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第3話

(そんな気はしてたけど……会話が弾まねぇ!) 夕食の時間、春輝は約束通り貴之、冬哉、宮下と四人で食堂にいた。四人がけのテーブルで、ルームメイトが隣に座っているけれど、喋っているのはほぼ冬哉と宮下だ。 春輝は斜め前に座る宮下をチラリと見た。 彼は柔道部のホープで、身長一九〇センチで体重百キロ超えと、普通の人から見たらとても大きな身体をしており、角刈りで鋭い目付きという近寄り難い雰囲気を出しているが、可愛い物好きという一面を持っている。 その、可愛い物好きというのは人間も入るらしい。宮下は冬哉に対してデレデレなのだ。 「あ、吾郎先輩、今度の日曜日、お祭り来てくれますよね?」 「当然だ冬哉。冬哉の頼みなら、何でも聞くぞー?」 そんな調子でずっと話している二人。方や一切話さない春輝のルームメイトは、黙々と食事を続けている。 (というか、今更だしスルーしちゃってたけど、冬哉も宮下先輩も男だよな?) 春輝は当たり前の事を思うけれど、先輩後輩、いや友達以上に仲が良い二人を見て、これは普通なのか? と納得しかける。 「えへへ、先輩来てくれるなら、僕張り切っちゃおうかなっ」 周りに花でも咲いているのかと思う程の冬哉の微笑み。そしてそれを優しい顔で見ている宮下。その宮下がふと、春輝を見た。 「どうした? 食わないのか?」 どうやら考え事をしていたのに気付いたらしい、いらないならもらうぞ、とすでに三人前を食べている宮下に言われて、春輝は慌てて箸を進める。今日はサワラのムニエルで、食べ盛りの男子高校生には物足りない。 「冬哉、お前の好きな人って本当は誰なんだ?」 春輝は思ったことを口にした。思わせぶりな発言をして、本命に勘違いされては元も子もないじゃないか、と言うと、冬哉も宮下もニコニコと笑う。 「……春輝は優しいねぇ。ねー? 吾郎先輩?」 「そうだなー」 「え? ごく普通の事言ってるだけだろ? ってか、この学校にいるなら男だろ? 冬哉は男が好きなのか?」 隣にいる貴之がため息をついた。何でここでため息だよ、と心の中で悪態をつく。 「逆に、春輝は性別で好きになる人を決めるの?」 「え……」 春輝は思わず冬哉をじっと見た。そこには普段からは想像できないくらい、大人びた笑みをたたえた冬哉がいる。その表情に、ドキリとした。 「水野もこう見えて、可愛いの好きだよな?」 宮下がニコニコしながらそう言う。春輝は何でこんな話題を奴に振るんだ、と全身がむず痒くなった。 「春輝の前のルームメイト、氷上先輩の事も甲斐甲斐しく世話してたし」 「その話は止めろ。……アレは寮則があったから仕方なく、だ。自立している人の方が良いに決まってる」 その世話焼きが前寮長の目に留まって、寮長になったのになぁ、と宮下は笑う。春輝は、貴之がオカンっぽいと思うのは、そういう過去もあったからなんだ、と納得がいった。でも、それなら尚更、春輝の事は放っておけば良いのにと思う。 そこで冬哉がクスクス笑った。 「水野先輩、可愛いの好きってところは否定しないんですね」 男でもですか? と冬哉は聞く。春輝は貴之にさらっとそんな事を聞ける冬哉の勇気に感心した。 「容姿が可愛いと思うのと、好きになるのとは、また別物だろう」 そこで貴之は春輝を一瞥し、早く食べろと言ってくる。どうやら、食べ終わるまで付き合ってくれるらしい。分かってるよ、と春輝は口を尖らせ食べる事に専念した。 「んん? 春輝って水野先輩には敬語使わないのー?」 サラダを口に含んだ時に聞かれて答えられずにいると、代わりに貴之が答える。 「ああ。俺が小姑みたいにうるさいってキレられてからだな」 「そうなんだ……春輝、意外と仲良くやってるんだねっ」 「……」 貴之はため息をつく。あ、またどうしようもなく要領が悪いから仕方なくとか思ってんだろ、と春輝は思いながらお茶を飲み干した。 春輝自身も自分が要領が悪いという自覚はある。宿題はギリギリまで先延ばしにしてしまうし、明日朝が早いと分かっていても夜更かししたり、洗濯物も限界まで溜めてからやるしと、後で困ると分かっていても、ついついやってしまうのだ。 「食べ終わったし、部屋に戻るぞ」 貴之が立ち上がる。それをきっかけにみんな立ち上がって、トレーを返却口に置きに行った。 「……っと」 春輝は誰かにぶつかりそうになって、足を止める。見ると、間宮がそこにいた。 「ごめん、よそ見してた」 春輝は謝ると、間宮はいいよ、先にどうぞ、と促してくれる。言葉に甘えて春輝たちは先にトレーを置くと、それぞれ部屋に戻った。その途中、貴之は何度か後ろを振り返っていて、何だ? と思ったらその先に間宮がいる。 「間宮がどうかした?」 「…………いや、後ろ姿がそっくりだなと思っただけだ」 「ああそれ……よく言われる」 部屋に入ると、そこはバストイレ付きのワンルームだ。左右対称に机とベッドが置いてあり、右側が春輝のスペースで、その更に右側がバスとトイレだ。収納スペースもそれなりにあって広いのだが、プライベートスペースが無いので、困る事もある。真ん中に間仕切りでもあればなぁ、と時々思ったりもする。 夕食が終われば就寝まで自由時間だ。春輝はいつも通り、ベッドに寝そべりスマホで漫画を読んだり、音楽を聴いたりして過ごす。貴之は、勉強している。 「今日は宿題無いのか?」 いきなり声を掛けられて彼を見ると、椅子に座った身体を半分こちらに向けて春輝を見ていた。 春輝はため息をついてベッドから降りる。それを認めた貴之は、再び机の方に向いた。 (へーへー、やりますよ) 後で苦しくなるのは自分だと分かっていても、先延ばし癖は治らない。机に座ると、カバンからペンケースと宿題のプリントを出す。ペンケースのチャックを開けたところで、春輝は異変に気付いた。 「……あれ?」 「どうした」 貴之が机に向かったまま聞いてくる。 「シャーペンが無い」 「落としたんじゃないのか?」 「……えー?」 春輝は天井を仰いだ。入学祝いにもらって、結構使い心地も良かったので、ショックだ。 「気に入ってたのに……」 他のを使うか、と春輝は違うシャーペンを出す。また明日教室を探してみよう、と宿題に取り掛かった。 「どんなやつだ?」 「え?」 会話は終わったものだと思っていた春輝は、思わず聞き返した。 「だから、どんなやつだ?」 落し物で届けられているかもしれない、と貴之は言う。まさか彼がそこまで聞いてくれるとは思わず、春輝は何故かしどろもどろになってしまった。 「あ……い、色はライムグリーンで、オレの名前がローマ字で入ってる」 そう言うと、貴之は分かった、確認しておく、と再び机に向かう。 「……」 もしかして、今のは気遣われたのだろうか、と春輝はじっと貴之を見た。しかし、彼は机の上のノートにペンを走らせていて、こちらを向く気配は無い。 まさかな、と春輝は机に視線を戻すと、宿題をやり始めた。

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