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第41話 初めて
花火大会をどうしてわざわざ会場で見るんだろうって、思ってた。
なんで、暑いし、蚊の餌食になっちゃうだけなのに、あんなに楽しそうに出かけるんだろうって。
けど、わかった。
「うわぁぁぁぁ!」
「わぁお!」
そりゃ、見るよ。
こんなにすごいなんて知らなかった。
こんなに花火が近いなんて思わなかった。
「すごいすごーい!」
ほら、火花が雨みたいに降ってくる。真っ暗な夜空に光の粒になって、ひらりひらりって落っこちてくる。僕はこの簾みたいに垂れ下がって落ちてくる花火が一番好きかもって、グリーンに言ったら、歓声と花火の音でよく聞こえなかったみたいで顔を近づけられてドキドキした。
ドキドキしながら、その耳元で話しかけたら。
俺もこの花火が一番好き。
って、微笑みかけられて、今度は僕の耳元で低い声で囁かれて、もっとドキドキした。
ずっと、ドキドキしっぱなしだ。
「わぁ……」
「すごいな……花火って」
「うん、すごいすごーい! あ! すだれのだー!」
これが一番触れそうで、火花が熱そうでちょっとビビるけど。怖いような、でもワクワクするようなそんな気持ちで手を伸ばした。
「わ! すごい! グリーン、次、連打だ!」
「うん」
「あははは、すっげぇ! 連打すごい!」
大会最初の一発目は見逃しちゃった。
「うん……すごい……」
でもそこからずっと二人で夜空を見上げてる。
ちっとも飽きない。
ずっと見てられるって思った。
うちから観てるとさ、途中で、もういいかなぁってなるんだ。ちょっと、中弛みと言いますか、なんと言いますか。まぁ、ぶっちゃけてしまえば、ずっと色がちょっと違うだけの花火なので……飽きちゃう。それよりも居間で用意されているちらし寿司食べたいなぁって思っちゃう。
「あ、青葉、大きいのが来るよ」
「おぉ。本当だぁ」
真っ暗な夜空を、ひゅうううって、火が駆け上っていく。
それをみんなが固唾を飲んで、その火が弾ける瞬間を見届けようと空を見つめてる。
「僕さ……」
「……うん」
「一回だけ、女子と付き合ったことがあるんだ」
「……へぇ」
グリーンの声が少し硬くなった……かな。このタイミングでこんな話されたら、ちょっと「え?」ってなるよね。
そして、そのタイミングですごい高くまで駆け上っていった火が弾けて、大きな大きな火花が夜空でバチバチって踊った。周りは、レアなそのでっかい一発に大はしゃぎで歓声をあげてる。
「登下校何回か一緒にして、デートを一回」
「……」
「でもそれでおしまい。なんか、僕が煮え切らないっていうか、その、ただおしゃべりするばっかで、そのおしゃべりも大して上手じゃないから、楽しくなかったと思うし。呆れられちゃった」
「……」
友達と変わらないじゃんって。
付き合ってるとは思えないんですけどって。
僕がさ……キスとか、そういうの避けまくってたから。
「そのあと、少しして、仲良い、っていうか、人見知りな僕に気軽に話しかけてくれる女子のことを好きになった。それがさっきの子。けど、告白はしなかった。あの子より背の小さな僕が好きって言ったって、カッコつかないし……」
「……」
「僕は恋愛って、するのは苦手って言うか、恋愛するのが好きくないっていうか。楽しく……なくてさ」
するんじゃなくて、第三者で楽しんでる方で充分です、って。
「僕、思ったんだ」
好きになる理由。
「僕が好きになるのってさ、話しかけてもらったから、とか、優しくしてくれた、とか、親切だった、とか、可愛いから、とかで。僕なんかのこと好きになってくれたから、とか。グリーンもそうでさ。そこは変わらない……」
僕みたいな地味キャラをすごく構ってくれて、優しくしてくれて、かっこいいし、気がきくし、趣味もバッチリ会うから僕も話やすくて。BL好きで、しかもそのBL系統まで被ってる。だから、好きってなったんだと思う。
「けどね」
ここが、ポイント、なんだ。
「けど、したいって思ったの……初めて、だよ」
「……」
「話したい、とかさ」
――ひゅうううううう。
また大きそうだ。と思ったら、ドーンって音がして。
「!」
パンパンパン! って連続で小さな花火が大きな花火の足元でぱちぱち弾け続けてる。
へぇ、これスターマインっていうんだって。会場で見たことなかったから、こういう連打系の花火の名前なんて知らなかった。
「花火を一緒に見たいとか」
グリーンと見られるなら浴衣がいい! って、お母さんに頼んじゃったくらい。
なるほど、動きにくいのに、暑いのにわざわざ浴衣を着て出かける理由はそれか。
「そう自分から思ったのグリーンが初めてだよ」
そろそろ終わりなのかな。連打連打で、でっかい花火がもうこれでもかって上がってる。ほら、また、あんな高いところまで火が昇っていってる。多分あれはめっちゃ大きいと思うんだ。まさにラストスパートって感じ?
「……あ」
「? 青葉?」
知らないんだ。いつももうこの頃は「もう花火は鑑賞し尽くしましたって感じで、居間でちらし寿司食べてるから。
ラストスパートがこんなに豪勢だなんて知らなかった。
でもきっとラストスパートがこんなにすごいと知ってても見に来たいとまでは思わなかった。
だってさ。
「青葉? なんで笑って」
「ううん」
前にお父さんの会社でもらったチケットで行った時も、僕は途中でちょっとお腹いっぱいというか、お腹は空いてたけど、もう花火はご馳走様ですって感じで。周りの屋台に目がいってたっけ。ものすごーい日本一ってくらいの花火大会だったのに。
「なんでもないよ」
急に笑い出した僕を覗き込むグリーンにあっちあっちって、せっかくだからラスト見ようとって夜空へ視線を促す。
きっと花火をさ。
「なんでもない。あ! ほら、またでっかいの上がる!」
グリーンと見てるのが楽しいんだ。
「おおお! これは今日イチっぽいよ!」
グリーンとさ、こうして手を繋いで、二人で見上げてるのがとても楽しんだと思うって気がついて笑っちゃっただけなんだ。
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