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第6話

   橘は、あえて素知らぬふうを装っているようだった。愛撫を待ち焦がれて揺らめく花穂(かすい)には一瞥もくれず核心を舐めとろかすのみ。清らかな花を手折るときに備えて道をつけていくばかり。  ある一点に狙いを定めて淫技をほどこすさまは、もはや拷問だ。佑也は鎖をがちゃつかせながら上体をひねり、そのとき花筒を奔放に泳ぎ回る舌が、内奥に息づく肉の芽をかすめた。 「……くっ!」  ぷくり、と穂先が蜜をはらむ。糸を引いて茎を伝い落ち、すべらかな鳩尾に一滴、二滴。 「可憐なここが咲き乱れていくさまは素晴らしく蠱惑的だ。後学のために教えてあげよう。きみのここは、こうすると……」  舌が、ぬらぬらと出入りする。 「襞が狭まって舌にじゃれつく。催促がましく、根こそぎにしかねない勢いで」 「犯りたきゃ、さっさと犯れ!」    と、あげつらうのを遮りざま自由が利かない躰を精一杯ねじって腰を浮かせた。嘲弄はプライドを切り刻む(やいば)だ。ペナルティにふさわしく狼藉の限りが尽くされる展開を迎えれば、少なくとも精神的には橘とフィフティ・フィフティでいられる──そう思う。 「犯す、とは心外だ。これは愛の儀式だ」  指が舌に取って代わった。襞をゆるくかき混ぜ、そこが指に馴染むのを見定めたうえで、中指につづいて薬指が門をくぐった。  指が隘路でひしめく。佑也は歯を食いしばり、その一方で密やかに悩ましい吐息をこぼす。空隙を満たされる歓びに思考回路を蝕まれ、頭の中に薄紅色の靄がかかりはじめるようだ。 「楚々としたここが(みだ)りがわしくも美しく花開いて……それから、いよいよ本番だ」  花筒に挿し込まれた指は、内壁をすりあげながらゆるゆると遡る。かたやペニスを受け持つ指は、淫楽の虜にするためという明らかな意図を持って、それが爆ぜる気配を見せれば根元を締めつける。吐精を封じておいて、そこに的を絞って官能の中枢を繰り返し揉みしだく。 「ふっ……くぅ! ちょ、調子に乗るな……あ」  淫らな核を執拗に爪繰られるにしたがって、蜜が、とろみを増していく。ギャザーが解き伸ばされた秘孔は、もったいをつけてあてがわれた指を健気かつ貪欲に呑み込んだ。  (なか)で一旦ひとつにまとまった指たちが、ギターをかき鳴らすようなタッチでばらばらに動きはじめると、駄目だ。腰が独りでにくねり出して、浅ましいダンスを披露する羽目に陥る。 「……ぁ、ああ……っ!」 「結ばれたい……復唱しなさい」  橘が顔をうつむけた。耳朶にねっとりと舌を這わせてきながら囁く。  とたんに電流のようにびりびりするものが背筋を駆け抜けて、下腹がどくんと脈打つ。ペニスが痛いほどに張りつめる。それでも佑也は憎しみに燃える目つきで橘を睨み返した。

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