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夏だ!編  1 青春謳歌、才色兼備、順風満帆

 BLってファンタジーだと思ってたんだ。 「おおお……うん……へぇ、なるほどねぇ。そうなのねぇ」  あんなイケメンとイケメンがくっつくことなんてないでしょ?  あーんな壁ドーン……は、最近の傾向で言うと少しダサい? でも好きなんだよねぇ。あの、何と言いますか、独占欲丸出し系の余裕ない攻めのね。  ――お前は俺のもんだろ。  的な?  少しキュッとね、眉を寄せちゃったりしてね? もしも僕があの顔するとしたら、お腹痛いとか、もう全然ちんぷんかんぷんな問題解かないといけない時くらいだけど。  あの苦悶の表情ね。  萌えです。  廊下転がり回るくらいに萌えです。 「スー……ハー」  話はとんじゃったけど。最近では第二の性設定も大流行りなわけで。でもそんな第二の性なんてリアルにはないじゃん? だからね、つまり、言いたかったのは、BLはファンタジーって思ってたってことで。 「スー……」 「青葉、牛乳買ってきたけど、本当にこれをカレーにいれるの? 作り方のところにそんなの書いて…………何、してるの? 青葉」 「ハ、はぅああああ!」  そう、BLはファンタジー。 「…………青葉? それ、僕の服?」  だった。 「あ、あ、あ、あ、あのっ、あのっ」 「……」 「オメガのね! 巣作りをね! どんなもんかと! 思いましてね!」 「……」  見つかっちゃった。まさかの。こんなに早く帰ってくるなんて思わなかったんだって。コンビニ近くにあるけどさ。まぁ、そもそも人様のお洋服引っ張り出して部屋に広げるなんて、とんでもないことだぞ! なんだけどさ。  なんだけど! 数枚だし。ちゃんと畳んで元に戻すつもりだったし。  あぁ、ほら、すっごいポカンって顔されちゃってる。 「いや! ほら! 今、ほら、ちょうど原稿、いっちばんいいとこっていうか、オメガバースの醍醐味を描くとこじゃん? 巣作りってどうなのかなぁって、服のね、山のスケッチをしようと思いましてっ、も、もちろんちゃんと畳んで元に戻すつもりでした! それで! 服をこう山盛りに。そしたら、本当にぃ? 本当にこれで落ち着きますぅ? っていう素朴な疑問がですね」 「オメガの巣作り、真似してたの?」 「……えへへ……」  君が今、夕食にカレーって言って、けど牛乳ないから買ってこないとだねってなって、じゃあ、僕が行ってくるから青葉は原稿頑張って、って言ってくれてありがとうございます。この有様に関しましては、えへへへ、笑って誤魔化す大作戦。 「どうだった?」 「へ?」 「巣作り、参考になった?」  美麗に微笑んで、マイハニーが金色の髪をかき上げる。そして目が合ったらそのまま、石……にはならないだろうけど、でも確実に変な声あげて、ゴロゴロ転がりながら僕の部屋の手前の廊下くらいなら軽く五往復できちゃいそう。  そんな美形の放つ一撃必殺な、真っ青で綺麗な瞳に捕まった。 「……ん」  なぜ、今ここでそのごろごろ転がりながらの五往復をしなかったのかというと。 「ン、ん」  グリーンの服の上に押し倒されて。 「あっ……ふぁ……」 「オメガの気持ち、わかった?」  キス、されちゃってたから、で。 「う、ん」 「僕も、巣作り中のパートナーを見た時の」  パートナーだって。  くすぐったい。 「アルファってこんな気持ちだったんだなぁって思った」  キス、気持ちいい。  触れた唇に気持ちがふわふわになっていく。 「ど、んな……気持ち?」 「めちゃくちゃ萌える」 「そ、そう?」 「うん。発情できるレベル」 「そ、そんなに? ……ぁっ」 「うん」  硬いの……当たってます……よ? 「あ、ぅ……ひゃ……っン」  僕もなっちゃったけどさ。 「青葉」 「あっ……」 「カレー作るの、後でにしよう」 「あ、うん」  そ、ですね。 「あ、乳首、だめ、それ、くりくりしちゃダメっ。気持ちい」 「聞いてる? 青葉」 「聞、いて、ます!」 「じゃあ、先にこっち食べるね」 「へ、あ、あぁっ……だめ、」  BLはファンタジーだけど、でも、ファンタジーがリアルになっちゃったりもして。いや、よくいうでしょ? 事実は小説よりも奇なりって。まさにそれ。  まさか自分がさ、腐男子だけど恋愛対象は女子だった僕がね、まさか男子と恋をするなんてさ。 「青葉」 「んひゃああ!」  しかも、それがまるでBL漫画から飛び出してきたんじゃなかろうかと思うくらいのイケメン、だなんてさ。  誰がそれを予想できただろうか、だよ。 「いただきます」 「あっ……グリーンっ」  その名前の通り、宝石みたいな瞳の綺麗な、金髪碧眼スーパーダーリンが僕の彼氏になるなんて。 「すごいな……カレーに牛乳なんて」 「でも美味くない?」 「うん、美味しい」  我が家のカレーに牛乳は必須です。背ちっちゃいからやっぱり牛乳は飲みませんといけません。最近、SNSで牛乳飲むと背が伸びる、っていうのは「ない」ですっていうの読んだけど。そっとじ、した。それが事実なら僕の十数年が「ない」になっちゃうもん。 「めちゃくちゃ美味しい」 「ふふふー」 「青葉と一緒に食べてるからっていうのもあるけど」 「えへへー」  祝、大学二年生、青春謳歌、真っ最中。 「青葉」  ものすっごい、そりゃもうアルファ並みの才色兼備な彼氏がいる。 「ねぇ、青葉」 「んー? うふふ」 「……それでスケッチ」 「……」 「した? 巣作りのスケッチ」 「……ああああああ!」  順風満帆な夏休みが始まります。

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