生理的な涙で瞳が潤む。陽根が脈打つたび躰が真っ二つになりそうで、それでも嚙み裂く寸前まで唇を引き結んで決して声をあげなかった。 　すると橘の目尻に優しい皺が刻まれた。 「勝ち気で純粋で愛おしい。かけがえのない、わたしの宝物……」 　囁きかけられながら額をついばまれると、図らずも甘酸っぱいものが胸いっぱいに広がっていく。だが、あっさり籠絡される甘ちゃんだと思ってもらっては困る。 　唇が重なった。佑也は、あえて口腔に迎え入れた舌に思いきり嚙みついた。 　反撃に遭うのを期待していたとみえて、橘は満足げにうなずいた。そして、所有の印を押すように血がにじんだ舌で乳嘴(にゅうし)をひと掃きする。 　威嚇的に前歯をカチカチと鳴らして返す。橘が厚かましくも再びくちづけてきたときは、今度こそ容赦しない。舌を嚙みちぎってやる。 　じわじわと、うがたれる。肉の輪が狭まって硬直を押し返しにかかると、かえって圧迫感が増し、掌に爪を食い込ませて処女地を踏み荒らされるつらさを堪え忍ぶ。 　そこが橘の老獪(ろうかい)な点だ。佑也がすくみあがるたびに、ペニスにおざなり程度の愛技をほどこして意識をそちらへ向けさせる。 　やわやわと撫で下ろされると、刺し貫かれる衝撃で萎えたペニスがおずおずとみなぎりはじめる。そして、いっとうエラが張った部分が内に沈めばあとは時間の問題だ。美肉(うまじし)を切り開きながら、陽物が突き進む。 「……ん、ぐぅ……っ！」 　内臓がせりあがるような苦痛と闘うなかで後ればせながら気づいた。〝檻〟の床は市松模様のリノリウム張り。白と黒の配色も相まって、チェスの盤を連想する。 　剣(つるぎ)がすべて鞘に収まり、茂みが尻の丸みをかすめて──チェックメイト。 「くそったれ、いっそ殺せ……っ！」 「では悦楽の花園で狂い死にする思いを味わわせてあげよう。ひと晩かけてじっくりと、抱かれる悦びに病みつきになるまで」 　そう、うそぶいて橘は腰を浮かせた。一旦、その威容を八割がた現すまでに昂ぶりをほとんど抜き取ると、細腰を抱えなおし、体重をかけて一気にえぐり込む。 「……え、ぐう、うっ！」 　ぐぐぐ、と切っ先が攻め入ってくる。分かちがたくつながれて、深奥を突きしだかれると、雄が喉を突き破って飛び出してきそうだ。 　佑也は狂おしく首を左右に振った。あまりの屈辱感に目がチカチカして、自分を貪り食らう男の顔がぼやける。 　ところが異変が起きた。ず……と律動が刻まれはじめると、下腹部が甘やかにざわめく。それが、そこを出入りするたびに躰が強張り、それでいて内壁をかき回され、そのかたわら乳首を揉みつぶされると、苦痛と生ぬるい快感をない交ぜに内(なか)がさざめく。襞が、徐々に橘にかしずきはじめる。