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第6話「―はいいけど、キスはなぁ…」 6
「―はいいけど、キスはなぁ…」 6
オレは鴉岬 をちらちら見ちゃって、今はきっちり髪の毛後ろにやってるけど、髪ぐっちゃぐちゃになると、ああいう雰囲気になるのかとか、ああいう声出すのかとか、元カレの前ではああいうことするのかとか、いやそれよりもまず何であんな有名人ゲットしてんのかとか。
ちらっちらって見ちゃうよね。
「てょうらいせんぱぁい」
オレのライバルが呼んでる。オレのほうがかわいいのに、かわいいカワイイって持て囃されやがって。後輩の鹿名関 だ。美少女かと思ったら男。こういうのは老けたら悲惨なんだよ、ドンマイ。
「なんだよ」
「これ、鴉岬せんぷぁいとよろで~す」
めちゃくちゃ優秀だから、先輩に媚びを売ることも忘れなくて、だから飲み会で鴉岬のお酒も飲んでやってるんだろ?
「あんがと」
資料を封筒ごともらって、鴉岬も名前出されてこっち見てた。目が合ったのに逸らされちゃう。いつもの鴉岬といえばそうなんだけど……なんだか気になっちゃう。
それで渡された資料片付けるから鴉岬のところいったら、なんか今度は避けられるし。だから鴉岬の隣に立って、体重寄せたら鴉岬はその分あっちに傾いて、重くないのかよ。
「なんだよ、鴉岬」
「君がこっちに来るからだろう」
「いいじゃん、オレたち。ひとつになった仲なんだし」
いやこれオレから言っちゃう?でもなんかちょっと、何も無かった風なのがムカつくし。
「……思い出すから」
「無かったことにしてもよかったのに、掘り返してきたの、鴉岬ぢゃん……」
「謝るべきところは、謝るべきだろう」
「まじめだな」
なんだ、なんだ。そんなものなのかよ。
「思い出しちゃ、気拙 ぃ?」
「気拙い」
鰾膠 もないな。
「オレは気拙くないのに」
「……それならまた抱いてくれるのか?」
は?………え?なんて?
オレは聞き間違いかと思ってビビって震えちゃった。
「鴉岬?」
「なんでもないよ。さ、片付けるぞ」
それでオレはまだちょっと気になったけど、鴉岬が全部引き受けちゃいそうだったからオレの取り分をぶん取ってきた。
オレと鴉岬だけのヒミツで、別になんのマウントにもならないのに、連帯感っていうのか優越感っていうのか分からない安心感みたいなのがあったんだけど、それを嗅ぎ取ってたのがいて、わんちゃんかい?
「てょうらいせんぷぁい」
さっさかさっさーとオレを追ってくるやつが、振り返ったら可愛い子かなって一瞬思ったのに、よく見たら野郎だったから肩透かし。鹿名関(ろくめいかん)だ。つまんな。
「ンだよ」
「鴉岬せんぷぁいと何かあったんすか~?」
「ないケド」
「うっそだぁ。絶対あったと思うんですけどぉ~」
オレの腕に擦り寄ってきてどういうつもりなん。
「てょうらいせんぷぁい」
ふわふわ~きゃらきゃら~しゃらら~ってしてた鹿名関がオレの腕に頬擦りしたと思ったら急に怖いカオになった。そういうカオできるならいつでもそうしてろよ。
「ぼきも鴉岬せんぷぁいのこと狙ってるんで」
「ふ~ん…………は?」
なんだこいつ。なんの宣言?
「ホの字なんですよ。ワンチャン狙ってるんです」
「ワンチャン狙いならやめとけよ」
面白そうだから訳知り顔をしてみたけれど、まったく呑み込めてない。え、何?鹿名関、鴉岬のこと好きなの?なんで?ってかどこが?実は中身、本当に女の子とか?なら接し方変えてあげないと可哀想?いやいや、よしんば鹿名関が女の子だったとして、鴉岬?なんで?クールインテリっぽいから?でも鴉岬はな、全然クールじゃないからね。にゃんにゃん系だぞ。いやいや、そうじゃなくて!それに鴉岬にはカレシがいるんだな。未練たらたらだろ、あれ。どう見ても。
オレ結構動揺してるっぽい。鹿名関、女の子説に。
「だってあの人、もうお相手いるでしょ」
ド、ドキ~ッ!ろ、鹿名関、なんでそれ知ってるん?でもただでキョドるオレじゃないよ。
「うん、オレ」
ちょっとふざけてみた。
「ないっすね、それは。それはないっす。てょうらいせんぷぁいに、あーゆーことする甲斐性はないと思います」
「はぁ?」
鹿名関は急に首でも凝った、みたいなポーズとった。どっか痛い系男子とかなんとかっていうらしい。よく分からんけど。
「ここにキスマつけるだけのヤバさですよ」
「キスマ?」
鹿名関は一瞬きょとんとして、それで何事もなかったかのようにくるっとオレに背を向ける。なんなん。
「なんだよ」
「お話にならないなって思って。ぼきのライバルはてょうらいせんぷぁいじゃなくて、音鳥 さんみたいです」
「音鳥?なんで音鳥の野郎?」
「知らないんすかぁ~?音鳥さん、鴉岬せんぷぁい好きで有名ですよ。有名じゃないですけど」
どっち?
「知らん。そんな感じなかった」
そしたら鹿名関の、オレを小馬鹿にすりカオ!赦せん。
「ま、何にせよワンチャン狙いなんてやめておくこったな」
「そうですね。掠奪くらい狙わないと」
オレなんかまずいこと言ったかも。
オレは鹿名関に火を点けたかもしれない。いやいや、あいつは元々火が点いてた。小火 がね。線香くらいの。でもオレがガソリンだったのさ。
鴉岬に用あったから、コーヒーでも淹れてんだなって人里離れた給湯室まで探しにいった。コーヒーメーカーせっかく入れたんだから使えばいいのに、給湯室で多分電子ポットでお湯作ってドリップ括弧笑 でコーヒー淹れる意識高い系だもんね。
給湯室にはドアなくて、暖簾が架かってる。鴉岬いるな~って、ただ人の脚が見えたから、一瞬で鴉岬だと思っちゃった。鴉岬は4本くらい脚があるんだなって。それでギョッとした。
「と……島莱……」
入ってすぐ奥の壁際に鴉岬と、鹿名関がいた。鹿名関が鴉岬を壁に押しつけてた。鴉岬は困惑してて、泣きそう。
「あ、てょうらいせんぷぁい」
鹿名関はくるってオレのほうを振り返ると、今度はオレにひっついてきた。何こいつ。
「てょうらいせんぷあぁい」
語尾にハートマークついて、オレにキッスしてきたからたまげたね。ちょっと除けたからズレてよかったものの。え?こいつオレのこと好きなん?
それでるんるん気分で行ってしまった。よく分からん。オレは鴉岬と残されて、気拙い。電子ポットはふすふすいってて、もうすぐで沸騰するんだと思う。こんな状態で2人にすりなよ。鴉岬は俯いて、マジで気拙さの1ミリも隠す気ない。1マイクロ"ミリ"メートルも。そんな単位あるのか知らんけれども。
「何あいつ。オレのこと好きなのかな」
オレはふざけてみた、だってオレにチュウしていったぞ。さっきの戦線布告はなんだったのか。
「島莱……」
オレがふざけてるのに鴉岬は苦しげで、オレに、この前あの人の家でなんとなく開いた本風にいうと、"ひっし"としがみついてきた。"ひっし"と。必死と、ってこと?鴉岬はオレの胸板に抱きついてきてるみたいだった。あのアイドルに、"女"にされちゃったみたいだし、もしかしたら鴉岬に元からそういうところあったのかな。
「どしたの、鴉岬」
「……少し、怖かった」
あのトイプーが?いや、犬っておっかないもんな。噛みつかれたら死んじゃうよ。
「だいじょぶ?」
鴉岬って結構、素直だな。意地張れよ、そこは。調子崩れる。
「忘れてくれ」
我に帰ったのか、鴉岬はオレを突き飛ばすみたいに離れちゃった。
「鴉岬ぃ」
「彼は、島莱が好きなんだな」
「ヤバいね。そうみたい。モテちゃって」
そういうことにしておいたほうがいい気がする。腹黒い鹿名関もあの小細工は多分そういうこと。鴉岬も困惑してるもん。
「島莱……」
「あ、ああ、忘れてやろうぜ?センシテボな話題だしさ!いうてもあいつだってまだガキだし!」
「……そうだな」
ぷしょ~って電子ポットが鳴った。
「飲むか?」
「う、うん」
お湯、なんでこんなに沸かしたん?ってくらい、1人分じゃなかった。
「すまなかった。変なところを見せて……助かった。ありがとう」
コーヒー豆のそぼろみたいなのがお湯かけられて、しょわ~って音してた。鴉岬の喋り方ってお上品だわ。静かで。給湯室なのになんか"意識高く"感じられた。
「いんや、別に。何もしてないし、オレ」
「鹿名関くんには困ったものだな……」
「やべぇよ、あいつ。言う?部長 に」
鴉岬は首振った。じゃあオレもなかったことにしよ。
「キス魔なんだろ。乳離れできてないんだな。男にしかやらないから安心しろよ」
安心しろて、いやこれ安心できるか?鹿名関のあのビジュアルだから赦されてるみたいなところはまぁまぁあるから、やっぱり人間って見た目だわ。よかった、オレ美少年イケメンで。ガハハ。
夜中に鴉岬からWINEきて、それは動画ファイルだった。なんで動画?と思いながら再生したら驚き。だってエロ動画なんだもん、と思ったけど、もっと驚きなのはちんちん生えてたこと。よく見たらおっぱいも平くて、女の腹の形でもなかった。
音量消したまま、下から突き上げられてるの観てた。ちんちんが伸縮して誰かのケツを上げ下げしてるみたい。昔勉強机についてた椅子でやったわ。
動きに合わせて、メレンゲみたいなのがびゅっびゅって飛び散ってた。濃 っ!
カメラは段々と平たいおっぱいから上を映して、突かれてるのは鴉岬だった。オレてっきりプイッターのエロ動画漁りしてるつもりでいたけど、そうだこれ鴉岬からのWINEだったんだって思い出して、でもなんで鴉岬が送ってきたんだ?撮れって、ヤってる相手に命令したの?
オレはちょっと緊張したけど音出してみた。イヤホン挿せないタイプなのが悔やまれる。ワイヤレスイヤホンと繋ぐの面倒だし、何より充電してないっていう。
『あ、あっああ……、!』
嬌 声がばっちりオレの部屋の中に響いちゃってちょっとオレしかいないのに、なんか気拙い。
スマホ撮りのかちゃかちゃ音が、なんか妙に趣き深いよ。
鴉岬は突き上げられてるのか自分から腰振ってるのか分からなかった。
『イく、イく……あげは、イく……っ!』
あ、元カレといるんだ。
『イけよ。イくとこ見せてやれって』
元カレは楽しそうだった。鴉岬って泣いてるみたいに喘ぐんだな、って実感しちゃった。
動画を観終わったんだけど、届いた時間がついさっき。撮りたてならまだ元カレいてもおかしくないんだよな。
そしたらまた新しい動画来た。なんで? 観るけど。
『と……らい……あっ、ふぁ、あっあっ、』
今度はスマヒョ固定で、鴉岬のケツに、極太 いちんちんがぎっちぎちに入って、残像がしゅんしゅん見えた。両脚開かれてた。昔話でガキに小便 させてるみたいな体位。鴉岬のちんちんがぶるんぶるん震えてた。オレもさっきあの人オカズにシコシコしたのにまたちんちんムズムズしてきちゃった。
『と……らい、と……ア、あ、アあっ!』
『とーらい、とーらい、お、あった』
え、何。オレのこと呼んでたの?
『キスして………あんっ、あっあっ、イく、から………キスして………っ』
『はぁ?キス?やだよ、汚い』
またスマヒョはかちゃかちゃ音出して、そこな人の声も風みたいにぶぉぉって音が入る。でも聞こえた。聞こえた瞬間、コーフンした。鴉岬のこと汚いって言ったのに、イカれちゃったオレの頭は鴉岬が汚されてる感じがして、汚された鴉岬って概念はオレのちんちんをイライラさせる。
鴉岬のこと呼びながらオレもちんちんシコシコしたい。
『キスして……っ、あ、あ、あ、あああ!』
『乳首シコって自分でイけ?』
相手の顔よく見えないけど、なんか元カレっぽくね。面倒臭くなったのか分からんけど、ずっこんばっこんするスピード上がった。ずこずこずこってピストンすごくて、鴉岬はこれでやみつきになってんのかな。B地区をシコる手はおざなりだったけど、確かにB地区を押し潰して、腰がへこへこしてた。
『イきゅ、イきゅ………あ、っああああ!ア゛ッ、!』
セクースってイかせてるときとその直後が醍醐味だと思ってるんだけど、動画はそこで切れちゃった。ビクンビクンしてたのは見えた。会社ではスーツびしっとキメて、眼鏡がキリッとしてて、勃起なんてしません精子出しませんってカオしてるのにな。
電話かけちゃおっかな?これオレに対するセクハラだよね?セクハラしてきたんだからオレがセクハラ仕返したら実質何もなかったってことぢゃね?天才か?
迷ってたら、向こうからWINE通話かかってきて、そうだ、オレ、すぐに既読スタンプつけちゃってたんだった。応じたほうがいいのかな?間違い電話なら知らないフリしてたほうが良くね?
オレはドタキャンした。別に約束はしてないけど。じゃあ居留守。
不在着信のスタンプが表示されて、それから、
[電話でろ]
[おい]
[電話でろ]
[電話でろ]
[カス]
って来て、怖くなっちゃった。絶対に鴉岬じゃないよ、売ってるの。元カレが鴉岬のスマヒョで遊んでるんだ。でも元カレなんてオレとは見ず知らずのはず。なんだよ、カスって。
[電話でろ]
[おい]
[見てんだろ?」
ってまだ来てるし、開きっぱなしにしてるから多分オレの既読スタンプも文字の横っちょにすぱすぱ押されてるんだろうな。閉じればいいのか!でももう遅い。
怖すぎて涙目になってたら、またスマヒョが震えてて、オレがビビりすぎてるのかと思ってちょっと出遅れた。
「な、なんだよ~鴉岬ぃ。びっくりするだろ~!」
オレは何も知らないフリした。合ってる?ホラー映画で真っ先に死ぬ行動 じゃない?
『あっあっア、ア゛ア゛、とう、ン、らいぃ………』
電話越しだと息がぶぉぶぉ入っちゃって何言ってるか分からなかったけど、オレのこと呼んでるのはなんとなく分かった。
「鴉岬、どしたん?」
『気にしない、で―あっあっあっ、あァ!んあ、ンんん……っ』
何何何何。なんで人が喋ってる時にガン突きするの。善徳 の心ないんか?
『あ、あ……とう、ら……、嫌いになっ、あっ、ああああ!』
ならんて。嫌いに。ってか元カレ?酷くない?
「お酒入れててさ、寝んもなん。また明日にして」
嘘だけど。酒入れないもん。一滴だって。いんや、さっき食べたパウンドケーキ、ちょっと除菌ティッシュの味したから酒入ってたかも?
『とう………らいっ!とうらい、とうらいぃっ、あっあっ、!あっアアあ!』
「うん……」
どうしていいか分からんので相槌をうってみる。
『ごめ……なさ、あッ!イく、またイくっ、とうらい、とぉらいッ、乳首きもち、』
ぶつって切れた。なんでオレのこと呼びながらイくの……そら元カレ キレるわ。
それで?オレはこのギンギラギンギンにおおっぴらなのどうすりゃいいの……。
オレはよくある寝取り漫画の負けちんぽみたいに鴉岬のハメ撮り観てちんちんシコシコした。
……ちょっと待って。めっちゃめっちゃめっちゃっちゃ気持ち良くて、なんか。
オレはオークに犯される媚薬飲んだ女騎士みたいに、うーん、女オークに乗っかられてるのに抵抗できない美少年聖騎士みたいにあんあんおほおほ言いそうになりながらちんちん擦(こす)った。ちんちん擦るのこんな気持ち良かったっけ?いや、ちんちん擦るの気持ちいいけどさ、でもちんちん擦るのにもオカズがいる。ただ触ってるだけならそこにあるのは接触だけだもん。
「きもちぃ……」
負けちんちんは元気だった。耳に鴉岬のオレを呼ぶ声が、のぞみ、ひかり、つまり谺 してて、びゅるびゅるしてもしてもまだ足らない。
鴉岬は舐め掃除するのかな。あの元カレはしないだろうな。キス汚いってマジかよ。ベロチュウ手コキの良さ知らないってセクロスする意味あるのか?ベロチュウ手コキがメインディッシュだろ。セッコスなんかもはや相手のためのものので、セコースなんか、デザートなんだが、よくもカレシに向かってキス汚いとか言えるな。多分人間そのものが汚く見えるんだな。そうだろ?だって鴉岬ほど綺麗そうなのいないと思うけど。鴉岬自体潔癖症っぽいっし。多分ホストより綺麗だぞ。化粧してないし。整髪料はしてるみたいだけど。
ベロチュウ手コキできるシチュなのに、ベロチュウ手コキしないとか、損なんだよ。全人類の損失なわけ。この世で幸せの数ってのは決まってて、シーソーゲームなの。椅子取りゲームなのよ。全人類のベロチュウ手コキできる数ってのは決まってて、みんなそれを譲り合ってんの。分かるか?鴉岬とのベロチュウ手コキ分が1つ空いた?違うよ。1回分ムダになったんだ。
鴉岬は潔癖症なのに、自分からチュウ、したがるんだな。元カレはアイドルなんだっけ。アイドルはうんこしないからチュウもできるんだな。いやいや、うんこしない身体の口ってめっちゃ汚いって便秘の話大好きな旧友 が言ってたわ。でもアイドルはそもそも身体でうんこ作られないの!
おちんちんいぢめしてるうちにまたWINEきた。激しめのセックルで賢者タイムか?
[すまなかった]
なんか怖いんだけど……ちょっと惜しいけど、オレは鴉岬のハメ撮りを脳内に焼き付けて動画を削除した。完全に削除されたのかは分からないけど、鴉岬とのWINEの画面には出されなくなった。
[鴉岬もう1人?]
[一人]
ヤッたらさっさと帰る。そういう関係ね。オレとあの人のカンケーに似てるけど、オレなりに遠慮はしてるつもりで、ヤッた後も2人で飯食ったりジュース飲んだりして過ごしてる。そろそろやめなきゃなって思ってるんだよ。ヤバくね?姉貴の婚約者と何してんだろ。有名とかじゃないけど地位のある人だから、元婚約者の弟とデキちゃってるって割とスキャンダルじゃね?
[電話してい?]
[いいよ]
いいよってなんかかわいい。鴉岬とのWINEはたまにこういうギャップある。
掛けたら聞こえるトゥルルって音にビビる。おっぱいの奥がドクドク鳴 ってた。
鴉岬……鴉岬……
『とう、らい……』
『あんざきぃ』
ロミオとジュリエットみたいだね。
鴉岬は声がっさがさだった。セクのシー。
『すまなかった。眠いのだろう?』
『うん。りぇも鴉岬、大丈夫かにゃって』
オレはなるたけ舌ったらずにかわい子ぶって喋った。そのほうが酔ってるオレっぽいし、眠たいオレっぽいじゃん?眠たいオレ、鴉岬は知らないか……
『俺は平気だよ。島莱……すまなかったな。悪い』
泣いてるのかな。怖くなっちゃった。段々、あのハメ撮りでシコシコしたのが可哀想になってきて、オレ、酷いことしたかもって。
「鴉岬」
『なんだ』
「電話繋いでおいてよ。鴉岬ン宅 、行ってもいい?」
『島莱……』
すぐに「いい」って言わないのがもう答えなんだと思うけど……ひとりにしておけなかった。一人かどうかは定かでない定期。
「困る?」
『別に構わないが……』
「あんざきぃ」
『眠いんだろう?』
鴉岬の声はさっきの所為か、泣いてるからなのか分からなかったけど、これが最期の会話になるとか嫌だから放っておけないんだけど。大袈裟かな?でも大袈裟なくらいでよくね?モテないロリコンどものチンチン突撃ぢゃないんだから。だってあの動画、鴉岬はオーケー出してるんか?
「へーき。でも鴉岬ン宅で即 寝る」
明日仕事は休み。鴉岬の予定は知らんけど。オレはテキトーに支度して鴉岬のフロンランタンみたいなマンションに向かった。通話はかけっぱなし。
「コンビニ寄るけど、なんか欲しいもんある?水とか、ジュースとか、甘いやつとか」
『特にない』
「遠慮すんなよ。お茶でいい?」
『すまない』
それで結局、お茶と、なんとなく意識高そうだから意識高そうな素焼きナッツ買った。ナッツアレルギーなんかな?聞いたことないけど。
「鴉岬」
『なんだ』
鴉岬ちょっとおねむっぽい。声が溶けてた。
「寝るのちょっと待って!」
『大丈夫だ。待ってるから。寝ないさ』
「月ちょっと綺麗だぜ、鴉岬!鴉岬!」
月がはっきりめに出てた。なんかちょっとこれデートっぽくね?素朴なデート!茹で卵に塩かけて食うみたいな。いや、なんかもかけずに食ったほうが素朴なんだけどさ。
『……っ、島莱。ばかだな、君は』
なんで?鴉岬でもちょっと笑ってた。声ガラガラだけど優しい感じだった。
「え?」
鴉岬、ちょっとは落ち着いたかな。
『月が綺麗ってのは、好きな人に言うものだ』
「………」
『……………』
「…………」
『…………』
「あんざきぃ」
オレそんなん知らんもん。映画?本?アニメ?
『忘れてくれ。でもそれは抜きにして、綺麗だな、月』
「あ、鴉岬も月、観てるん?」
『今ベランダに出た』
それがなんとなく、また急にざわざわして、オレは要らんこといっぱい、鴉岬に聞かせて、鴉岬の家に急いだ。
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