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第4話

  「いきなり挿入すれば、どうなると思う」  ギャザーがひとひら、めくられた。 「わたし自身も、慎ましやかなここも血まみれだ」 「結局それかよ! ゲス! 強姦魔!」 「美しい。瞋恚(しんい)(ほむら)というのが、まさしくそれだ。激昂に瞳をきらめかせるきみは、いちだんと美しい」 「寝言はたくさんだ!」  吼えて、したり顔めがけて唾を吐きかける。橘は指の腹でぬぐったそれを怒りでゆがんだ顔になすりつけて返すと、莞爾(かんじ)と微笑んだ。  銀幕を彩った時代に、演技派として鳴らした橘だ。邪悪な雰囲気をまとうくらい、朝飯前だろう。佑也を組み伏せた今は、さしずめ快楽と引き換えに魂を売る契約を結べと迫る〝メフィストフェレス〟の仮面をかぶった。  身の毛がよだつ。佑也は死に物狂いになってもがいた。手首にこすれて皮膚がすりむけたが、ヘッドボードをたわませて上体をひねった。 「痣になる。おとなしくしなさい」  ミミズ腫れが走る手首を舌が這う。舌は血管に沿って這いあがっていく。後刻、こうして股間を責め苛む。橘はそれの予告編のように、すんなりした五指を順番に口に含んで舐めしゃぶる。  監禁されてからこっち、レッスンと称してほどこされた〝調教〟の賜物だ。橘に触れられると、おぞましさに吐き気をもよおし、にもかかわらず呼吸が乱れる。  佑也は真一文字に口を結び、黒いシャツに包まれた肩に踵落としをみまった。その足が摑まれて、くの字に折り曲げられた。そのうえ、ふくらはぎと太腿が密着するようにネクタイで縛られた。 「あんた、そのガタイは見かけ倒しかよ。縛らなきゃおれを好きにできないなんて、みじめなやつ」  枕が臀部の下に挿し込まれた。腰が浮き、秘部が上を向く。あられもない姿をさらすように仕向けられて、反射的に顔を背ける。謀叛を企てた、それが失敗に終わった。仮に半殺しの目に遭わされても泣きを入れることだけはプライドが許さない。  野性の猫さながら(まなじり)がつりあがった目に、ただ憤怒をたぎらせる。逆光に沈んだ顔を睨み据える。 「愛することと憎むことは畢竟(ひっきょう)、コインの裏と表だ」  ある種、厳かな口調でそう言うと、橘は体重をかけすぎないよう腰を浮かせ気味にしながら佑也に馬乗りになった。そして、しなやかな線に沿ってずり下がっていく。 「愛する女性と一体化したいと願ってカニバリズム──食人の罪を犯した青年しかり、愛は時として人を狂気へと駆り立てる。わたしも同じだ。反旗を翻されたが最後、愛憎相半ばする感情にこの身を灼かれて、ここが咲きほころぶのを待ちきれなくなった」  、とは谷間の奥まったところに息づき、生温かなものがぬらりと行き来する。

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