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9 一日の終わり
あいさつ週間最終日。今日の当番は梅北先生と一緒だった。
昨日の今日で、あの投稿の彼女の言葉。僕はどんな顔をして会えばいいのだろう。あんな風に思われていたなんて気が付かず、僕に気をつかい楽しく話題を振ってくれていた彼女に甘えて、ただただ呑気に美味しい食事を楽しんで帰ってきただけの自分。僕の方にはそういった気持ちは全くなく、なんとなく申し訳ない気持ちになってしまった。
僕より早く玄関口に梅北先生が立っていた。足取り重く近付くと、いつもと変わらない笑顔で「渡瀬先生! おはようございます」と元気に手を振ってくる。
「おはようございます……」
僕ばかりおどおどしてしまってどうにも落ち着かない。気にしすぎ? 自意識過剰? そんな言葉が頭に浮かんだ。
「あれ? どうしました? 元気ない」
「いや、そりゃ……だって」
キョトンと小首を傾げて、本当にどうしたのかと僕を見つめる梅北先生に「昨日の投稿見ました」とだけボソッと伝えた。
「早速見てくれたんですね! 嬉しいな……あ! それで? やだなぁ、なんかごめんなさい。あんなの軽く流してもらっていいんです。知った友人しか見ない投稿ですし、シャレみたいなもんですから」
「え……そうなの? でも」
「全然! 気にしないでください」
「うん。わかった。梅北先生がそう言うなら」
僕の気にしすぎ。そうか、軽いノリでああ言ったのか、と少しだけ胸が軽くなった。
「でも、本心ですからね。ふふ」
微かに聞こえた彼女の声。
「えっ? え? いや、待って……」
「渡瀬先生、動揺しすぎ」
梅北先生は悪戯っぽく笑い、登校し始めた子どもたちに挨拶を始める。それから一日いつも通りの様子で僕に接するから、やっぱり彼女の言った通りに僕が気にすることはないのだろう、という結論に至った。
女の人ってわからない──
今日の僕は朝からあれやこれやでいつも以上にぼんやりしてしまって、また帰宅が遅くなる。梅北先生も「またお食事行きましょうね」なんて言いながら帰っていった。正直言って二人きりでの食事はもう勘弁してもらいたい。
帰り道中スーパーに寄り、少しの食材を買い足す。今日は売れ残りの惣菜のセール品で夕食にしようと、それらも一緒にカゴに放った。
自宅マンションの玄関前に着くと、どこからか香るカレーのいい匂いが鼻をくすぐる。最近は疲れてしまって自分で食事を作ることが減ってしまった。体の疲れ以上に誰かのために食事を作るという喜びを感じることができなくなってしまった、と言う理由も大きい。今日だってこうやって値引きシールの貼られた惣菜二つで済ませようとしている。
昔は一人でいることなんてどうってことなかったはずなのに、今ではこんなにも寂しくて心細い。特に一日を終えるこの時間、そんな寂しさに襲われる。
カバンの中から家の鍵を取り出しながら、いつまでもこんなじゃ周さんに心配されてしまうな、と相変わらずの自分の弱さを痛感した。
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