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第13話

 だが淫虐という地獄に堕とされてしまった現在(いま)では、橘と同じ世に存在することじたいに虫唾が走る。  嫌悪感もあらわに身じろぎ、すると内壁が(みだ)りがわしげに収縮して屹立を搦め取りにかかり、陥落を迫る。 「そんなにかぶりつかれては動けない」  と、言う間にもラストスパートがかかる。最大限に膨張した雄が猛り狂い、先触れのしぶきが美肉(うまじし)に降りかかる。  その、ささやかな刺激は、だがエクスタシーに達した余韻が色濃く残る(なか)には、趣向を凝らした愛技も同然だ。 「いや、だっ、そんなとこなんかで二回もイキたくない、い……やだ……ぁ、あっ!」  躰は心を裏切り、嬉々として悦楽の(きざはし)を駆けのぼる。(くだ)で煮返された状態の白濁がしたたり落ちて和毛をべたつかせる。  それを受けて襞がファルスにじゃれついて橘を絶頂へと導く。ひと呼吸おいて、熱液が迸る気配が伝わってきた。それは花筒全体に染み渡って、佑也をますます虐げるようだ。 「呑み込みが早い、教え甲斐のある子だ。わたしを銜え込んだまま離さないとは、男冥利に尽きる光景だな」  最奥に在る雄はうなだれるどころか、つながりを維持するに足る硬度を保つ。ぐりっと動かされると、第二幕の開幕ベルを鳴らすように、内壁が物足りなげにひくつく。  口を衝いて甘い声がこぼれた。佑也はあわてて仏頂面を取り繕うと、橘を()めあげた。 「……重いんだよ、あんた。満足しただろ、さっさと抜け」 「ピロートークにつき合う気はない、か。つれないことだ」  苦笑交じりに応じて顔をうつむけた。 「嚙みつきたければ甘んじて受け入れよう」  そう言い添えると唇を重ねてきた。歯形が幾重にも消え残る下唇を舌でなぞり、丹念にいたわったあとで、結び目を舐めほどきにかかる。  佑也は当然のごとく迎え撃った。歯列をくぐり抜けた舌に早速歯を立て、だが一転して自分のそれを絡めていった。  橘を試す目的を持って。  そこで同じほどの情熱を込めて接吻に応えてくれれば、まやかしじゃないと信じられた。橘が〝恋々たる情〟と称する独りよがりで押しつけがましいものに何パーセントかの真実が含まれている──と。  しかし、ぞんざいに舌を吸い返された程度ではぐらかされる。なんとなくやるせない気分に襲われたせつな、だしぬけにつながりが解かれた。  すかさず、再び躰をふたつにたたまれた。可憐な花は今や子種をあふれさせるまでに婀娜(あだ)めいて、さらなる淫虐地獄へといざなうようだ。鮮やかに色づいたギャザーに息がかかる。和毛(にこげ)がそよぎ、思わず凍りついた隙に乗じて、舌が襞をかき分ける。 「やめろっ! ……ん!」 「かき出しておかないと、きみがつらい思いをするのだが?」  それは嘘も方便だ。愛を免罪符に佑也を雁字搦めにするためとあらば、傲慢な男はいくらでも屁理屈をこね回す。  襞をこそげるように舌が蠢く。にじみ出すはしから精をすすり取られると、身の置き所がない。  佑也は鎖をじゃらつかせながら、もがいた。そのくせ舌がひらめくたびにペニスが三度(みたび)、芯を育てはじめる。じわり、と新たな蜜をはらむ。 「しつ、っこい……いつまでいじり回せば気がすむんだよ!」 「では、これはなんだ」  萌しに五指が巻きつき、包皮を剝き下ろす。 「先ほどのはある意味、カメラテスト。これからが……本番だ」  ぬらつく花は、散らされるためにある。また、ガラスの壁で外界から隔てられた〝檻〟は、橘という為政者が統べる王国だ。  うつ伏せにひっくり返されて早々に、腰を掲げる形に這わされた。橘が足の間に腰を割り込ませてくれば、獣が番う姿勢をとらされたさまがガラスにぼんやりと映し出される。 「いやだぁー……っ!」  陽物が門をこじ開けにかかる。佑也は膝をにじらせてシーツの波間を前へ、前へとずれた。だが、ひとたび征服される悦びを憶えたそこは、雄渾がいきり立っていくにつれて、しどけなく咲き匂う。  口惜しさと嬌羞をない交ぜに引きゆがんだ顔を枕に埋めた。憎んでも憎んでも飽き足らない男にこれ以上、浅ましい声を聞かれるくらいなら窒息して死にたい──そう、(こいねが)う。  それでいて乳嘴を揉みつぶされると、内壁がうねうねと蠕動して、ぬめやかに橘を食いしめる。  許容量を超えた快感によがり狂わされて、世界が、雪崩を打って崩壊する。

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