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第34話 オーマイゴッド

「知ってたよ?」 「「えっ!」」  僕とグリーンでハモっちゃった。 「グリーン君が青葉君のこと好きって」  お昼後、僕らは話し込んでた、っていうか僕が告白してたりで、午後の講義はサボってしまった。僕はまぁ、大丈夫なんだけど、グリーンはそんなに大丈夫じゃない講義だったらしくて、日本文化棟に二人で顔を出すと前髪パッツリなあの女の子が代返を男子に頼んであげたから、今度学食オムライスを奢れって笑ってた。  あっけらかんとした感じの子で。あっけらかんとグリーンが僕のことを好きだって知ってたって言われて、二人で驚いてた。  さっきの一人壁ドンを謝ろうと思ったんだ。驚かせただろうからって。けど、驚いたのは僕らだった。 「や、だって、わかるよ。オタクのリサーチ力見くびらないでよぉ。もうあの原画展で遭遇した時に、わかるよぉ」  あはははって笑ってる。 「だって、咄嗟にグリーン君、青葉君のこと慌てて隠すんだもん」  また、あはははって笑って、今度はその拍子にパッツリ切った前髪がハラリと揺れた。 「内心、にひひひ、って笑いながら、知らないフリして堪能しまくってたよぉ」  今度は、怪しげに笑ってる。にひひひって。 「私、日本文化科の渡邊立夏(わたなべりつか)宜しくね」  夏が名前についてるからか、夏みたいな、太陽みたいな子だった。 「あ、ちなみに、彼氏がいるので、そこら辺は安心してください」  そして、とっても可愛い子だったから、やっぱり彼氏がいた。 「どっちにしても僕があの子を好きになっても振られてるじゃん」  彼氏いるって最初にそういう話しないの? って、訊いたら興味ないからって。グリーンがそう言ってた。 「振られるとは限らない。青葉のことを好きになって彼氏のことを振るかもしれない」 「っぷは、ないない、それはない。僕モテキャラじゃないし」 「そんなのわからない。青葉はとても魅力的なんだ!」  僕らはその後、それぞれの講義に午後参加して、帰り一緒に帰ることにした。って言っても、僕はバスだし、グリーンは近くのアパートだし、大学の正門のところでグリーンは右へ、僕は左へ行かないといけないから、一緒に帰るというか、一緒に構内にある中庭でベンチに座ってる。 「いや、その心配は本当にいらないかと、だって僕だよ? って…………何その、すごい顔」  しかめっ面っていうか、なんだこいつ何言ってんだ馬鹿野郎みたいな顔。眉をぎゅっと寄せて、口をへの字にして。 「青葉はちっともわかってない、俺はだから懇親会の時だって」 「いやいや……僕どっちかっていうとモブだし」 「モブな訳ない! 青葉はっ」  グリーンはかっこいいけどさ。 「…………ほら」  そう思いながら隣に座るグリーンを見てたら。 「今だって、すごく可愛い」  そう小さく呟かれた。  自慢にならないけど、僕の人生で今までモテたことなんて一度もないんだ。そりゃ、グリーンくらいのイケメンだったらモテるだろうけど。  チビ助だし、そもそも人見知りすっごいからちっとも話せないし。女子となったらもう意識しちゃうっていうか苦手意識なのかな、上手に話せなくて。 「むしろなんで僕がグリーンに好きになってもらえたのかが不思議だし。グリーンがゲイだとしてもさ、もっとかっこいい人とかいるじゃん。うちの大学にだって」  建築にいる、名前知らないけど、かっこいいって言われてる人いるの知ってる? って訊いたら、知らないってそっけなくグリーンが呟いた。っていうか、基本、僕のこと以外には興味なさそうな返事が返ってくることにちょっとだけ驚いたんだ。  いつも話すBLトークとかではなんでも興味津々タイプって思ってたから。グリーンの知らない作家さんの作品とか紹介するとノリノリだったし。 「青葉は俺のことをとても褒めてくれるけど」  かっこよくて、モデルみたいで、友達が男女問わずたくさんいる。明るくて、ハキハキ話す人で。だから僕とは全然違うタイプなのにって。  でも、今、ぽつりと話し始めたグリーンは少し……。 「俺は、アメリカのど田舎にいたんだ。それこそ海なんてテレビでしか見たことないってじーちゃんだっているようなど田舎」  少しいつものグリーンと違ってる。  そんな人いるんだ。アメリカってなんでもイケイケな気がするのに。 「ネットに疎い高齢者とかは特に古代人? ってくらいに古い考え方でさ。アニメもコミックも子どもが見るもの。ある程度になっても見てるのは」  異常者って、ひどく小さなグリーンの声だった。 「だから、俺は夜中にスマホの小さな画面の中でこっそり見てたんだ。変なのかもしれないって思いつつ、ダメなことみたいに」 「……」 「そのスマホの中に君がいた」  遥か遠く。海を越えて、飛行機で十何時間、そこから車でまた大移動。そんな遠くから。 「あおっぱ。はとても楽しそうだった。絵を描くのも、漫画を読むのも、写真も……ランチとか、お母さんが作ったお弁当とか、いつだって青葉は楽しそうだった」 「……」 「君を見てると俺は元気になれた。ここから飛び出そうって勇気をもらえた」  僕はモブキャラなんだ。 「俺の好きなものは、おかしなものじゃないって自信をもらえた」  グリーンの方がずっとすごくて、生まれ持ったメインキャラ感がすごくて。 「あおっぱ。は俺にとって神様だったよ」  なのに、僕は。 「そして青葉は俺にとって、宝物だ」  君にとっての僕はびっくりするくらい神々しいキャラらしくて、聞いてるだけで、全身丸ごと心臓になったみたいにドキドキした。

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