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第39話 夏が来たよ。
正直、言っちゃうと、さ。
僕は男で。
恋愛対象は基本的に女子で。
グリーンは一緒にいるのとものすごおおおく心地良くて、ずっと話してたくて、一緒にいるとふわふわした気持ちになって、それで、もうもうびっくりするくらいにイケメンだから例外なんだって思うんだ。その、僕の恋愛対象として例外で男子なのに好きになったんだって。
「まさか、浴衣を着て花火大会行けるとは思ってなかった。本当にありがとう。でも、似合ってる? 青葉のお母さんには褒めてもらえたけど。ていうか、青葉のお母さん、優しい人だったね。イケメンイケメンって百回くらい言われた気がする」
そりゃ、イケメンだもん。僕にとって例外に好きになっちゃうくらいの。
「青葉は?」
だからさ、僕にとってはすごく例外なんだ。スペシャルっていうか、別枠っていうか。だって、やっぱり僕は女子を可愛いって思うだろうし、だからね、その、つまりは。
「青葉?」
「へ、へっ?」
「あんま? かな。さっきから、少し無口だ」
「!」
だ、だって、だってさ。
「……に、似合って、ます」
「本当?」
「ぅ、うん」
ドキドキ、する。
「よかった」
ものすごくドキドキしてしまう。その、つまりは恋しちゃうって感じで意識しちゃうんだ。
「青葉もすごく似合ってる。浴衣姿が見られるなんて思ってなかった」
僕を見て、とても嬉しそうに目を細めて笑うグリーンに心臓がテンパってる。どくどくどくどく、うるさくて仕方ない。
「青葉?」
「! な、なんでもないっ」
こんなイケメンが浴衣着て歩いてるんだ。視線がすごく集まっていく。ほら、もうそこの女子とか今にもこっちに歩いて来そうだし。さっきなんて、うちのお母さんが言ってたとおりナンパされかけてたし。
でもわかるよ。声かけちゃうって。それこそゾンビみたいにふらふら来ちゃうって。
だって、いつものグリーンと違うんだもん。普段だってかっこいいのに、これは反則だ。
自分でグリーンに浴衣貸すって言ったんだけどさ。
浴衣があるなぁって思い出してさ。前にすごく有名な花火大会にお父さんの会社に福利厚生ってヤツでチケットもらえて、お母さんがテンション上がって家族分の浴衣まで揃えて見に行ったんだ。一泊二日で。その時の浴衣。でもそれ以外には着る機会なんて年に一回もないから、もうお母さんが捨てちゃったかなって思ったけど。あるよっていうから、着たいって。できたら、もう一人、僕以外にもって言ったら、お母さんテンション上がっちゃって。しかもそれで連れてきたのがすっごいイケメンのグリーンだったから余計にテンションが上がりすぎて、うちのお母さんが花火の代わりに打ち上がっちゃうかと思ったくらい。
でも、今、僕も結構テンション、すごい。
「それにしてもすごい人だね」
「うん。ホントすごい」
駅から少し歩いて、大きなグラウンドがあるんだ。地区マラソンのゴール地点にもなってたりするでっかいグラウンド。そこが会場になっている。
会場に着くとものすごい人だった。駅にも人が溢れるくらいにいたけれど、ここはもう比じゃなくて。それに花火大会の会場っていうこともあるし、夜だし、提灯があるけど、昼間とは格段に薄暗くて、ちょっと進むのも少し大変なくらい。
人生初の花火大会に戸惑いながら、僕はチビ助プラス履き慣れない下駄にも戸惑いながら、背伸びをして何処か人の少なそうな場所を探した。
「熱気もすごい……」
「あぁ、あっち行こう。ここより人が少ない」
そう言って、背の高いグリーンが見つけてくれたできるだけ人の少ない場所へと移動した。高い滑り台があるから、たぶん、花火が打ち上がると、この滑り台が邪魔になってよく見えないとかなのかな。滑り台には登ったりできないようにロープでぐるぐる巻きにされていた。
なんか、これ、花火大会を運営する人たちにはそんな意図は微塵もないんだろうけど。でも、山本がいたら、あいつハードジャンル好きだから、「亀甲……ふふふ」とか笑いそう。
「ヤマ、好きそうだよね」
「へ?」
「こういうの」
「! っぷはっ」
二人してすっごい笑った。
まさかここで山本に花火大会のこの雰囲気に少し気圧されそうな気持ちをスパーンと吹き飛ばしてもらえるとは思ってなくて。
「あ、屋台もあるんだ」
「何か、飲み物買ってこようか。こんなに暑いとは思わなかったから飲み物」
「あ、じゃあ、僕も一緒に」
「いい。ここ、涼しいから、ここにいて。青葉は何が飲みたい?」
「あ、えっと、甘いの。なんかオレンジジュースとか? なんでもジュースなら。けど」
グリーンはそう言うとあっという間に屋台の方へと歩いて行ってしまった。あっという間に人の波の中に紛れて、あんなに綺麗で目立つ金髪でさえ、もう見失っちゃって。
「……いや、ナンパ、されそうだから一緒について行きたかったんだけど」
絶対に、あんなイケメンがフラフラ歩いてたら、声かけられちゃうじゃん。
「あれ? 青葉君?」
そう思ったのに。
「……え、あ」
「うわぁ、高校ぶりだね」
僕が声をかけられた。
「あ……」
僕より背が高くなっちゃってショックを受けちゃった、僕が高校で最後に好きになった女の子に。
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