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5 思い出の景色

 僕が担任をしているのは四年生のクラス。  一年目に三年生のクラスを受け持ち、そのまま今年も持ち上がりで四年生のクラスになったから子どもたちも慣れたものだった。ベテランの先生に言われる所謂「ナメられる」若手の先生。まさに僕のことなんだろうけど、打ち解けてくれるのは嬉しいことだし、みんな親しみを込めて接してくれている。決して僕のことをナメていることなんてない。そんなことは子どもたちを見ていればわかることだから、よっぽどでなければ気にしないようにしている。 「──せんせ? ねえ、先生、聞いてる?」 「あ、ごめん……何?」  今日は高学年のクラブ活動の日。ちょっとぼんやりしていたら生徒に肩を叩かれてしまった。 「あのね……ここ、あたしうまく描けないんだ。どうかな?」 「うん、僕は全然いいと思うけど……すごく上手だよ? でも自分が納得いかないのなら少し構図や色も変えてみてもいいかもね。来週もあるし、焦らずやろ」 「うーん。わかった。ありがとうございます」  この学校では四年生以上になると週一でクラブ活動が始まる。卓球やバドミントンのような体育系のものや、合唱や書道、英会話といった文化系のもの、ボードゲームやドミノ倒しクラブなんてものもあって種類は様々。僕はその中の「美術クラブ」の担当で、主に絵を教えている。教えていると言ってもみんな自由に描いてほしいから、基本的なこと以外はあまり指導らしいことはしていない。そのクラブで使用する図工室は中庭に面した一階にあって、窓から見える景色が高校の頃の美術室によく似ていた。  図工室に来ると当時の記憶が思い起こされ、懐かしい気持ちになる。ここは学校の中で一番好きな場所。  まだ高校一年生の頃、入学して然程月日も経っていない頃、僕は(あまね)さんと出会い、この窓から外にいる彼をドキドキしながら見ていたんだ。ただのハプニングのような衝撃的な出会いから何年経ったのだろう。今でも周さんに対する気持ちはあの頃と何も変わらない。  少しも色褪せず僕の胸の中で鮮やかに色付いている── 「渡瀬先生? チャイム鳴ったよ。もう片付けていいですか」 「あぁ、そうだね。じゃあ後片付け終わった人から帰っていいよ」 「はぁい」  なんだか最近ぼんやりしてしまってダメだな……と溜め息が出る。美術クラブは女子の方が圧倒的に多く、六年生にもなるとなんだか大人びた発言も多くてドキリとしてしまうことがある。さっきもあまりにぼんやりしていたからか、「彼女と喧嘩でもしたの?」なんて言われてしまった。流石に否定はしたけれど「ドンマイ」なんて言われて僕は苦笑いしかできなかった。  生徒達の下校後、学年の先生方との会議を済ませ、残りの仕事をするためにしばらく残る。職員室にはまだ僕の他にも数名の先生方が残って各々仕事をしていた。これもいつものことで、大体最後までもたもたと仕事をしているのは僕一人。今日も気付けば僕以外の先生はいなくなっていた。

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