゃにして、キラキラ輝く空色の瞳をギョッと閉じて、とっても嬉しそうに笑っていた。  僕が君を笑顔にできたのが、とても、嬉しくて仕方なかった。

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