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夏だ!編 7 トモさん

 決めました。  僕は決めた。 「すごいな……こっちはいい天気だ」  色んな君を見てみたい、です。  グリーンが眩しいからなのか、微笑んでいるみたいに顔を青空へ向けた。  新幹線を使うほどの距離じゃなく、電車をガタンゴトンと乗り継いで辿り着いた目的地。  僕らの住んでる辺りは今日曇り時々晴れだったけど、こっち、旅行先はたった数十キロ離れただけ、テレビで天気予報を見てると一つの画面に収まる同じエリアなのに、「快晴」って言葉がぴったりだった。 「グリーンのとこはすごいよね。時差もあるしさ、端っこと端っこじゃ天気が全然違う」 「でも、日本も地域ごとに個性があって好きだよ」  こういうの、ズルだよって思う。全然、今のはさ、日本の話をしていたわけで、僕のことじゃないのにさ、そんな優しい笑顔で「好きだよ」なんて言われたらさ。そりゃ女の子は落ちちゃうよ。内心、きゃあああ! だよ。 「もちろん」 「?」 「青葉も好きだよ」 「!」  ぎゃあああああ、だよ。今、僕の内心がぎゃああああ、です。さらりと当たり前のごとく告白されてさ。 「行こうか。オフ会あるもんね」 「あ、うん!」  そう、でした。  レンタカーを借りて、それで、ランチを一緒にしようって。時間は、まだ……。 「あ、オフ会の! トモさんから」 「青葉?」  レンタカーの予約は、って確認と、トモさんからメッセージ来てるかもしれないってことと、あと時間を見ようとスマホをポケットから出して。  前を歩いていたグリーンが立ち止まった。  グリーンは直接トモさんとは話したことないんだ。  けど、今日、大学の友達とグランピングするっていうのを呟いたことで、こっちに来られるんですか? って話になって、そこからトントンって話が転がり、このオフ会が開催されることになったから。だから、もちろん、大学の友達としてグリーンが一緒っていうのは知ってる。で、同じようにグリーンもBL好きで、僕の小説も好きって言ってくれてるって伝えてる。  ただ直接のやり取りはない感じ。  あおっぱ。の漫画を読んでくださってる人同士って認識かな。  で、僕はトモさんがイケメンアルファグリーンを見た瞬間、多分、きゃーってなっちゃうだろうなぁって、思ってて。  でもお昼だけだし。  数時間だろうし。  嫌じゃないよ?  グリーンがモテるのはいつものことだしさ。  でも、トモさんがグリーンに目をハート型に変形させちゃうことは確実なわけで。  だって、あおっぱ。の小説好きってことは、スパダリ好きでしょ? 僕もスパダリ好きだもん。そして、グリーンはまさしくスパダリだもん。  じゃあ、オフ会やらなければいいじゃん、って話だけどさ。  僕みたいな全然すみっこなオタクにしてみたら、自分の漫画を読んでもらえるだけでもすごくありがたいわけで。  逃したくないっていうか。  少しでもよく思ってもらいたいっていうか  だから、渋々じゃないけど、ちょっとだけ渋……くらいで。  で、つまりはさ。  トモさんのこと女子だって思ってたんだ。 「トモさんからメッセージが!」 「? 遅れるって?」  ブンブンと首を横に振った。  違うんだ。 「トモさん!」 「……うん」  ――今更で、ごめんなさい。言おうと思ってたんだけど、なんとなく言い出せなくて。 「トモさんさ!」  ――男、なんです。俺、腐男子なんです。 「男子だった!」 「え?」  びっくりしてた。  うん。  僕も、びっくりした。  だってずっと性別、女子だって。 「僕らと同じ、腐男子、だった!」  青い瞳が飛び出しちゃいそうなくらい、グリーンも目を丸くしていた。  思ったよね? グリーンだってさ、女子だって。あ、いや、僕がもう女子設定で話しちゃってたからか。  男子でした。  腐男子。 「ごめん。申し訳ない」  トモさんがパチンって両手をついて、ぺこりと頭を下げた。  ランチオフ会はカラオケボックスに急遽変更された。トモさんがそうしようって。そしたら、気軽に、人目も気にせず、話の内容も気にしないで話せるかなって。そもそもは美味しいキーマカレーのお店を知ってるからそこに行こうと話してたんだけどさ。 「あー……いえ、全然、気にしないでください」  まぁ少し言い出しにくいかもしれない、よね。  もう僕も女の人だと思い込んでたし。 「っていうか、性別特に書いてないのにこっちこそ、女の人だと思い込んじゃってて」  プロフには確かに性別のこと、一切書いてなかったのに。  こっちこそすみませんって謝ると、トモさんは大慌ててちっとも悪くないって言ってくれた。  年齢は書いてあった。R指定のことがあるからみんなおおまかな年齢は書いてる人が多くて。 「ちょっと身バレしそうだったから性別とか隠してたんだ」 「そうなんですか?」 「そう、だから、どこでどう会社の人に繋がるかわからなくて、あおっぱ。さんにもずっと言い出せなかった」  そうなんだ。  トモさん、大人、だ。僕らも一応成人はしてるけど、そういうのとは全然違うじゃん? 仕事してる社会人ってさ。 「あの、身バレの心配は」 「あ、それはもう大丈夫。ありがとう」  わ。なんか口調も大人っぽい。タメ口、スムーズ。すんなりタメ口。  僕、できないんだよね。敬語からタメ口に移行するって、上手にできなくて、ずっと敬語のまんまだったりする。よそよそしいかもしれないけどさ。そういうのすんなりできるのすごいなぁって思う。 「キーマカレーはなくなっちゃったけど」  そうなんです。僕、けっこう楽しみにしてたりして。 「性別言ってなかったことと、キーマカレー無くなっちゃったお礼に、ここ、奢るよ」 「え! いえ! そんなっ」 「大丈夫。奢らせて。とりあえず、ランチ頼もう」  カラオケだけどフードメニューがけっこう充実してた。見ると美味しそうで、その中にキーマカレーも発見した。けど、ここでキーマ頼んだら、そんなに食べたかったんかい! ってなるかなとか考えてみたり。 「?」  その時、ポケットの中のスマホが、ブブブって鳴った。  メニュー見つつ、スマホを見ると。 「!」  グリーンからだった。  ――嘘つきは良くないよ。  そんなメッセージが内緒話で送られてきて。  隣のいるグリーンを見ると。 「……」  涼しげ、だった。  ――大丈夫だよ。  じっと見ちゃった。  ――言い出しにくかっただけだよ。  その視線に気がついたグリーンと目が合うと、少し、微笑んでくれた。いつもの優しいグリーンだった。

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