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夏だ!編 10 僕は彼の彼氏です。
また今度、まぁ、そうそうないだろうけど「オフ会」とか誘ってもらえることがあったら、行ってみたい、かな。
また女の人だったらグリーンが……とか心配しちゃうのかもしれないけどさ。でも、やっぱり趣味が同じ人と話すのって楽しかった。
それに俺の漫画好きって言ってもらえるのはすごく嬉しいことでさ。面と向かって、ここがよかった、とかここが好きとか言ってもらえるなんて、ちょっと信じられないよね。本、お金とかかかるし大変だけど作ってよかったって思えた。
とにかく楽しかった。
トモさん、面白かったし。
最初、すごい! 大人だ! とか思ったけど、腐った仲間に年齢なんて関係ないのかもしれない。
そう思えるオフ会だった。
そんなオフ会も終了。後は車でグランピングの場所までドライブ。
もちろん、運転なんてほぼど素人なのに山道のドライブはスリル満点。めちゃくちゃ疲れたけど、手動運転式のジェットコースターって思いながら、ワー! って、ギャアアア! って、騒ぎながら楽しくできた、かな。
「ね、ねぇ、グリーン」
「うん」
「あのっ」
グランピングは今、すごい流行ってるから。
今回予約したとこはまだできて半年も経ってないところなんだけど、けっこうリーズナブルで、大人気だったから予約するの大変だったんだ。
ただバーベキューができるわけじゃなくて、トイレとお風呂も完備……のとこもあるらしいです。僕らはそこまでお高いテントじゃないので、トイレは共用。お風呂はシャワールーム棟っていうのがあるらしく、各部屋ごとのシャワールームがあるから、そこを使うんだって。
アクティビティとかもあるそうで。エリアの中央には噴水があるんだけど、そこで夜はキャンプファイヤーが行われる。あとカゴをもらえるので、そのカゴ一杯分だけならエリア南になる畑で野菜を取ることもできるらしい。それをその場でカットしてバーベキューで焼いて食べてもいいんだって。楽しいよね。野菜採ったりとか。グリーンは慣れてるかな。家業が似てるもんね。とうもろこしもあるらしいよ。焼いて、食べたいなぁ。絶対に美味しいじゃん。
普段の生活ではこんなのできないし。
だからめちゃくちゃ大人気のとこだった。
どっかのアイドルのコンサートですか? ってくらい、予約開始の日にち、時刻に正座待機で挑んだくらいだし。
そんな素敵施設の入り口、まずは総合受付棟にてチェックインのお手続を、と言われてるので、そこへ向って今歩いてる。いや、どっちかっていうとただ歩いてるというより、ズルズルと引きずられるように歩きながら。グリーンの名前を何度も読んでいた。
「手! あの」
「うん」
うん、ではなくて。
握手。
手、繋いだまま、ですよ?
こんなの普通男同士でしないでしょ?
だからバレちゃうよ?
バレちゃうってば。
僕らのこと。
ねぇ、グリーン。
「……離したくない」
「!」
そんな問いかけがまるで聞こえたかのようなタイミングでグリーンが言った。声、いつもよりも凛としてて、かっこよかった。
握ってもらってるのは手なのに。
今ので、僕の心臓が握り潰されちゃったかもしれない。
すごく優しくていつだって強引なことはしないグリーンがこんなに思い切り独占欲をむき出しにしてくれるのは、嬉しいに決まってる。
こんなふうに強く手を握ってくれるのなんて、萌えるに決まってる。
ね、心臓がすごくぎゅうううううってなりました、けど?
「いらっしゃいませ。こんにちは」
「あ、あ、あのあの、予約してますっ、えっと、富永、です!」
「はい。富永様ですね。お待ちしておりました。それではこちらにチェックインのお手続きを……」
受付のお姉さんはにっこりと微笑みながら、一枚の紙をバインダーに挟み、高級感のものすごい金縁の黒いボールペンを差し出してくれた。
手は繋いだままだった。
ずっと繋いだまま、一泊二日だし、アメニティは全部揃ってるから、必要なのなんて、夜と明日の着替え用くらい。だから荷物もリュック一つで十分で。だから手荷物もないので、手を繋いだままでも大丈夫。
片手はグリーンに捕まったまま、ドキドキしながらチェックインの記入を済ませた。
ね。きっと、受付のお姉さん、僕らのことカップルってわかっちゃうよ?
「お荷物等は他のございますでしょうか」
「は、はひ。いいえ! 大丈夫です!」
彼氏と彼氏って。
「承知いたしました。それではお部屋、テントのご説明をいたします」
恋人同士って、わかっちゃうよ?
「お食事ですが……」
そうなんです。彼は僕の彼氏です。
「それとですね……」
僕は彼の、彼氏なんです。
「……以上となりますが何かご不明な点などはございませんか?」
「ない、です」
僕ら、付き合ってるんです。そう、まるで言いふらすようにずっと、ずっと繋いだままの手が。
「質問、ない、です」
くすぐったくて、嬉しくて。
「では、こちらがキーとなっておりますので」
「はい!」
僕もキュって。
「どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ」
「ありがとうございます」
ギュッて。
グリーンの手をしっかり握り返して、お姉さんに見えてても構うことなく、今日一日お世話になるテントへと、そのお姉さんからいただいた簡単な地図を頼りに歩いて向かった。
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