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2 友人康介

 教師をしていて定時に仕事を終えることは難しい。僕に限っては要領の悪さもあいまって、人より時間がかかってしまう。それにここのところ特に忙しくて、思った時間に学校を出ることがなかなかできないでいた。仕事終わりに約束があってもそれは同じこと── 「竜! こっちこっち」 「ごめんね、遅くなっちゃった」  最近贔屓にしている居酒屋で、幼馴染の康介(こうすけ)と久しぶりに会う約束をしていた。僕が遅れるのはいつものことで、康介も慣れた感じで「先に一人で飲んでいるから気にすんな」と言っていた。店に入ると奥の個室から少し顔を赤くした康介が手を振り僕を呼んだ。 「あ、今日は個室なんだ……」  康介と二人で飲むときは個室を選ぶことはあまりない。聞いてないけど今日は康介以外にも誰かいるのかな? と、半分閉まった戸の奥にいる人物に僕は少しだけ期待する。小上がりの個室は戸を閉めると周りの喧騒が薄れて落ち着いて話ができるのもあるけど、周りの目から身を潜めることもできるから、特定の友人が来るときは決まって個室にしていた。 「あれ? 康介一人?」  僕の小さな期待に反し、そこにいたのはやっぱり康介一人だけだった。    わかっている……  あの人がいるわけないのだ。 「ああ、ごめん。言ってなかったよな。後から修斗(しゅうと)さん来るかもしれないから一応個室にしといたわ」 「そっか……」  康介は幼い頃からずっと僕のそばにいてくれて、なんでもわかってくれる大切な友達だ。たまにちょっとした喧嘩もするけど、今も変わらず僕と仲良くしてくれているお兄ちゃんみたいな存在でもある。そんな康介が僕の表情を見て少しだけ困ったような顔をした。 「竜? 大丈夫か?」 「え? 何が?」 「あ、その……ほら、そうそう、この時期って忙しいんだろ? 疲れてねえ?」 「んー、っていうか、いつも忙しいよね。僕要領悪いからさ」 「そっか? 竜頑張ってんじゃん」 「ふふ、ありがと」  康介が言いたいことがなんとなくわかってしまった。それでも敢えて僕に聞かないように気遣ってくれるから、僕も気がつかないふりをする。今の僕はちょっとだけ心に小さな穴が空いた状態だけど、日々の忙しさでなんとか気を紛らわすことができているから。そう、大丈夫…… 「まあ、とりあえずお疲れ様!」 「康介も! お疲れ様」  改めて二人で乾杯をする。僕はめっぽうお酒に弱くてみんなと同じように大きなジョッキで飲むなんてできないから、アルコールを薄めに作ってもらったカクテルでグラスを合わせる。こうやって定期的に会って互いの近況報告をするのも何度目だろう。それぞれが別の道に進み、学生の頃のように気ままに会うことが難しくなってしまっても、何も変わらないこの関係は僕の宝物だ。

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