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4 寂しい

「そうだ! 今日は竜太くん、うちに泊まりなよ。な?」 「おお、いいね。うちでも少し飲み直すか」  修斗さんと康介が嬉しそうにそう言ってくれた。康介はともかく修斗さんと会うのは本当に久しぶりだったから、そんな提案に嬉しく思う。でも流石に二人の部屋へ朝までお邪魔するわけにもいかないと思い遠慮した。「いいじゃん、気にすんなよ」と引き留める修斗さんにお礼を言って、今回はお開きになった。  二人と別れ、まだ灯が賑やかな夜道を一人歩く。仕事帰りの人や若いカップル、頬を紅潮させ陽気に笑い合うグループなど、様々な人とすれ違うのを横目で見ながら、少しだけ寂しい気持ちが湧き上がる。こんな気持ちになってしまうのは久しぶりに飲んだ酒のせいなのか。今から家に帰っても一人きりなのだと思ったら泣きそうになってしまった。 「何こんなにナーバスになってるんだろうね……」  久しぶりに会った気心知れた友人との会話で、気持ちも解放されたせいなのだろう。日頃の疲れもあってか、少々飲み過ぎて酔いが回ってしまったのは否めない。こんなだから康介が僕に対していつまでも過保護になるのも頷ける。  大学卒業を機に実家を出て、僕は一人暮らしを始めていた。高校生の頃から料理を含め家事もそこそこやっていたこともあり、一人暮らしの大変さは思ったより感じることはなかった。それに何より、その時は僕一人じゃなかったから、毎日が楽しくて寂しさや不安などこれっぽっちもなかったんだ。 「──ただいま」  真っ暗な玄関。「ただいま」と声を発したところで返事などない。僕は壁にある電気のスイッチを手探りで見つけ明かりをつける。今朝出しそびれてしまったゴミの袋が、朝出たままの状態で何か言いたげにそこにポツンと置かれていた。  毎日毎日早起きをし、学校に行って仕事して、疲れ果ててまた帰宅。心休まるはずの家には誰もいない。今までずっとそばにいた最愛の人はいないのだと、ふとした拍子に思いだす。 「寂しい……」  誰が聞くでもない独り言を溜息と共に吐き出して、僕はシャワーを浴びる。ひとりで寝るには少し大きなベッドに潜り込み、眠りについた。  朝の六時。携帯のアラームが鳴る少し前に自然と目が覚めカーテンを開ける。柔らかな日差しが部屋に差し込み、僕はまたいつものようにキッチンに立つ。つい癖で二人分の食材を買ってしまうから、冷蔵庫には使いきれていない食材がまだ少し残っていた。卵は早いとこ使い切っておかないとな……と、今日の朝食の目玉焼きは贅沢に卵二個分を使うことにした。ハムとサラダを添え、冷凍しておいた食パンを一枚焼くと、食欲をそそる香ばしい匂いが部屋を包んだ。誰かさんと違って、僕は寝起きはしっかりしている方。今頃は何をしているのかな、なんてちょっと遠くへ思いを馳せ、朝のニュースを眺めながら簡単な朝食を済ませて僕は今日も学校へ向かった。      今日もまた、いつもと同じ一日の始まりだ──    

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