7 / 85

7 食事

 梅北先生に連れてこられたのは雰囲気の良い創作料理の店だった。 「最初に皆さんで歓迎会っぽいことしてくれたじゃないですかぁ。でも人多くて渡瀬先生と全然お話ができなかったから、ゆっくりこうやってお食事したかったんです」  まるでデートみたいだな。どうせなら周さんと一緒に来たかったな……なんて、心の中を読まれたらだいぶ失礼なことをぼんやりと思いながら、店員からメニューを受け取る。僕がページを開いた途端に「お酒飲んでもいいですよね」なんて言い勝手にどんどん注文してしまうから、僕まで飲む羽目になってしまった。 「あの、実は僕あまりお酒得意じゃなくて……」 「え? そうなんですか? でもそんなこと言って少しなら大丈夫でしょ? 車じゃないし」  この料理にはこれが合うんです、なんて言いながら僕にも勧めてくる。梅北先生はあまり人の話を聞かないタイプだ。友達にもこういうタイプの人がいるけど、悪気があるわけじゃないからどうしようもない。でも勧めてくるだけあって、料理もお酒も相当に美味しかった。楽しそうな彼女にすっかり押され、ほろ酔いになりながら気分良く食事をする。料理の話だったり、休日の過ごし方だったり、酒のせいか普段以上に饒舌になっている彼女が僕に構わず一人でお喋りをしているのを適当に聞きながら、最後のデザートに手をつける。 「あー! 食べるの待ってください、写真撮るから!」  突然そう言うと梅北先生は僕にスマートフォンのカメラを向けた。 「えっ? ちょっと、僕は撮らないでください。ってか自分の撮ればいいじゃないですか。なんで僕にカメラ向けるの? デザートプレートこっちでしょ」  慌てて手で顔を隠してカメラから逃れ文句を言う。明らかにカメラはテーブルの上じゃなく僕の顔に向いていたから驚いてしまった。 「えぇ、だって渡瀬先生可愛かったんだもん。一緒に来た記念に、って思って」 「可愛いって……」 「じゃあ顔映らないようにデザートだけ撮るから、ね? それなら良いですよね?」 「んん……まあそれなら」  一応撮ったものを確認させてもらったけど、デザートの背後に体が少し写り込んでるだけだったのでまあ良しとした。その後「私も撮ってください」とスマートフォンを手渡され、ご機嫌な彼女を撮ってあげると、ここにアップするんだとSNSを見せられた。 「渡瀬先生はSNSやってます? もしよかったら繋がりません? こう言ったスイーツ写真よくあげてるんで。あ、勿論知人しか見られないようになってますから」  僕も彼女と同じSNSのアカウントは持っていた。もっぱら修斗さんや周さん達の活動状況の確認のため、といったところだけど。あまり気が乗らなかったけど、ぐいぐいこられてしまって面倒臭くなった僕は「フレンド申請」を受け取った。

ともだちにシェアしよう!