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6 放課後

「あっ! 渡瀬先生、まだいらっしゃったんですね。お茶でも淹れましょうか?」 「ああ、ありがとうございます。でももう終わるんで大丈夫です」  すっかり日も暮れ、職員室の電気も半分が消されてしまい、自分の席から離れたところは薄暗い。どこにいたのか突然職員室に戻ってきた梅北(うめきた)先生は、そのまま僕の隣のデスクに腰掛けた。 「えっと……梅北先生? 帰らないんですか?」  見たところ鞄も抱えていてすぐに帰宅しそうな雰囲気なのに、僕の隣でにこにこしている彼女の行動がわからずにそう聞いた。  彼女は今年入ったばかりの先生で、ベテランの先生からは「新人」ということで僕も彼女と一括りにされている。何かと雑用を頼まれるのも梅北先生と一緒で、ちょっと僕的には不本意なところもある。ただ、一年しか違わないというのによく僕を頼ってくれるのは少し嬉しいと思っていた。 「ふふ、渡瀬先生を待ってるんです。もう終わるんでしょ?」  頬杖をつきながら砕けた感じにそう言った彼女が、スッと椅子をずらして僕に近付く。咄嗟に僕が体を引いたらあからさまに口を尖らせ「もう……」と呟いた。 「はい、もうすぐ終わりますけど、別に待っててもらわなくていいですよ」 「たまには食事でもどうですか? って、私前にも聞きましたよね? 今日こそは行きますよ。まだ時間もそんな遅くないですし」 「えぇ……今日ですか?」  突然の誘いに戸惑いしかない。特に予定もないけど、行かなくてはだめだろうか。彼女はちょっと距離感が近いところがあって、そこは少し苦手なところ。おまけにやたらと僕に構ってくるから困っていた。仕事終わりに食事をしよう、というのも社交辞令かと思って適当に返事をしていたら、どうやらしっかりしたお誘いだったらしく、僕がOKを出すまでこうやって何度も声をかけてくるようになってしまった。正直、同僚の先生とは学校の後に個人的に会うということはなるべくならしたくない。学校区から離れたところにしたって誰と会うかもわからないのに、異性の先生と二人きりなら尚のことだ。気にしすぎかもしれないけど、あらぬ噂などたてられでもしたらたまったものじゃない。 「私いい店知ってるんですよ。渡瀬先生、前に甘いもの好きだって言ってたでしょ? そこデザートもまたすごく美味しいんです」 「……はぁ」  そんな僕の思い虚しく、行く気満々の様子に何も言えなくなってしまう。最初に言った通り、僕の仕事ももう終わっている。「今日こそは」と意気込んでいる彼女にまた断りを入れられるはずもなく、観念して一緒に食事に行くことになった。

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