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第43話 触りたいけど……
「うわぁ……」
親指と人差し指の間のとこが見るも無残なことになっていて、思わず、お風呂場でそう呟いちゃった。これ写真に撮ってSNSに……は載せられないや。モザイクものだ。きっと。
膝を抱えるように座りながら、じっとその無残な指を眺めて、ぐーぱーって、ぶきっちょに足の指を動かしてみる。痛いけど、なんか変な感じ。痛みよりも皮膚一枚なくなっちゃって神経がむき出しになってるとこを動かすから、敏感なような、逆に鈍く感じるような。すごくすごく変な感じ。
こんなとこ、絆創膏貼るの大変だったよね。
ちょっと不格好に巻き付いていた。親指にも、人差し指にも。痛くないようにって。
「……真っ赤だ」
なんでも上手にできちゃいそうなのに、こういうのは少しぶきっちょだって知った。きっと他の誰も知らない。
グリーンは浴衣をクリーニングに出してまた持ってきますって丁寧にお辞儀をして帰っていった。正直に、ジュースをこぼしてしまったと謝って。うちのお母さんはそんなのいいのって笑ってた、もう着ることなんてないだろうし、本当ならこのまま袖を通すことなくタンスの肥やしになってたんだからって。むしろこんなイケメンさんに着てもらえて、浴衣も大喜びよって。
グリーンは帰ってちゃった。
少しお茶でもってお母さんが言ってくれたけど、バスはあんまり遅い時間まで走ってないからって。
たしかにそうなんだ。多分最終はけっこう早かったように思う。電車みたいに深夜まで運行はしていなかった。
慌てて、駅まで送るよって言ったら笑ってた。そんな下駄で痛くしちゃった足で歩かせるわけにはいかないでしょって。
笑って、頬を撫でてくれた。
キスをちょっと期待したけど、そこは普通にバイバイっだった。うちの玄関だし、キスはさすがにできないかぁって思いつつ、帰り道寂しくないかなって。
うちから駅まで歩いて、電車に乗って、そこからバスで大学まで。大学のバス停からまた歩いて。
もううちにはたどり着いた頃かな。
「……」
キス、すごかったなぁ。
触れるだけのキスなら何回かしたけど、今日みたいなのは初めてだった。ファーストキスと、それから何度か。ちょこんって、ふに、って唇で触れるキスなら。
――……ン。
でもあんなふうに声が零れちゃうキスは初めてだった。
啄まれて、ちょっと吸われて、グリーンの唇の感触がすごく鮮明に残ってる。触れるっていうよりも重なるっていうほうが合っているキス。
足首、もたれてるの気持ち良かったなぁ。
足フェチとか? なのかな? そんな僻があるとは知らなかった。っていうか、今もないとは思うけど。あ、でも自分の足だからそもそも違う?
でも、グリーンの冷たい手が気持ち良かった。
男なのに、お姫様みたいに大事にしてもらえて嬉しくてくすぐったかった。
なぁんて。グリーンが王子様みたいにかっこいいから。僕はどう考えたってお姫様になんてなれそうもないただの男子なのに。
――……姫。
でも、あのグリーンの低い声でそんなふうに言われちゃったら。
――青葉。
「っ……!」
想像しちゃった。あの声で、あの手で、引き寄せられて、あのキスを。
「も、ぉ…………」
してもらうとこ。
お姫様みたいに抱き締められながら。
「ど…………しよ」
あんなふうに唇がしっとり重なるような。
「勃…………」
つ、啄まれたり、とか。
「ちゃっ……た」
そんなキスを思い出して。
「……じゃんかぁ」
自分の身体的反応にびっくりしつつも。
「ど、すんのこれ」
――したいって思ったんだ。
そう言った。
僕はグリーンと色々なことがしたい、って。キスだって、もちろん、それ以上だって。
「……ふ……ぁ」
触ったら、ダメ、かな。
「……ん」
ちょっと罪悪感はあるんだけど。でも、あのキス、すごく。
「ン……ぁ」
すごく気持ちよかった。
グリーンの手、大きかった。
背ってやっぱり手の大きさと比例するのかな。足が大きいと背が高くなるっていうもんね。グリーンは背高いから。僕の足首を簡単に持てちゃうし。軽々とだった。背、そっかぎゅって抱き締められたら僕とかすっぽりあの腕の中に収まっちゃいそう。
「あっ」
想像した。
「ぁ、ぁっ」
グリーンの手でしてもらうとこ。僕のこの手よりもずっと大きいだろうから、それを真似したくて両手で覆うようにしながら。
「ン」
濡れた音がお風呂場でやたらと響いてる気がして、シャワーを出して音を誤魔化しながら。
「あっ」
あの手にしてもらったらどんななんだろうって。
きっと僕のこの手でするよりもずっと、ずっと……きっと気持ちいんだろうなって、想像しながら。
「あっ……っ」
その瞬間、ぎゅっと身体を丸めると、鼻緒で痛くした指がじんじんと疼いて。
「ふぁ……ど、しよ」
痛いのすら気持ちい、とか、ちょっと危ないよね。だから慌てて頭からシャワーのお湯をかぶって溜め息と一緒に洗い流した。
お風呂上り、スマホを見るとグリーンが花火の写真をSNSにあげていた。
――最高!!
そんな短い言葉と一緒に。それにそっとナイスを一つ押したら、すぐに個別のほうにメッセージが届いた。
――足、大丈夫?
そう、グリーンから。
だから大丈夫だよって、笑顔のマークもくっつけて返して。
――また、どこか行きたいね。
って、メッセージを送った。
「うー……」
君としたい、もう一つの「したいこと」に真っ赤になった顔をベッドぬ埋めながら、送信ボタンを押した。
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