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11 欲情

 キスをしながらいつの間にやら僕は壁際に追い込まれている。重なる唇を離すのが惜しくて、いつまでもいつまでも確かめ合うように舌を絡めた。 「なあ、竜太は俺がいなくて寂しかったの?」 「はい。もちろん……」  僕を抱えたまま見つめる瞳に、吸い込まれるように再び唇を重ねてしまう。背伸びするつま先が震えても、もう一時も離れたくないとしがみつく。全身を巡る熱が心地よさに変わっていき、気付けば僕は周さんのシャツのボタンに指をかけていた。 「ちょっ? 待って待って、竜太、帰宅早々エロいな……したくなっちゃったの?」  早く直接周さんの肌に触れたい。その逞しい腕に包まれたい。周さんの問いかけに僕は夢中で頷き、腰を擦り付けた。もう羞恥心なんてどこかにすっ飛んでいて、まるでスイッチが入ってしまったみたいに本能のまま周さんを求めてしまう。だって何日間一人で寂しい夜を過ごしたと思う? 情けないほどに僕は周さんがいないとダメダメなんだ。 「あっ?……あん」  不意に周さんに手首を強く掴まれ引き離される。鼻と鼻がくっつきそうなほど顔を近付け、周さんは優しい声で「落ち着け」と僕に言った。 「エロい竜太も捨てがたいんだけどさ、まずはカレー! 俺、頑張って作ったんだよ? 竜太に食べてもらいたい……」 「あ……あっ! ごめんなさい! 僕ったら……」 「飯食ったら、会えなかった分じっくりと可愛がってやるから」  周さんに言われて我に返る。ジワジワと恥ずかしさが込み上げてきて、逃げるように洗面所へ駆け込んだ。   「……なにやってんだ、僕」  改めて鏡で自分の顔を見る。少し汗ばんで、わかりやすく欲情している自分が恥ずかしい。心の中で「落ち着け落ち着け」と何度も繰り返し、昂った熱を冷ますべく服を脱いだ。 「周さん、先にシャワー浴びちゃっていいですか?」 「おう、カレーあっためて待ってるわ。ごゆっくり〜」  周さんだってきっと疲れているはず。それなのに僕と会うために真っ直ぐここに来てくれて、おまけに買い物と食事の用意までしてくれていた。なんて僕は幸せ者なんだろう。  一日の汚れを落とし、幾分頭もすっきりした僕は、部屋着に着替えて周さんの待つリビングに戻る。さっきは感情が一気に爆発してしまって、周さんに「おかえりなさい」も「ただいま」も言っていなかったことに気がついた。 「周さん……あの、お帰りなさい」 「ん? 竜太もおかえり」 「ふふ、ただいま」  今頃かよ、と笑う周さんに僕もちょっと苦笑い。 「ちゃんと言えてなかったから」  そう伝えると「律儀か! まあ早く食おうぜ」と周さんは僕に椅子をひいてくれた。  照れ臭くてしょうがない。あんな姿を見せてしまったばかりだというのに滑稽だな、と大人しく席に着く。テーブルには周さんが作ってくれたカレーとサラダがきちんと並んでいて「どうだ」と言わんばかりの得意げな顔が僕を覗いた。そんな顔で見られたら、どうしたって笑ってしまう。幸せすぎてこれまでの疲れが一気に吹き飛ぶようだった。

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