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3 康介と修斗さん
お酒も入ってだいぶ康介も陽気になってきたところで修斗さんが合流した。
「お疲れ! 竜太くん久しぶり!」
「修斗さん、お久しぶりです」
修斗さんは高校時代の僕らの先輩。そして康介の恋人でもある。二人は高校の時からの付き合いで、康介と修斗さんは現在一緒に暮らしている。
「あー! ちょっと! 修斗さんってばまたそんな格好で! 何度言ったらわかるんすか!」
「康介酔ってる? 相変わらずうるさいね。仕事で疲れてるんだからガミガミ言わないでくれる?」
「は? 酔ってませんて! うるさくもないです! あんた自分の立場ってもんを……」
「はいはい、わかりましたよ。ファンとの交流も大事なのよ? 全くさ、康介くんは俺のことが大好きだからすーぐやきもち妬くんだよね」
「なっ……違っ……」
修斗さんは高校を卒業してから就職をしたけど、すぐに志音 の事務所の社長に気に入られ、今では志音と一緒にモデルとして活動をしている。志音も僕らの同級生で、今でも付き合いのある大事な友達。モデル一本で活躍している志音と違い、修斗さんはタレント活動のようなこともしていてテレビへの露出もあるから、街中を歩いているとすぐに声をかけられてしまうんだ。そのことが康介の専らの悩みの種で、修斗さん曰く、きっちり変装をしろ! と最近特にうるさいらしい。
「せめてマスクとサングラス、帽子だって……」
「わかったから。ごめんなって、そんな顔すんなよ康介。大丈夫だよ、愛してるって。お前だけだよ」
「もう! めっちゃ適当なこと言ってる! どうせ俺の話なんてこれっぽっちも聞いてないんだ」
そんなことしたって逆に目立つし、どうせすぐバレるんだからさ、と、修斗さんは康介に聞こえないように僕に言う。この二人が言い争ってるのも高校の時から全然変わらない。大体が修斗さんに揶揄われて康介が一人でぷんぷん怒ってるパターン。喧嘩をするほど仲がいい、とはよく言ったもので、今でも羨ましくなるほどこの二人は仲が良かった。
「でも竜太くんが学校の先生だなんてびっくりだよね。まだ「先生」ってしっくりこないな。その可愛らしさは高校生だって言われても違和感ないもん」
「はは……いまだに頼りないってよく言われます」
「えー、そんなことないでしょ。そんなつもりで言ったんじゃないからね。竜太くんは絶対子ども思いのいい先生だと思うよ? 俺も竜太くんみたいな先生に勉強教えてもらいたかったなぁ」
修斗さんも康介も、いつも僕のことを褒めてくれる。元気がないと励ましてくれる。今日も結局は元気のない僕を気遣って集まってくれたのだろう。
「ところで竜太くん、どう? 独り身にももう慣れた?」
「ちょっ! 修斗さん? その話題は……」
「…………」
「あは、なんでだよ。康介の方こそいい大人なのに気にしすぎじゃない? 全く過保護なんだから。ねえ? 竜太くん」
突然の修斗さんからの話に、僕は返事に困ってしまった。
でもこれは本当に修斗さんの言う通りだ。康介に気をつかわせ心配をかけてしまうのは、僕がいつまでも頼りないからにすぎない。本当に情けないと心底思う。
「あ、はは……やっぱりまだ寂しいって思っちゃうけど、しょうがないですよ。うん、こればっかりはどうしようもないですもんね」
「竜……」
少しお酒が入っているせいか、目の奥がじんわりと熱くなる。僕が泣き虫なのは今も健在。それでも少しはマシになったと思うんだけどな。不安そうな顔をした康介と目が合い、気まずくなった。
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