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第36話 指の先っちょ

「にしてもなんか、これ異色の組み合わせ感、ハンパなくねぇ? 俺が普通のオタク、青葉は人見知りオタクで、グリーンが陽キャ全開バリバリイケメン。その三人でランチって」 「そう? 俺はあんまり」 「っていうか、俺、おじゃま虫じゃない?」 「いや、そんなことは……青葉とはいつも空き時間に一緒に話せてるし。ヤマは青葉の数少ない友達の一人で、大事な友達だから、俺も大事にしたいなぁと」 「……お前、天然のタラシだな」  三人でお昼を食べることが多くなった。  もう、あのバス停でグリーンがずっと僕が来るのを待っていた一件のおかげで、大学の中ではあのイケメン外国人学生の大親友はなぜかとっても地味なチビ助君らしいっていう噂が広がっていて、一人で歩いていても、なんか視線が痛いっていうか。  人見知りの僕にとってはやや、こう、針のむしろじゃないけど、そこまでいうとなんか物々しくてすごいけど、でもいたたまれてないっていうか落ち着かないっていうか。  だからそこに山本が加わると、少しホッとするっていうか。 「っていうか! 二人とも、ちくりちくりと僕の悪口挟んでるんだけど!」 「「え?」」  二人して、不思議そうな顔してこっち見ないでよ。  言ったじゃん。山本、自分はオタクで、僕にはオタクプラス人見知りって。自分はちっとも人見知りしないからって。  それに、あろうことかグリーンまで言ってたんですけど。今、サラリと、ヤマは数少ない僕の友達って。  確かに少ないけど。  確かに、人見知りだけど。 「だってお前、事実じゃん」 「だって青葉、ヤマ以外と一緒にいるとこ見たことない」  確かに、そうなんだけど! 「俺はすごいと思うぜ? 人見知りだったお前がまさか大学一のイケメンを彼氏にするなんて快挙。すげぇよ」 「友達は多いからいいってわけじゃない。少なくてもその人がとても深い親友ならそれでいいと思う」  確かに、そうなんだけど!  何も言い返せず、今日はゲットすることの叶ったオムライスをパクリと食べた。 「まぁ、人それぞれだよな」 「え?」  食事を終えて学食を出たところで、山本がぽつりと急にそう言った。僕は一歩後ろを歩いていて。グリーンは山本の隣で、独り言みたいなその呟きに何だろうって訊き返して。 「んー? お国柄って言うのは確かにあるもんだろうけど、結局、考え方っていうのがそもそも人それぞれってこと。日本にしかオタクがいないわけじゃないっつうかさ」 「……」 「あ、そんじゃ、俺、午後の講義こっちだからさ」  山本は手を振って、自分の学科のある棟へと小走りで向かった。グリーンはそんな山本の背中をじっと見つめて、小さく笑った。 「俺」 「?」 「うらやましいなぁって思ってた」 「?」 「アメリカにいた時は周りに同じ趣味の人はリアルに一人もいなかったから、あおっぱ。とヤマがよく一緒にリアルで楽しそうにしてるの、すごくうらやましかったし憧れだったんだ。だから、なんかちょっと感動した」  ずっとグリーンの好きなことはスマホや画面の向こう側にたくさんあったんだ。 「それに俺にとっては神様だし。あおっぱ。は」 「え、えぇ? なんか、そんなたいそうなものじゃ」  グリーンがたまに向けてくれる僕への視線は少しくすぐったい。大事そうで、大切そうで、それに眩しそうで。眩しいのはグリーンのほうなのに。  グリーンこそ、みんなに眩しがられちゃう存在なのに。 「あ、グリーン君!」  その視線がまたもやくすぐったくて俯いた時だった。 「あのね」  多分同じ学科の子、なのかな。立夏さんじゃなくて、全然知らない子。その子がグリーンに話しかけて、グリーンがそれに答えて、またその子が話しかけて。  あ……って、なった。  多分友達、じゃん。  あの子は。  次の課題のことを訊いてるだけ、じゃん。  それなのにさ。 「グリーン」  さっきはなんでもなかったんだ。山本とグリーンが僕の前を歩きながら話してるのはなんともなかったんだ。僕は一つもその会話に入ってなかったけれど、でも普通に聞いてた。  なのに、今は。 「青葉?」  今はなんでもなく、なくて。 「……ぁ、えっと」  ギリギリだった。僕がグリーンを呼ぶ一秒前にその友達の女の子が「バイバイ」ってしてくれたから、邪魔せずに済んだけど。 「あのっ」  おかしいんだ。  山本の時はちっともこれぽっちもチクチクしなかったのに。今は胸のことと指の先っちょがチクチクして、思わず、グリーンの服の袖をぎゅって握ってしまった。  ぎゅって。 「ご、ごめっ、なんでもない」  なんにも用事なんてないのに。僕もグリーンも午後の講義があるから、グリーンはあの子と同じ棟に行かないといけないのに。僕はあっちの、自分の学科の棟に行かないといけないのに。  ぎゅっと引き止めちゃって。  ほら、グリーンだって驚いてるじゃんって。 「な、なんでもないっ」  僕は真っ赤になりながらその手をパッと離して、走ってた。どこかおかしいんじゃないかなと思うくらい、外科?内科? 皮膚科? どこの病院に行くのがいいんだろうって考えちゃうくらい、指先が本当にチクチクしてたんだ。 「ヤマはすごいなぁ」 「そうかぁ?」  オムライスを食べ終わり、学食を出るとグリーンが山本に関心をしていた。自分の大親友に彼氏ができたことに対して、本当にちょっとも動揺することなく、そのまんまで受け入れてることに。 「俺の周りはそういう反応する人、もしかしたらいないかも」 「えぇ? アメリカってそういうのすっごいフリーダムなんじゃねぇの?」 「そうだね。大都市ならそうかも、俺の住んでるのは内陸だから、田舎なんだ。何にもないところで」 「へぇ、アメリカも色々なんだなぁ」 「そうだね」  グリーンがふわりと笑った。  言ってたっけ。漫画もアニメも子どもが見るもので大きくなっても見てるのはおかしいって言われちゃう地域だって。

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