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第12話

 ところが橘は悪辣差を発揮する。後ろと乳嘴はどちらもとっくりと可愛がるくせに、ペニスに対しては時折おざなりにつつくのみへと方針を転換する。  欲望がくすぶり、奔流が出口を求めて逆巻く。これでは蛇の生殺しだ。佑也は狂おしく頭を打ち振った。弓なりに躰を反らし、はち切れそうになっているペニスを(はがね)のように硬い鳩尾にすりつけた。そして二束三文で自尊心を売り飛ばす思いで、せがむ。 「ち……これ、握……って、く、れ……っ!」 「これ、ではわからない。はっきり言いなさい」 「だからっ! イッてやるから……ち、んぽをしごいて……あ、んん、あっ!」 「駄目だ。こちらで極めることを憶えるんだ」  腰を抱えあげられて、秘部がほとんど真上を向いた。楔を武器に叩きつけるように挑んでこられると、切っ先がさらなる深みをえぐり、暴いていく。 「そこは、いやだ、いやだ……あ……ん、ぅ、ん……あっ、あっ!」  快感を得るためなら、どんなはしたない真似でもやってのけるセックスドールになり下がるようで嫌なのだ。  そこに狙いを定めて例の突起をこねくり返されると、無意識のうちに腰を揺すり立ててしまう。だが後ろで達するなんて冗談じゃない。橘の意のままに、彼に隷従するのは真っ平だ。  血が一滴、二滴と流れるほどきつく、掌に爪を食い込ませた。そうやって一度は踏みとどまっても、抽送に弾みがつくにつれて下腹部にぐんぐん熱が集まり、射精感がつのる。躰の芯が、ぐずぐずと蕩けていく。  そこで橘が膝立ちになった。そして花芯そのものを突き破るような荒々しい腰づかいで攻め込み、退く。  深奥をひと突きされた。とどめを刺されて、ひとたまりもなくストッパーが弾け飛ぶ。 「う……あ、ぅ、あ、ああー……っ!」  爆ぜて、淫液が弧を描いて飛ぶ。そのうちの何滴かは、欲情に引きゆがんだ顔に散り落ちる。  一刹那、意識が遠のく。佑也は、そうするのが作法であるように、自分が放ったものをまとった唇を舐めた。と同時に、花びらをつぼめて橘をがっついた。 「なんという締めつけだ……」  感に堪えないと語る声が、鼓膜を震わせる。佑也は目をしばたたいた。眉根を寄せて快楽の酔いしれる表情を見いだすと、図らずもときめいた。  数年前に謎の失踪を遂げる前までの橘は、映画界に燦然と輝く本物のスターだった。主演は彼でなければ、と国内外の名だたる監督たちが橘にこぞってラブコールを送った。  佑也もかつては橘にあこがれて劇場に通いつめたファンのひとりだった。  映画界の至宝と謳われた男に愛を乞われる。  そう考えると、橘を真に支配下に置いているのは自分のように思えてきて、まんざら悪い気はしない。

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