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第55話 難読漢字もなんのその

「ねぇ、青葉、この漢字なんて読むの?」 「えー? どれ? あぁ、これはジッシツ、だよ」 「ジッシツ……」  グリーンとBL漫画読んでる。  ただいま、グリーンの部屋で。  バイトが終わってから、大学最寄りの駅で待ち合わせて一緒にバスに乗って、それで今日は、その……お泊まり、とかしてみたり、して。  うちじゃ、ほら、この前は、ね。  特別というか、特例というか。親がいなかったけど、基本、親もいるので。  でも、グリーンの部屋にはご両親がいないわけで。  イケメングリーンが大好きなおうちのお母さんが、あれ持っていってあげて、これ持っていってあげて、これもあれも、それも、って、僕一人じゃ持ちきれないほど持たせようとするくらい。大歓迎で見送られた。  僕だってグリーンに読ませたいBL漫画をたくさん持っていきたいのに。  そして最終的には、なんならうちにご飯食べにいらっしゃいって。  だから、駅で待ち合わせて遭遇した時、すっごい笑ってた。僕ってば、お弁当抱えた旅行者みたいな格好になってたから。 「グリーン、難しい漢字は読めるのに」  たまに、こういう普通に使う漢字は苦手らしくて、一緒に読んでるとなんて読むのか聞かれることがある。そりゃそうだよね。日本人の僕ですら、たまに「…………ぇ?」って思うことがまぁあるわけで。外国人のグリーンが日本語で僕と充分に会話できちゃう時点で物凄いことなわけで。 「書くのもできるよ。ツボミ、ナブル、アオカ」 「ちょわあああああ! 書かなくていいからっ!」  グリーンが達筆で綺麗な英語と、少しあどけない日本語が並ぶノートに、いかがわしい漢字を並べて書き始めて、僕は慌ててそれを手で遮った。漢字に罪はないですけれども、今、二人で勉強している日本文学のノートに表現の自由なんて題材が書かれているすぐ近くにそんな漢字を並べられても、だよ。 「でも、青葉も読めるでしょ?」 「そりゃ、腐男子ですから。そういうBL漢字検定みたいなのがあったら優勝、とまではいかないけど、普通の大学のテストよりは高得点取れる自信あるし。BL小説なら一日読み耽られます!」  抉る。  貫く。  口腔。  後孔。  などなど。 「でも、難しい漢字ってけっこうハード系に多いから」 「あぁ確かに」 「! もしかしてグリーン、ハード系の方が」 「……」 「なんでそこで無言!」  難読漢字が多いのって、ちょっとえろすが度数高めだよね。  まぁ、それもありっちゃありなんですが。 「僕はほんわか甘いのがいいからなぁ」 「……俺も」 「いや、間があったし。ってそこでまた無言で笑うなよ」 「でも、蕩ける、とかがいい」 「へ?」 「青葉とするなら」  そういうの好き。触れて、気持ちが柔らかくなって、ポカポカして、ふわふわして。  なんかさ、付き合ってキスしてその先もさ、もっとこう別世界になっちゃうような気がしてた。僕が僕じゃなくなるような、グリーンがグリーンじゃなくなっちゃうような。そういう場合もあるんだろうけど、僕らはそうはならなくて。 「ぅ……ん」  グリーンが綺麗に微笑んで、真っ黒な僕の髪を撫でた。そして、その髪にキスをしながら低い声で僕の名前を囁いて。 「僕もそっちがいい。蕩けるとかが……いい」  僕のおでこにキスをした。 「……」  顔を上げると、そのまま唇に唇で触れて。 「……ン」  舌を挿し込まれると、こくん、って、吐息を飲む僕の喉奥で小さな音が零れて。キス、すると、おしゃべりが止まるからさ。 「グリーン」  ついさっきまでBLトークで盛り上がっていた部屋の中が一気に、静かになって、グリーンの舌の柔らかさを味わうようなキスに、僕の心臓がトクンって鳴ったのも聞こえちゃいそうだった。 「あ……ン」  ちょっと恥ずかしいよ。 「ひぅ……ン」  自分で服を捲り上げて、グリーンに乳首を舐めてもらってるみたい。 「ひゃぁ……あ、ん」  自分から乳首を可愛がってもらってるみたい。 「あ、あっ……ン」  ちゅう、って吸われるとたまらない。 「あ……やぁ……ぁ」  口の中にすっぽりと咥えられて、グリーンの舌先に押し潰すように舐められると、震えちゃう。 「あっ」  蕩けた声を上げて、乳首を吸ってくれるグリーンのキスを追いかけるように背中を反らせた。 「青葉」  名前を呼ばれて顔を上げると、濡れた唇に唇を食べるように重ねられて。 「ふぅ……ン」  キスをしながら、薄っぺらい身体を撫でられて、鼻にかかった甘えた声が零れちゃう。 「グリーン」 「先に、脱ぐね」 「う、ん」  こういうの好き。 「やっぱ、グリーンはかっこいいなぁ」  触れて。 「そう? って言うか、触られると暴走しそうになるから」 「ん」  腹筋に触ってたら、その手を取られて手の甲にキスをされて、指先を小さく吸われた。それだけで、きゅって身体がときめく。  こういうのがすごく好き。 「青葉は可愛いよ」 「そりゃチビ助ですから」 「そうじゃなくて。小さいとかじゃなく、いや、小さいのも可愛いけど」 「ほら、チビ助じゃんか!」  僕が僕じゃなくなるようなのじゃなくて。 「それにさ」 「?」 「ちょっと、今の青葉は」 「?」 「セクシーさもあるから、俺は少し困るんだ」  グリーンがグリーンじゃなくなっちゃうようなのでもなくて。 「な、そんなわけっ」 「あるんだよ。本当に。困るけれど」  僕らはBL漫画の萌え語らいを楽しむように。 「な……ン、あ」 「ほらね」  キスをして触れて、柔らかく、優しくて。 「ね? 青葉」  蕩けていくんだ

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