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第53話 君は可愛い。

「ただいま」  本日二回目の「ただいま」をグリーンが言って。 「おかえりぃ」  本日二回目の「おかえり」を僕が言った。  一回目はシャワーを浴びた時に、ドキドキしながらした。もう心臓が口から出ちゃうくらいにドキドキしながら。  二回目は、本当に外から帰ってきた君に、留守番をしていた僕がお出迎えを兼ねて言った。  してる最中は夢中だったから、全然だったのにさ。して、二人で、その、最後までできたって嬉しくて抱き合った瞬間、本当に漫画みたいな絶妙なタイミングで。  ――ぐーぐるるるる、ぐぅぅぅぅ。  お腹が鳴った。お腹ペコペコな僕ら二人は裸のまま抱き合って笑ってた。BL漫画じゃ絶対にありえない、たくさんBL漫画を読んできたけどそんなの一回も遭遇したことのない、色気なんてちっともない事後シーンに二人で大爆笑だった。  お腹空いたって笑って。  運動したからねって、また笑って。  キスしたら、またお腹が鳴った。 「これでOK? 野菜炒めミックスと、肉」 「ありがと。デリバリーでもいいのに、親、お金おいてってくれたし。道迷わなかった? 僕、地図って描くの苦手」 「ちっとも迷わなかった。青葉の地図のおかげ」  少しわかりにくいんだ。右行って左行って、また右行って。住宅地だから曲がり道多くてさ。たまに僕でも迷うんだ。さすがによく行くところなら迷わないけど、郵便局とかさ。たまに行くけど、後その辺にあるのは知ってるけど、行ってみたら、一本隣の通りを歩いてて、ずっと辿り着かなかったり。 「青葉は平気?」 「うん」  平気だよって頷いて手を差し伸べたら、近くのスーパーで買ってきた食材じゃなくて、グリーンの手が僕の手を掴んで、部屋の中、たった数歩を手繋ぎデートみたいに歩いてる。  グリーンもそう思ったのか目が合ったら楽しそうに笑ってた。  僕は部屋の中なら大丈夫だけど、外はダメって、グリーンが言うから留守番してた。  大丈夫だよ、歩けるよって言っても、そこは断固として譲らないのが、なんか、嬉しくて、くすぐったかった。  大事にされてる感じがものすごくくすぐったくて。 「座ってていいよ」  こんなヘラヘラ笑ってるくらいなのに、僕を大事にしてくれるのが嬉しくて、また笑った。 「平気、っていうか一緒に作ろうよ」 「でも、初めてで」 「まぁ、なんか、そこにぶっとい大根挟まってる感はあるけど」 「ダイ」  そこでグリーンが耳まで真っ赤にしながら、口元を手で覆い隠した。きっとこれは恥ずかしくなった時の癖。口元を手で隠すやつ。  この癖を知ってる人は何人くらいいるんだろう。 「ちょっと失礼」  意外だよね。 「? 青葉?」  そんなグリーンをさ、可愛いって思うんだ。 「……」  キス、したいなぁって思うんだ。 「えへへ」  だからキスをした。手を掴んで、隠しちゃってた口元に僕から背伸びをして、ちょこんって。そんなにしっかりキスできなかったのは、僕がチビ助だから、グリーンがかがんでもらうか、こっちが背伸びをしないといけなくて。だから、今、驚いて止まってるグリーンにキスをできたのはほんの瞬きほどの時間だけ。  ほら、つま先立ちをすると、違和感がね。  大根、挟まってる感じがあるわけで。 「青葉って……」 「?」 「天然小悪魔総受けキャラだよね」 「! は、はぁぁぁ? グリ、グリーン、すごい日本語覚え」 「いや、これは青葉がよく言ってたから」  そうだっけ。そんなこと言ってたっけ?  あ……。 「高校卒業くらいの時、電子で見つけたって」  あぁ、言ってた。だって、すっごい尊かったんだよ。天然小悪魔が最強に可愛い絵でさ。 「けど、青葉の場合。天然小悪魔総……じゃなくて一途がいいけど、受けの一生懸命が可愛いキャラ」 「っぷ」  何それ、属性多すぎて迷子じゃん。そう言って笑ったら、今度はしっかり唇が重なった。 「……ん」  グリーンが背中を丸めて首を傾げてキスしてくれたから。 「青葉の笑った顔、すごく好きだ」  そう、低い声で囁くグリーンはまるで、金髪碧眼スパダリ王子系総攻めキャラみたいで、いや、もうそのまんまで、グリーンが言うよな天然小悪魔でもなければ、総受けどころか、グリーンが珍しいってだけの非モテ男子でモブな僕は真っ赤になりながら、繋いだ手をキュッと握り返していた。  違うかも。 「はい。すみません。突然、お邪魔しています」  金髪碧眼スパダリ王子系総攻めじゃなくて。 「あ、二人で料理しました。野菜炒め。はい。美味しくできました」  金髪碧眼スパダリ王子系超律儀真面目攻め、だ。 「はい。今度、また、はい。ありがとうございます。気を付けて」  泊まるからって、わざわざうちの親に電話で挨拶するなんて。そんなのいいのに。山本なんて全然そんなのしないし、うちの親だって気にしないのに。 「電話ありがと」 「ううん。けど、ホントにいいのに。うち普通の家だよ?」 「うん。けど」  ご飯美味しかった。初めてにしては上出来だったよね。僕ら。  野菜炒めに、お味噌汁はお豆腐。まぁ、野菜炒めの分量は間違えて、何人分? みたいになったけど、でも育ちざかりですから。 「けど、やっぱり」  あ、手。 「彼氏だから……」  そう言って笑いながら僕を引き寄せてキスをするグリーンの手はとても温かった。  緊張してない。  そして、僕の手も同じくらいに温かった。

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