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第49話 乳学て……。

 今回はカフェでお昼ご飯を食べた。  僕はナスの入ったボロネーゼにして、グリーンはバジルソースのにしてた。バジルを選ぶあたりがなんか、かっこいいって思いつつ、でもやっぱり食べるならこっちがいいなって思って。  けどけど、食べる時に、僕ってば白いTシャツじゃん。はねたら最後じゃんって気がついて、食べるのにすごく慎重になってしまった。まだ買ったばかりのTシャツにトマトはねたら、ちょっと泣く。  で、そんな恐る恐る食べる僕にグリーンが笑ってくれた。  ニコって笑って、唇の端っこにトマトがついてるよって指先で拭ってくれて、すごく。  すごーく。  ドキドキした。  その後はやっぱり本屋さんに寄って、新刊チェックとかして、買うか買うまいか迷って迷って、次にしておいた。この調子では本棚からすぐに溢れてしまうって。グリーンはまた今度にしようかなって言ってた。その後、映画見たかったんだけど、ちょうどいい時間帯のがなくて、もしもそれを見ると終わるの八時とかだから、どうしようかぁって。  八時ってさ。  ちょっと、微妙かなぁ。  夕ご飯食べるタイミングとかあるし?  夜は長いようであっという間だし?  グリーンは予定とかあるのかな。この後。バイトとか、はしてないし。でも、近くに同じ大学の人がいっぱい住んでるんなら友達と約束あったりするかな。映画、少し待って見に行こうよって言ったら、いいよって言ってくれるかな。それとも、ちょっとのこの後予定何って言われちゃうかな。  僕は、映画を見ると、もう八時になるでしょ?  そしたら、もうお腹空くじゃん? かと言ってその前に急いでご飯食べると、変な時間にお腹空くし。  そもそも、映画を今ものすごく、どうしても見たいかっていうとそうでもなくて。  と言うか、今、僕としては。  ――手を繋ぐのも。  僕としては、さ。  ――キスをするのも。  映画見ちゃうと、帰り遅くなっちゃうでしょ? なんか二時間、一緒にいるなら、話したりする二時間がよくて。でも本当は話したりするに時間じゃないのが良くて。  僕はさ。  けど、断られるかもしれない。  グリーンにはこの後、用事があるかもしれない。用事あるって言ってたっけ? 言ってないと思うけど、でもわからないし。  それか用事がなくても、断られちゃうかもしれない。  グリーンがこの後の予定をどう思ってるのかわからない。  そんで、もしも断られたらちょっと……へこむ。  どっちかな。  どっちですか?  僕は。  ――セックスも一緒。 「ね、ねぇ! グ」 「?」  ――したいなぁってなるよ。 「グリーン!」  映画まで微妙な時間だね、スマホで上映時間を調べてから、グリーンはそう言って、とりあえずブラブラと歩いてた。  何かを探してるような、探してないような。でも、ゆっくりゆっくりなんとなく歩いているような、どこかに向かっているような。僕はそのちょっとだけ後ろを、いろいろ考えながら歩いてた。 「青葉?」 「あ、あ、あ、ああのさ」  僕、どもりすぎです。 「あの、映画、観るっ?」  あ、バカ。観たいなぁって言われたらどうすんの? 観たら、終わるの八時だよ? 夜は長いようで短いんだ。 「……あ、あー……」 「観るっ?」 「あ、ぅ、ん」  ほら、見るような、見ないような、どっちかわからない返事なんですけど。断りたいのに断りたくない時の返事みたいな予感なんですけど。 「あのっ、来週もまだやってると思うし」  その予感を消すように少し慌てながら映画の延期を提案してみたりして。 「青葉、ごめん。そっか。用事あった? 夜? っていうか、そっか、帰る時間とか決まってるよね。ごめん。門限」 「ちちがくて」  乳学て、みたいになっちゃったよ。 「あの」  今日だけじゃない。 「青葉……」  ずっと、考えてたんだ。  グリーンのこと。グリーンと、その、する、ことを。 「ごめん。そうだよね。ブラブラしてても、映画まだあと三十分はあるから。どっか入る?」 「映画はまた今度にしようよ」 「あ……じゃあ、帰るなら、電車で一緒に送るよ。俺、あんまり電車乗らな」 「門限ない、です」 「……」  ずっと考えてたよ。  だって、僕、男だから。 「……青葉」 「うち、あの」  そりゃ、考えるじゃん。好きな子と、する、ことを。 「今日、親、いないん、だ」 「……」 「だから、その」 「青葉、今、それは、ちょっと」  ちょっとダメ? 断られる?  思わず、グリーンのTシャツの裾をつかんでしまった。思わず、だったんだ。なんか断られてしまうかもと思ったら、勝手に手が動いちゃって、掴んじゃって、あああ! すみませんって手を離したら。 「!」  離した手を掴まれた。 「それって」 「っ」  僕はびっくりして顔を上げて。そしたら、グリーンのキラキラした瞳が真っ直ぐ僕を見つめてて。もう夜になりかけの、青とかオレンジとか、紫とか混ざって光って影って、いろんな色をした空と同じくらい綺麗な瞳が僕だけを見つめてて。  頷いたんだ。  それって、それですって、頷いた。 「うち、おいでよ」  そう小さく呟いて、僕の手を掴んでくれたグリーンの手をキュッと握り返した。  ――したいなぁ、ってなるよ。  はい。  今、そうなってます。 「是非、オジャマシマス」  今、したいなぁって、なってます。

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