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第70話 蜂蜜レモネード

 描いてみたいのは、運命に振り回されるすごーい劇的展開のお話、じゃなくて。  壮大なファンタジーものでもなくて。  オメガバースのトロトロアマアマでもなくて。  前までの僕には描けなかったお話。  でも、今の僕なら描けるようなお話がいいんだ。 『次は……大学前……大学前』 「……」  降りる準備をしなくちゃって、パスケースを鞄の中から取り出した。  大学手前のバス停。  少し左右にゆらゆら揺れながら、バスの中にアナウンスが流れると、「あ、大学着いちゃったなぁ」って可もなく不可もなく。そんなに「さぁ! 今から勉学に励むぞ!」なんて勤勉家でもなければ、「よーし! あいつと今日も大学生活エンジョイするぞ!」なんて友好的な人間でもないので、淡々と粛々と。  そんな感じだったのに。 「!」  大学前のバス停の名前を聞くとちょっと嬉しい気持ちになっちゃう自分がいる。 「迎えなんて、暑いからいいのに」  バス停に降り立つと、ワクワクするようになったりしてる。 「その暑い中、来てくれた青葉を迎えに来たかったんだ」  ふわりと微笑んで自然と手を差し伸べてくれるグリーンに僕も自然と口元が緩むんだ。 「そうだ。さっき、駅で山本に会った」 「へぇ」  本当に毎日毎日暑くて。 「大学に用があったんだって」 「そうなんだ」  バス停からグリーンの部屋まで歩いて五分。でももうそのたった五分で、干からびちゃう寸前だった僕はグリーンが出してくれた麦茶を一気飲みしちゃうほど。  そしてそんな僕を見てグリーンがクスッと笑ってくれる。 「そんでね。変わったって言われた」 「変わった? 青葉が?」 「そう。山本、同じ学科の人と一緒で。僕人見知りだから。けど、その人にも笑って話せたりして」  ものすっごい人見知り。もう知らない人となんて話せるわけもなく、話しかけられても会話続けられないし、笑顔ひきつるし。だから、友達を作るのはすっごい下手。 「グリーンのおかげかな」 「俺?」 「うん。グリーンといると前向きになれるっていうか」 「……」 「なんか、うまく説明できないけど」  小さな些細な変化。けど、ずっと友達の山本と僕にも多少なりとも自覚があるような、そんな変化。これで世界がガラリと変わるわけじゃないけど、でも、僕には明日がワクワクしちゃうような、そんな変化。 「困ったな」 「グリーン?」 「青葉が嬉しそうなのは、すごく嬉しいのに。人見知りがなおって友達が増えるのは少し悩ましかったりして」 「友達とグリーンは全然」 「うん」  首筋にキスをされて、小さく声が溢れた。甘い、ちょっと鼻にかかった、ドキドキしてる声。 「ただ心が狭いだけなんだ」 「……い、いよ」 「青葉?」 「グリーンのヤキモチとか、好き」  そう言って、今度は僕がグリーンの唇にキスをした。 「外、暑かったね」 「うん」 「日本の夏がこんなに暑いなんて思わなかった。よくあおっぱ。が暑い暑いって、溶けるって言ってたのが今ならわかるよ」  グリーンが笑った顔がとても好き。青空に星が瞬くような綺麗な瞳を細めて、麦畑みたいな金色の髪が綺麗で、つい見惚れちゃう。 「……ん」  だって、そうやってグリーンが笑う時の顔は。 「ん、グリーン」  僕にキスをしてくれる時と同じ顔をしてるから。 「あ、僕、汗かいちゃった、から、その」 「?」 「えっちな……ことは、後で、か、もしくはシャワー浴びてから」  自分で言ってちょっと恥ずかしい。  だって、それはつまり、今からえっちなことをすると僕の中で思ったからの発言なわけで。違ってる可能性だってあるかもしれないのに。なんだかそれは期待をしているような感じにも思えて。 「そうしてあげたいんだけど」 「? グリーン?」 「青葉が可愛いからちょっと無理、かな」 「あっ……ン、そんなわけ」  あるんだって、僕がぎゅっと懐に抱きかかえた中から呟かれた。 「あっ……」  麦茶を持ってきてくれたグリーンの指先は少し、ずっと外にいた僕よりも冷たくて、服の内側に侵入して触れられると、ドキドキする。触られてる実感に、すごく、ドキドキする。 「バスから降りてきた時に笑ってくれた青葉も」 「あ、あ、そこ」 「麦茶を美味しそうに飲む姿も」 「ぁ、乳首っ」 「それに楽しそうに色々話してくれる姿も全部」 「あ、あ、あ」 「全部可愛くて」  ころんと部屋に転がるとグリーンが覆い被さって、服を捲り上げた僕のお腹にキスをした。そして、手は胸を、もう片方の手でズボンを引き下げられて、そのままキスが下へと降りていく。 「青葉のこと独り占めしたい」 「あっ……」  期待が汗とか気になる恥ずかしさに勝っちゃう。 「ン、あっ指っ、だめ、口で」  指が入ってきて、と、同時に前を口でされて、恥ずかしいはずなのに、腰が浮いて。 「あ、あ、あ、あ」 「青葉」 「やぁ……ん」  くちゅりと甘い音が自分の身体を弄られると聞こえてきた。甘い甘い、蜂蜜みたいな音、声、それから。 「あっ……」  蜂蜜みたいに気持ちも甘くなる。 「ぁ……ン、グリーンの熱いっ」 「そ?」  熱いよ、すごくすっごく熱くて。 「青葉の中の方が熱い」 「あ、あ、あ」 「溶けちゃいそう」  そう言って微笑んでくれるグリーンの顔が好きで、大好きで、ぎゅっとしがみつきながら、手を伸ばした。 「グリーン……ン」  しがみついて、捕まえて、溶けちゃいたいくらいにお互いにぎゅっとくっついて離れたくなかった。

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